(4)

「あの……『教授』、ちょっといいですか?」

 そろそろ寝ようかという時間帯になって、俺達3人がブチ込まれてる部屋に姐さんがやって来た。

「どうしました?」

「今日の報告書を『上』に送ろうとしたんですけど……何故かエラーになって……」

 そう言って、姐さんはモバイルPCを「教授」に渡す。

「ちょっと待って下さい……」

 「教授」の娑婆に居た頃の専門は生物学……特に脳科学だったが、理系の学者だったせいか、この手の事は、俺達の中で一番詳しい。

「えっと……このフェリーのWi−Fi経由で送ろうとした訳ですか?」

「ええ」

「機器トラブルらしいですね……このPCじゃなくて、フェリーの方の……」

「と言うと?」

「船内のWi−Fiには繋ってますが……外部にPingが送れないですね……」

「じゃあ、フェリーの職員に……ん?」

「どうした、刑務官センセイ?」

 姐さんは、自分の携帯電話ブンコPhoneを取り出した途端、妙な表情かおになった。

「偶然だと思います、これ?」

 そう言って俺達に向けた携帯電話ブンコPhoneの画面では……。

 アンテナが立ってない。

「後藤さんと『教授』は……ボディ・アーマーとガスマスクを装着して下さい」

「はい」

「了解」

「俺も変身しといた方がいいかい?」

 久米は、そう言いながら、シャツを脱ぐ。

「お願いします」

 姐さんはモバイルPCを操作し……。

「これ……どう云う事ですか?」

 護送対象のベトナム人達には……GPS付の足輪を付けてる筈だった。

 だが……PC上で起動されたアプリの画面には……全員分がエラーの表示。

「ちょっと待って下さい……信号が届いてない?」

 「教授」が画面を見ながら、そう言った。

 すう……。

 姐さんが深呼吸。

 それと共に……微かな「気」が放出される。

「8人……。4人づつの2手に分れて、この部屋に近付きつつあります」

 人の気配を感知する「魔法」だ……しかし……。

 これは……いうなれば……レーダーや潜水艦のアクティブ・センシング……場合によっては、相手にこっちが「気」を放った事を気付かれる。

「敵は……その……?」

「『気』の量・パターンからして……同業魔法使いじゃ有りませんが……『魔法』を阻害する護符を使っています」

「じゃ……物理攻撃で……」

 俺は両手に強化プラスチック製の棍棒を握る。

 折り畳んでいる状態では六〇㎝ほど……延ばせば、いわゆる「六尺棒」サイズになる。

「いくぞ……」

 狼男形態になった久米が部屋のドアを開け……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る