SCENE-003 >> 変わる世界
――『World Re:Birth Project』は第三フェーズを完了しました。
――VRMMORPG『AnotherWorld-ONLINE-』を開発運営するイユンクスに代わりまして、世界統合機構マレウス・マレフィカルムより、
……
ゲームの中では聞き慣れた、実体のない音。
鼓膜を震わせるのではなく、頭の中で直接響いて聞こえるその声が意識に届いた途端、体の不調はどこかへ吹き飛んで、気にならなくなってしまった。
……イベント中は電脳をオフラインにしてたのに、AWOのシステムアナウンスが聞こえてくるなんて、おかしい。
そんなことは、ありえない。
ありえないはずのことが起きたということは、そこにはなんらかのトリックが存在しているはずで。
……電脳をハックされた?
『訳のわからない事態』の中に、辛うじて『対処可能な要素』を見出して。状況に流されるままだった意識がカチリと切り替わる。
現状で一番『あり得そうなこと』――電脳領域への不正アクセス――を真っ先に疑い、実行したセルフチェックの結果はいたってクリーンで。念のため、電脳領域のより深いところまで潜ってハッキング――外部からのあらゆる干渉――の痕跡を探しても、結果は変わらなかった。
……ハッキングはされてない……?
もしも一連の不調が電脳をハッキングされたことによるもので、その痕跡を見つけることが出来たなら。まだ、気の持ちようもあったのに。
肝心の痕跡が見つけられないとなると。仮に電脳をハッキングされた事実があったとしても、どのみちその犯人は、私の手に負える相手ではない。
それ以前に。セルフチェックの結果が正しくて、そもそもハッキングされていない、なんてことになれば、いよいよお手上げだ。
……なんなのよ、いったい……。
状況を打開できるかもしれないと期待してしまった分、落胆も大きくて。
ほんの少しの間、忘れていただけの不調がぶり返してくる。
「幻聴まで聞こえてきた……私、もう駄目かも……」
「はぁ? 幻聴? お前、何を言って――」
そろそろ諦めていいだろうかと、気を抜いた途端。泥のように重くなった体を、ユージンが遠慮のない力で揺さぶってくる。
「おいっ」
今はよせ、と気絶の邪魔をされているうちに、会場のどこかから聞こえてくる、見知らぬ誰かの、昂奮しきった声が耳に届いた。
「おい、スキルが使えるぞ……!」
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