侵入者を御用!

 闇の中の廊下にはドアのステンドグラスからチラチラと灯が見える。懐中電灯のようだ。


 何人いるのか不確かだけど、何人いようが恐怖心はない。


「書斎ってここだったよな。ここに金庫があるんだろう」


「誠の奴、リフォームの時に見たって言ってたから間違いない」


 侵入者のヒソヒソと話しが聞こえてきた。誠って誰だ?リフォームって事は業者の中の誰かだな。


 けどね……この部屋に金庫はないのだよ。


 ドアが静かにゆっくりと開く、真っ暗闇の部屋だから侵入者は誰もいないと思い込んでいるようだ。警戒心の中に隙がある。


 足音に耳を澄ませて人数確認するのは勿論俺だけじゃない、みんなだ。


 その時、懐中電灯の灯が侵入者の正面に立っているさをりの足元からゆっくりじわじわ顔面を捉える。捉えた瞬間に、


 「オバケ!」と悲鳴を交えて言ってはいけない発言をする。馬鹿な侵入者だ。


「オバケってさ」


 梧平が笑いながら言うもんだから、


「誰に向かってオバケって言ってんだ。このクソやろー、あたいを舐めてんのか!」


 俺は素早く部屋の電気をつける。侵入者は三人だ。


 さをりは目を釣り上げて。躊躇う事なく、

目の前の男の持つ懐中電灯を振り払い、顔に一発パンチをくらわし腹にも容赦なく膝が入った。


「うぇっ!」


 腹を抱えて膝をついてうずくま男はそのまま床に額をつけたまま動かなくなった。


「誰がオバケだって、命取られなかっただけ有り難く思え馬鹿が!」


 ドスの利かせた声はまるで、


 オ・ト・コだよぉう!


 さをりは男の背中を蹴っとばした。仰向けになったそいつは意識を失っている。


 かわいそうに……。まぁ自業自得だけど、


 二人目の男は逃げようとした瞬間に梧平に捕まりボコボコにされて両手を頭上に上げて降参。鼻から血がたらりと垂れそうになる。


「鼻血!床に落とさないで!」


 俺の叫びに即座に反応した男は手のひらで鼻を覆った。後の掃除が大変なんだぞ!


 俺は素早くドアを閉めて逃がさない。


 三人目の男は胸元からファルディングナイフを取り出して俺に突きつけた。


 ナイフがきらりと光る。


「そこ、どけろ!」


「それ軍用ナイフ……だろ。そんなのわざわざ買ってきたのか?ねぇ卑怯じゃない。ナイフってずるい〜。素手、素手でやろう」


 俺は両手を見せて、


「素手!素手でやろうよ」


 と誘ってみたけどダメだった。


「ドアを開けねえと……」


 背後を全然気にしてない。まったくもって隙だらけじゃん。


「やあ!」


 と翔の声が響いた瞬間ナイフを持つ男の手首に木刀の先が振り落とされた。


「うわつ!」


「技あり!」


 と翔が言った瞬間にナイフが床に落ちたから素早く蹴っ飛ばす。


 シュルシュルシュルと床を滑って陸人の足元で止まった。ナイフを拾ってじっくり見ている。


「いいナイフだな」


 と言って俺を見て、折りたたみながら、


「これ貰っていい?」


 と聞くから、


「いいんじゃない」と俺は応えた。


「手首が〜」


 侵入者が手首を押さえて痛みにうめいている。


「大丈夫、骨は折れていないからね。折れるほど叩いてないよ。すんでところで止める。それが技だから、だけど今日は打撲って事で、ナイフ持ってる君が悪いんだからね」


 と満面の笑みでVサイン。


 その後、警察を呼んで一件落着。


 刑事は陸人の手からナイフを受け取ろうとしたけれど陸人に強く握られてるナイフは中々刑事の手に渡らない。


 刑事と引っ張り合っている姿を見て耕介は笑っていた。


 渋々、名残惜しそうに指をゆっくりと開くと刑事は、ほっとした顔をして、


「ありがとうございます」


 と言って部屋を出て行った。


「いいナイフだったんだ」


 と残念そうに呟く陸人にみんな笑った。


 それがきっかけで寝室のところにセキュリティドアがひとつ設置されたという理由わけなのさ。


 寝てる間に襲われたらどうにもならないもんね。


 まぁ、その前にみんな目は覚ますと思うけど、念には念をということで、


 そして耕介の書斎兼秘密基地の窓には鉄格子、二重ロック、ドアにも鍵をつけて中から施錠する様になった。


 トイレは二階の奥にあるから安心だし、其々寝室には小さな冷蔵庫と電気ケトルも置いた。


 これで長い夜も一安心さ。

 至れり尽くせりだろ。

 住みたくなるってわかってくれる。


 で、耕介はみんなのためにいきなりガードマンを雇うと言い出した。


 けれど、利喜りきが年間の経費を算出し無駄だと言って却下した。

 稀に、ぼんぼんが顔を覗かせたりする。我儘では無いにしても金銭感覚が俺らと違う。


 梧平は耕介の世間離れしているとことは「仕方ねえからな」と「大目に見てやってや」と微笑む。

 

 梧平はなんとなく気を配っていて、素っ気ない態度だけれどしっかりと見守ってる。


 それは、先代の社長に頼まれたからだ。俺と二人っきりになるとポロポロと口から漏れ出るんだ。『耕介はんは俺がそばに居ねえと駄目なんやで』って、だから俺はそれをそっとこの手のひらで受け止める。


 みんな耕介を愛してるんだよ。

 愛してやまない耕介さん。


「あいらぶ⭐︎耕介」


 俺の日記の題名、わかってくれたかな。



 男所帯の一本島家、

 ひとりが女がいるだろうってか、

 女というのは姿形すがたかたちだけたから、惑わされないでね。


 さをりはまさに男の中の男だから〜。


 遊びに来たくなったら、

 是非来てください。


 いつでも大歓迎するよ。


 





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