SCENE-004 >> 〔眷属召喚〕

「は……?」

 聞き捨てならない誰かの言葉に、現金な意識が戻ってくる。

「スキルが使える……?」

 そんな馬鹿なと笑うより先に、その言葉は私の口を衝いて出ていた。

「――サモン、ファミリア」

 初期職ファーストジョブ使役士テイマーが生えた私にとって、馴染み深いスキルコールが。


 ――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより〔サモン・ファミリア〕がコールされました。

 ――召喚の対象を指定してください。


「カガリ、来て」

 と示した手の先で、風が唸りを上げた。

 ……魔素が動いてる。

 幻世では当たり前でいて、現実ではありえないはずの知覚。


 スキルコール一つでお手軽に実行される魔導の力インスタント・マギ

 普段は使っていることを意識することもないゲームシステムの介在によって機械的、かつ半ば強制的に引き出されていく魔力の存在に気付かされた途端、それまで感じていた不調の全てに説明がつくことにも気付いてしまって。思わず乾いた笑いがもれた。

 ……大規模儀式魔術による魔力の干渉……つまり、さっきまでのは『魔力酔い』だった、ってこと……?

 ここは現実世界リアルなのにと。常識人いいこちゃんぶった内心の反論は、この期に及んで説得力の欠片もなかった。

 理由さえわかってしまえば、対処のしようもある。

 AWOの舞台となる世界――幻世――では生きとし生けるものの『魂が生み出すエネルギー』と定義されている、世界の有様を歪める『力』。

 スキルを使うことによって、現実の世界では初めてその存在を認識することができた自前の魔力を、AWOゲームのなかと同じように意識して。肉体という『いれもの』から取り出した魔力を、薄い膜を張るよう体の周囲にぐるりと巡らせる。

 そうすれば、壇上に残された杖――AWOの常識に当てはめて考えるなら、儀式の触媒として使われた法器ほうき――から今も継続的に放たれている巨大な魔力の波動に当てられ、様々な不調を訴えていた体の調子も、とりあえず、これ以上の悪化は避けられるはずで。


 幻世ならぬ、現世には魔法はおろか、魔力なんてものありはしないのに。大真面目にそんなことを考えて、実践して。実際に、いくらか気分がマシになったような気がしている。――そんな自分がおかしくてたまらなかった。

 ……気付かないうちに電脳ドラッグでもキメさせられて、ラリってるのかも。

 それでもいいと、自分の正気のほどが気にならなくなってしまうくらいには。それからの展開は、私にとって心躍るものだった。

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