SCENE-008

 カガリのステータスで抱きしめられると、今の私にAWOでのステータス――主に耐久面――が反映されていたとしても全身骨折からの内臓破裂は免れないだろうことから、充分手加減されているとわかる苦しさに甘んじていると。そのうち、地上でわいわいやっているプレイヤーの中から飛び出した小柄な大剣使いが、〔天駆〕スキルを使い空へと駆け上がっていった。


「ようやくか」

 剥ぎ取りをしても素材としては二束三文にしかならないだろうな、というほど傷付いて。離脱時の速度も、舞い上がった時の高度も順調に落ちてきていたワイバーンが空を駆ける大剣使いに追いつかれ、片翼を根元からざっくり斬り落とされると。やれやれと言わんばかり呟いたユージンが、墜落するワイバーンの姿を最後まで見届けることもなく、くるりと踵を返して歩き出す。

「ジーン?」

 どこ行くの、と声をかける私に、ユージンはその肩越し、こちらを振り返りもせずひらりと手を振り返した。

「仕事だ。お前はそいつと帰れ」

 ……ひきこもりと、世界規模で世間知らずなモンスターのペアで?

「えぇ……?」

 いきなりすごい無茶振りしてくるな……と、私が何もわかっていなさそうなカガリと顔を見合わせているうちに。ユージンは人混みに紛れ、私を置いて行ってしまう。


 急な予定の変更。それ自体は、ユージンの仕事柄珍しいことではない。

 それはそれとして。せっかくの休みに仕事の連絡を受けて、ユージンが舌打ちの一つも零さないまま、すんなり出かけて行った、というのが違和感で。

 ……まさか……。

 むしろ、最初からその予定だった、と言われた方が納得できるユージンの態度から色々と察しがついてしまったのは、偏に、義理の兄妹としての付き合いの長さの賜物だろう。


 別に気付きたくもなかったけど。




 ユージンが勤めているヘクセンシュウスは、イユンクスと同じマレウス・マレフィカルム社のグループ企業だ。

 グループ全体の警備業務を担っているヘクセンシュウスで、それなりの要職に就いているユージンが何も知らなかったと考えるより、今日ここで起きることを知っていて、その上で私にくっついてきていた、と考える方が余程自然で。

 なんならこの手のカモフラージュというか、仕事の下見や、ユージンが一人ではまず行かないような場所へ入り込む口実に使われるのは、これが初めてのことでもない。


 ……こんなふうに途中で放り出されるのは、さすがに初めてだけど……。

「家まで帰り着かなかったらどうしてくれるのよ……」

 カガリがいればどうにかなる――というか、カガリがどうにかする――だろうと思われていることにも、なんとなく察しがついてしまって。思わず溜め息が零れ出た。

「ミリー?」

「とりあえず、カガリは私がいいって言うまで〔擬態〕を解くの禁止ね」

「うん。……人の振りをしてればいいの?」

「そういうこと」

 物分かりのいいカガリの頭をさらりと撫でて。今度は面倒臭さが前面に出た溜め息を吐き落とす。

「帰りもジーンのバイクに乗せてもらうつもりだったから、なんの準備もしてない……今からタクシー呼んで乗れるかな……?」

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