ぶんき書店にて
自宅からぶんき書店には十分ほどで着く、俺は駐車場に車を停めると素早く車から降りて後部座席のドアを開けた。
颯爽と降り立つ耕介を見てるといつも思うことがある。
『もっと平等に生まれてたらな』ってな。
不公平過ぎるだろ!生まれもっての金持ち育ち、顔立ちには品が備わってるし、いいもん食って背も高い、どこを割ってみたって絶対に優れてるんだから、
俺はぼーっと空を見上げるんだ。悔し涙が溢れないように……なんてのは嘘!
俺は俺なんだから、誰がなんて言おうとも、この世に千緒はひとりしかいない!
耕介が歩き出した。京仁も一緒に本屋の入り口に向かって歩く。俺は慌てて、愛車にロックかけて追いかける。いつもいつも置いてけぼりだ。
店内に入ると、取り敢えず店員さんに目を向けるんだ。
案の定、二人に注目している。二人を目で追いながら隣の店員に声をかけて、そして全員の視線が注がれる。
『ねえ、誰も俺の事、見てくれないんだけど』
二人は立ち止まって新装した店内を見渡している。
天井から吊り下げられている棚には絵のような模造の本が飾られている。空間を上手く使ってるもんだな。
店内の中央には舞台が設置され、その横には柔らかそうなクッションが敷き詰められていて子供の遊び場となってる。
その周辺にはソファや椅子が置いてあって座って読書もオッケーのようだ。
「立ち読みお断り」なんてのは……もう時代遅れ、忘れ去られた
以前レジだった場所はカフェのカウンターになっていた。ショーケースにはケーキが陳列さられていてどれも美味しそうだ。
カフェテーブルや椅子もお洒落な感じ、すでに客でいっぱい、
「いまどきの本屋だ。これが今どき本屋、これが当たり前、どこも、かしこもこんな感じ」
二人は新刊の棚を目指して歩き出す。俺はあっちこっち見ながら二人の後に着いていく、
「ん……」
耕介が新刊の平積みされている文庫本を手に取った。彼女の新作あったんだな。
俺はそそくさと耕介の肩越しから手に持つ本の表紙を見た。
「あれ、耕介君、これ、みゆきちゃんのじゃないよ」
「ああ……」
「耕介さん、どうしてこれを……」
京仁は耕介の手からその文庫本を手に取って表紙をめくり作者の紹介文書を読む。
俺は平積みしているところから耕介が取った同じ本を手に取って、
「
「はぁ……千緒……」
「なに、京仁くん」
「
京仁がすらすらと題名と作者の名前を読み上げた。俺は思わず、微笑して鼻を擦った。
「へぇぇ、これ、ひさしかって読むんだ。知らなかった。漢字って難しいしよね。読み方って色々だもんな。習ってない字も多いよね」
「ローマ字も読めないのか、習ってるはずだろ、ローマ字、ここに、ほら、ローマ字ふってあるだろ。小さな文字も見えないのか」
耕介は俺を見て言った。
このさりげなく一本調子の口調で言われるとすっごく傷つく、
耕介は京仁の手から本を取ると表紙をじっと見つめる。
「耕介くん。これさぁ、ファンタジー小説だよ」
俺は耕介の口癖『そんな世界はない』って言うから、
「これ、偽物の世界の話だよ」
皮肉な笑みを隠して思いっきり微笑んでやった。
「そうだな。ファンタジーな世界に浸る意味などないからな」
『浸る意味などない』浸る意味などない!なんか……なんか……なんか!ムカつく。
「そうでしょ。そうでしょ。それなのに、なぜに手に取るかな」
と言って耕介の持っている本を元に戻し顔を見上げる。
すると耕介は少し戸惑った表情をしていた。そんな耕介の腕を掴んで、京仁は奥の棚を指差した。
「本も増えてますね。ちょっと見て周りますか」
「ああ」
俺は二人の背中を見送って、俺はその本をちょっと立ち読みしてみた。
「そこは、どの時代ともどこの国とも呼べない、人知れずひっそりとした集落である。山里に囲まれた
俺はその本を持って耕介と京仁がどこへ行ったのか辺りを見渡してるといきなり尿意を催した。
本屋にくるとなぜだかシッコしたくなるんだ。ああ、もう、なんでだよ!一度、本を元に戻してトイレに向かう。
トイレの位置は変わってなかった。用を済まして、手を洗って服で拭く、京仁に見られると叱られるからさっさと拭いて、何事もなかったかのように服の裾を引っ張って整える。
さっきの文庫本の置いている棚に向かうとまたまたそこに耕介がいた。
「耕介くん、どうしたの」
さっきと同じように肩越しに覗き込むと八方位龍神伝説 逸話 長閑村編を手に持っていた。
「耕介くん、だから、それはファンタジー小説だってば」
「ああ、わかってるよ」
「じゃあ、どうして手に持ってるの」
「この文庫本、変だろ?」
と俺に本の表紙を見せた。
「はあぁ……変てなにが?普通の文庫本だけど」
「光ってないか?」
「えっ……今なんて言ったの」
「光ってないかと言ったんだ」
「光ってる……光ってなんかないけど」
耕介は表紙や裏表紙を何度もひっくり返してみている。その表情はいつもと違って困惑しているようだ。
まさか!頭おかしくなったのか?
「京仁はどこ?」
俺は本屋の中を走り回って京仁を探す。
「いたいた……ちょっと京仁くん、耕介が変だよ」
「耕介さんを呼び捨てにするなよ」
「ごめんごめん、耕介くんが変な事言ってる」
「変な事って……」
俺は京仁の背中をおして新刊の棚に向かった。
手に持った本をじっと眺めている耕介の横顔が微笑んでいる。その微笑み方は今まで見たことのない妙な笑みだった。
※※※
ここまで読んでくださった方へ
悩んだ挙句、更新していく事に決めました。作品を書いていくにあたって、色々悩みは絶えません。
この作品は希望やら、少々挑戦をしている作品です。なんとなくお付き合いくだされば幸いです。
作者の名前を使用していますがフィクションです。
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