家族の紹介
朝食を済ませたら片づけに取り掛かる。食洗機は使わない主義、
俺はやはりスポンジを泡立てて食器を丁寧に洗いたいんだ。
拭きは
これが終わると自部屋の掃除をする。
週一の自部屋清掃は厳守である。
潔癖症の京仁が作ったルールなんだ。
もしこのルールを破ったら監視の下、
【毎日掃除】が科せられる。毎日、自部屋の清掃なんて、めんどくさいし、やってられない、だからこそルールを守るんだ。
ここらでちょいと其々の役割分担とか説明しとこうかな。
役割は秘書兼耕介世話係……これも結構大変なんだよ。
あれやこれやと細かな気配り配慮が必要なんだ。京仁にしかできないだろうな。
庭師兼風呂トイレ掃除係、掃除用具はこだわり過ぎ、細か過ぎ、説明好き、だけど、それに文句を言う奴一人もいない。
顔に似合わず完璧主義者。
経理部主任㊀兼朝晩食事係、一流大卒の秀才はなんでもこなす。計算が早くて暗算得意とする家計簿付けてるマメな奴。
さをり、三八歳、
経理部主任㊁兼一階の清掃係、女だてらに俺と同じ百七十六センチ、鼻っ柱が強くて愛想のかけらもない、その上、
これでも女か……マジやばい奴、
雑務全般兼一階清掃係、電話番、お茶汲み、接客、所謂パシリ、読書家というだけあって漢字に強い、頼りなげだが竹刀や木刀を持つと変貌する。
総務部長兼バリスタ資格保持者、くそ真面目で敬語を崩さず、羽目を外さず寡黙な紳士。
俺のこと、運転手兼朝晩食事係、耕介のお守りとか色々だな。
この
一本島邸は敷地面積も広くて兎に角大きなお屋敷なんだ。庭も広くて奥には畑の跡地もある。三年前に庭を潰してそこに新社屋を建設した。
俺は耕介の運転手にしてもらった時点で、ここに来たんだ。天涯孤独っていうほどでもないけど行くあても無かったから……。
屋敷の裏の寄宿舎に住まわせてもらったんだ。そこには、先代社長に拾われた先住人の梧平がいた。梧平はかなりの古株なんだ。
で、新社屋オープンの前日、みんな揃ってここへ引っ越して来ることになり、本宅の二階の広間を区分けしてみんなの部屋を造ったんだ。
民族大移動みたく、一台去ってはまた一台と計五台の2トントラックが時間を調整してスムーズに引越しを完了させた。
これは京仁と
今時、そんな一緒に暮らすなんて面倒くさそうで嫌だな、なんて思うでしょう。
そんな事言ったって、みんな引越して来たんだもん。耕介が誘ったわけでもないんだよ。
とにかく一度来たら住みたくなる様な屋敷なんだよね。
だってさぁ、目が覚めた。飯食った。出勤時間だ。さぁ出勤だ。一分歩いた。会社に着いた。仕事始めようって、
超楽チンじゃん! 近すぎる〜。
という事で……。
自部屋の掃除をするとしますかね。
俺の寝室は二階にある。っていうか、みんなの寝室は二階に集結させている。
先ずは、二階の案内をしようかな。
階段を上がってすぐに小さなラウンジがある。ここはなんとなく物思いに耽る瞑想部屋みたいな感じ、
最初のドアを入るとそこはリビング、パソコンやテレビ、マッサージ機、ケイタリング、本棚、畳の間があって寛げる部屋となってるんだ。
スクリーンを下ろせば映画も観れるよ。
通称、憩いの場、みんなそう呼んでいる。
長い廊下の一番奥を突きあたった所が、男子トイレ、トイレ、女子トイレと風呂、風呂、風呂と並んでいるんだ。
水回りの手前の右の角の部屋が耕介の寝室、その横が俺、京仁、さをり、物置で、
左側の奥から客室、客室、梧平、
それから、廊下には一つ関所あるんだ。
無論、会社と家屋には警備のためにポジマがしてある。
ちなみに【ポジマ】ってのは、うちの系列の警備会社のこと、みんなが周知しているセコムさんと同業ね。
さっき言った関所っていうのは、特別なセキュリティーシステムなんだ。
この装置を設置したのには
そう、ちょうど一年前、事件は起きた。
昨年の今頃、
うちは深夜二十二時になると自部屋に戻る決まりになっている。
食後はみんなで食器を下げる。俺と利喜と翔の三人で一気に片す。
その間、みんなは食後の一服や珈琲タイム俺たち待ちなんだ。
みんな揃って一気に風呂に入る。光熱費を節約するためだよ。
耕介には耕介専用の風呂があり、俺らが一度に入浴できるようにと小さめの銭湯みたいな風呂を作り、さをりには女子専用風呂も作った。
あれが女と言えるのかどうか疑問だけど形は女だから仕方ない。
長風呂好きもいれば
人それぞれだから入浴している時間はばらばらだ。
風呂から出たら二階の憩いの場にて
で、二十二時になるとみんなで憩いの場を出る。誰かが残るっていう事はない。
ただ体調次第で早く部屋に戻る事もある。それは自由だけど、なんとなくみんな、憩いの場にいる事が多い。
「時刻は午後十時、時間やで」
梧平の声かけで居心地の良いソファから重い腰を上げる。
「
「はーい。わかったよ。京仁君……は何するの」
「明後日の会議の資料作り」
「ふーん、わかりました」
部屋のドアノブに手をかけて、
「おやすみ」
と、耕介が言う。
「「おやすみなさい」」みんなで斉唱。
部屋に入る時って耕介が入りきるまで、みんな耕介の背中を見つめている。
別に誰かがそうしようと決めたわけじゃないけど気づくとみんなそうしていた。
耕介が部屋に入るのを見届けて部屋に入ったはいいけれど、寝る気にならない。
こんな深夜に何をする。本を読む。本を読みたくなって、忍足で部屋を出て廊下を歩き耕介の部屋のドアを静かにノックする。
「入りまーす」
と小声でドアを開けて中に入ったけれど、ベッドに耕介の姿がない、奥のドアを開けて下を見ると一階の明かりが見えた。
耕介の部屋って寝室の下に部屋があって直接行ける階段が付いていてるんだ。
階段を下りかけて腰を眺めて覗き込むと耕介がソファに座って本を読んでいる。
「また俺の寝室勝手に入ったな」
「ノックしたけど返事がなかったから、ここだと思って」
俺は耕介の前のソファに座った。
「本、読んでもいいですか」
「ああ」
俺は子供の時から本を読むのが好きだった。というよりそれで寂しさを紛らしていたんだ。なにせひとりぼっちだったからね。
叔母は保育園経営で忙しかったし、おじも会社員で出張が多かった。甘えられる人なんて居なかったから、本の中に入り込んでいたんだ。
耕介の書斎には多種の本が並んでいる。絵本から歴史本まで見てもわからない経営学とか訳のわからない本もある。
相当好きなんだろうと思われるのは、時代小説、女流作家宮部みゆき作品が結構並んでいる。
俺もたまに宮部みゆきの作品も読む。
だけど、やっぱファンタジーものが好きなんだ心があったまる様な、寂しさを忘れられる様な、子供の頃はファンタジーの世界にいたんだよ。
だけど、残念ながら、この部屋の本棚にはファンタジー小説は一冊もないんだ。
耕介はファンタジー小説を読まない。
なぜ読まないのって訊いたら、
「そんな世界はない」
って言ったんだ。
おいおい!そんな理由かよ……。
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