道中の車中は静かなり

 俺は部屋着を脱いでジーンズに厚目の白いパーカーに着がえて、耕介の部屋のドアをノックした。


 すぐに耕介は部屋から出て来て、


「千緒、またその服か……」


 と見定めて首を傾げる。


「うん、いつも通り」


「服、買ってやろうか」


「いい、買ってもどうせ同じような服になるから」


 ハンガーラックにぶら下がる上着のほとんどがパーカーなのだ。気づくとおんなじ服ばかりなり、


 耕介はお洒落さんだな。


 なんていうのか服に興味のない俺は耕介が着ている服の種類はわからない。


 ジーンズに白のカッターシャツみたいなのにジャケットって名前なのか、なんなのかよくわかんないけど、そんな恰好で、まぁ、男前だからなに着てもかっこいいんだけど、


 俺は恰好なんてどうでもいい、服は着られりゃそれでいい派!


 階段を降りて玄関で靴を履いていると、


「僕も行きます」


 って背後から京仁の声がして上を見上げると、これまたお洒落な恰好やん。


「ねえ、京仁君、その服はなんて言う名前なの」


「名前?」


「そう!そのズボンと上に着てる服はなんて言うの」


「ズボンじゃなくてパンツ」


「パンツ?ブリーフ?トランクス?」


「はぁぁ、千緒……ズボンでいいよ」


 呆れた顔して、下駄箱から、またまた高そうなお洒落な靴を出して履いた。


「教えてくれてもいいじゃんか!」


「どうせ、訊いたって直ぐに忘れる千緒だろ。教えるだけ無駄」


「なんかさぁ、利喜りきと口癖一緒やね」


「って言うお前も梧平君に似て来たけど」


「俺も的場浩司みたいか!」


 と喜んでると。


「千緒、お前、しょっちゅう、まとばこうじ、まとばこうじって、その名前を言うけど、それ誰なの?」


 玄関を出て行く耕介の背中が言った。的場浩司を知らないのかよ!


「耕介君は的場浩司のこと知らないんだ。すっげーかっこいいよ。梧平君すっげー似てる」


「ふーん」


 って興味無いのかよ!


「車取ってくる」


 俺は車庫から車を出してエントランスまで出して停車させると京仁が後部座席のドアを開けてくれた。


 耕介が乗り込むとドアを閉めていつものように助手席に乗る。


「ぶんき書店、どんな感じに改装したんだろう。やっぱ今時のカフェに本屋みたいな感じ?本屋にカフェか」


 最近の新装開店する本屋はカフェが隣接されてる。どういうわけか、それが流行りなのか?俺は本屋は本屋だけてあって欲しい派!


「多分そうだろうな。平和台のぶんき書店もそんな感じだった」


「耕介君はどうして、ぶんき書店ばっかなの、他にも本屋あるじゃんか」


「……昔から行ってるからね」


 昔がつく時ってなんとなく話したく無いような口振りになる。


 その違和感に俺の胸はチクリとするんだ。


 それがどう言うわけでチクリとするのかわからない『ふーん』って思ってればいい事なのかも知らないけれど、なんとなく伝わる耕介の寂しさがその瞬間、俺の心を暗くする。


 それを察する京仁はすぐに話を変える。


「今日は新刊出てますかね。僕、OA(おーえい)の一冊買いたいんですよね」


 OA、なぜに彼をそう呼ぶのか俺には理解できない。普通に大沢在昌でいいんじゃねえって思うんだけど……。


「ねぇ京仁くん、大沢在昌のってさ、持ってるやつ買うんだろ」


「そうだよ。持ってるって言ってもハードカバーだから文庫本買わないと」


「中身一緒だろ」


「うん、一緒、それ以上言わなくていいからお前の言いたい事わかるから」


「いや!言わせてもらいます」


「言わなくてもわかるから」


「なんか、かけると話してるみたいだな」


 俺は今の名前を言った瞬間に京仁の事を見ない、だって睨んでるのがわかるから、視界に入ってくるその視線は絶対無視するんだ。


 翔と比べるとすっごく怒るんだもん!


「僕は翔では無い」


 単調な声、棒読みじゃんか、感情を抑えているのがわかる。って当たり前だし、


「耕介くんはどうせ、宮部みゆき」


「ああ、新刊出てたら買うよ」


「だけどあの人すごいよね。次から次へと新作書いてさ」


「ああ、ファンとしては嬉しい限りだ」


 こうして三人でぶんき書店に向かう。

しかしながら、道中の車中はとても静かだ。


 この中で一番お喋りは間違いなく俺なんだけど、話したところで、耕介も京仁も無口なだけに会話が続かない、だから俺も黙って運転に集中する。


「本屋のあと、どうしますか?昼食はラーメン食いたいんですけど」


「いいよ」


 ほらね。返事だけ、あそこのラーメン屋がいいとか、こっちのラーメン屋がいいとか、ないのかよ!ってないんだよ。


 だからいつも行くラーメン屋は同じ店になってそのうち常連客になって、顔見知りになって『バイトしない?』とか言われる始末。


 サービス業に向いてるって言われるんだ。

もちろん俺の事だよ。


 どうもあの大将は自分の娘と俺を結婚させて店を継がそうとしてるみたいなんだ。


 いい迷惑だよ。大将の娘さんって好みじゃないんだよな。


 だって、どう見たってドラえもんに出でくるスネ夫みたいな顔してるんだもん。







 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る