(9)

 俺達は甲板への階段を駆け上がり……。

「妙だな……外が明る過ぎる……。それに……変な音がしてる。刑務官センセイ、まずは……俺が出ます。この合図をするまでは……」

 久米は、そう言いながら「行け」っという手振りをする。

「絶対に甲板に出ないで下さい」

「判りました」

 そう言って、久米1人だけが甲板に飛び出し……。

「ああ……やっぱりか……」

 次の瞬間、銃声……更に数秒後には……明らかに久米以外の誰かの悲鳴。

 再び、久米が俺達の視界に入って来た時には……奴は血塗れになっていた。

 もちろん、どう考えても奴の血じゃねえ。

「おい……出ていいのか?」

「顔だけ出せ……。とんでもねえ事になってる」

「何なんだ……一体……あっ……?」

 久米の言う通りにしたら……甲板が明るい理由が判った。

 光は……空から降り注いでいた……。

 光の源は……ヘリコプターと飛行機が合さったような代物……いわゆる複合ヘリコプターって奴だ。

 それも……おそらくは軍用機。

「けど……ローターの音が小さ過ぎませんか?」

「たぶんですけど……電動式のヤツじゃないですか? 2〜3年前に実用化された、って話を聞いた事が……」

「あと……そっちからは見えねえと思うけど、変だぞ……」

 久米が指差してるのは……船の進行方向から見て……左側。

「あっちにも……光が見える。何ていうか……町の灯りみたいなモノが……」

「おい……何言ってる? ここ……海の上……」

「ちょっと待って下さい……」

 姐さんは携帯電話ブンコPhoneを取り出し……。

「たしかに……この距離なら見えてもおかしくないですが……妙です……近付き過ぎてる。明らかに航路を外れてます」

 携帯電話ブンコPhoneの画面には……位置確認用のアプリ。

 拡大率は……さっきより上。

「どうなってんだ……?」

 たしか……今、ここの自治会・自警団と広島県全域を実効支配してる暴力団「神政会」との間で緊張が高まってる最中なんで……安全の為、このフェリーは沖合の航路を取る予定だった筈だ……。

 だが……このフェリーは……日本各地に点在する「紛いモノの東京」の1つに近付き過ぎていた……。

 厳島沖に有る「NEO TOKYO Site02」……通称「渋谷・新宿区」に……。

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