(3)

「やっぱ、何か、おかしいっすよ」

「けど、『地元』に送還させないと、向うの警察が台東区Site04の3つの自警団全てに訴訟を起こすって言ってるんですよ」

 俺の指摘にあねさんはそう答える。

 俺達は「フカヒレ加工の職人さん達」を称する(本人達が、そう言ってる訳じゃないが)十数人のベトナム人(多分)と共に、民間のフェリーに乗り込んだ。

 夜の7時頃に博多港を出発。

 途中、門司もじと神戸……そして、「本物の首都圏」の中でも一〇年前の富士山の噴火による被害が(相対的に)少なかった千葉の銚子に寄港し、丸1日強かけて翌日の深夜に茨城の大洗に到着する。

 なお、自称「右翼系政治団体」(実質はヤクザ)である神政会が実効支配している広島と、カルト政党「獅子の党」による一党独裁体制の元、「シン日本首都」を称して、半ば独立テロ国家と化している大阪は、当然ながら避ける航路となっている。

 そして、大洗で「地元」の県警が「フカヒレ加工の職人さん達」を迎えに来る手筈になっていた。

「大体……身元の確認はどうやったんですか?」

「向こうの県警は我々を信用してないようで……名前その他の個人情報は教えてくれませんでした」

「まぁ……自警団同業者中には……ヤクザ紛いのも居ましたしね」

「お前が言うか」

 久米からツッコミが入る。

「うるせえ、本物ガチのヤクザ」

「ただし、全員に汎用タイプの個人識別ICタグが埋め込まれていて、それで確認を行ないました」

「疑い出しゃあ、キリがない状況ですか……」

「まぁ、確かに……」

「で、どうなんだ『教授』? あいつらの様子は……」

 久米の野郎は、そう言って船内レストランの近くの席に居るベトナム人(多分)達の方に目を向ける。

 奴の前には、一番高価たかい定食にステーキセット。だが、他のメンバーの約倍の量の飯を、一番早く喰い終っている。

 一番多い量の飯を一番早く喰い終ってるだけじゃなくて……何故か、今回は、マナーも俺達の中では一番御上品だった。

「英語が出来る人と話した限りでは……何か……僕達の事をヤクザか何かだと思ってるみたいです」

 ベトナム人(多分)達は、食事を注文してはいるが……あまり、食は進んでないようだった。テーブルに置かてれる料理が、さっきから少しも減っちゃいねえ。

「似たようなモノだ……待てよ……迎えに来る地元県警とやらはマトモなのか?」

「へっ?」

「富士の噴火で首都圏が滅んでから、各県警の質はピンキリになっちまった。そこの県警は……マトモなのか? 今時、ヤクザの方が良心的な県警なんて山程有るぜ」

「判りました。仙台沖の『豊島区Site03』の自警団に情報の提供を依頼しておきます」

「そもそも……何か……引っ掛か……あっ……」

「どうした?」

あねさん、中国本土・台湾・香港の全部でフカヒレの取引が違法化されたのに……どこにフカヒレを売る気だ……昼間にそう言ってましたよね……」

「あっ……」

「やっぱりか……」

「あの……どう云う事ですか?」

 何故か、一番頭がいい筈の「教授」だけが……裏に有るかも知れないロクデモない事態を推察出来てないようだ。

「だから、?」

「やれやれ……ところで……酒頼んでいい?」

「駄目です」

「いや、俺、高速治癒能力とやらの副作用か何かで……1時間で酔いが覚めるから」

「駄目です。我々もお役所仕事なんで、正式なルートで飲酒願いを提出して受理されるまでは、絶対に駄目です」

「やれやれ……じゃあ、デザートに丸天うどん」

「おい、『狼男』。まだ食う気か?」

「だから……御上品な食事は喰った気しねえんだよ」

 何で、こんなのが、娑婆に居た時、俺達ん中で一番いいモノ喰ってたんだよ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る