第一章:チキンラン

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「あの〜、昨日、『英霊顕彰会』からガメた……」

「後藤さん、せめて『押収した』と言って下さい」

 そう答えたのは俺が娑婆に居た頃の同僚であり、この「御徒町刑務所」の管理職クラスの刑務官を兼ねている通称「摩由璃」だ。

 もっとも、これは小説家や漫画家のペンネームやヤクザの「渡世名」や「正義の味方」どもの「コードネーム」みたいなモノで本名じゃねえ。

 日本各地に4箇所有って、5つ目と6つ目がそろそろ出来上がる「東京の名を騙る人工島」の多くでは、年を追う毎に無能になっていく警察でも、「本土」のような「正義の味方」でもなく、「自警団」により治安が維持されている。

 どう云う訳か、「紛物の東京」では、各地区の名前の由来になった「本物の東京」の「どこか」にちなんだ自警団が一般的で、例えば、「Site01」こと「千代田区」の秋葉原地区では特殊車両ヴィークル強化服パワードスーツなんかのメカ系を好んで使う連中が「自警団」をやっていて(ただし、正確には過去形)、広島沖に有る「Site02西」こと通称「渋谷区」の原宿地区を拠点とする「原宿Heads」はヒップホップ系のミュージシャンやブレイクダンサーのような格好をした奴ばかりだ。

 そして、壱岐と対馬の間に有る「Site04」こと「台東区」の「自警団」は3つ。

 浅草地区が、浅草寺の本尊が観音なのにちなみ、千手観音に仕える二十八人の武神のコードネームを持つ「二十八部衆」。こいつらは戦闘要員の定員が、たった二八人だが、その1人1人が、他の自警団の基準では「エース級の中のエース級」。かつて、人数・経済力では「2位に大差を付けた、ぶっちぎりの1位」だった「千代田区」の九段地区の「英霊顕彰会」とは別の意味で「最強の自警団」だ。

 入谷地区は、「本物の東京の下谷」の名所だった下谷七福神にちなんだ「入谷七福神」。密教系・神道系・修験道系・日蓮宗系・陰陽道系・民間信仰系・降魔武術系と「明治以前から日本にある流派」と云う以外共通点が無い様々な流派の「魔法使い」が所属する七福神の名を冠した7つのチームから構成されている。

 上野地区は、「本物の上野」に有った寛永寺の一九の「子院」の名を冠する「2次団体」が集った「寛永寺僧伽」で、こっちは「魔法使い」系がメインなのは、他の2つと同じだが、ほぼ全員が天台密教系だ。

 そして、俺達がブチ込まれてる刑務所が有る御徒町地区は、他の3つの地区の自警団により共同管理されていて……4つの「NEO TOKYO」の二一の地区の中で、唯一警察がマトモに機能していた「千代田区」の有楽町地区に代って「4つの『東京』の残り十個の『自警団』」にとっての「中立地帯」となりつつある。

 ちなみに有楽町地区の警察のほぼ全戦力を、たった1人で壊滅させて、「NEO TOKYO」の自警団の力関係をややこしくしやがったのが、久米の阿呆だが。

 もっとも、あいつは、元々は「本土」のヤクザなんで「NEO TOKYO」の事情なんざ良く知らないし、知ってても考慮してやる気も起こさなかっただろうが。

「じゃあ、その『英霊顕彰会』から『押収』したフカヒレは全部、廃棄っすか? もったいねえ」

「中国本土・台湾・香港、全て、自然保護の観点からフカヒレの取引は違法です。ついでに、九州本土と琉球でも、違法になる見込みです。一体、どこに売れるんですか?」

 摩由璃「あねさん」の守護尊は「孔雀明王」で、俺の守護尊は「烏枢沙摩明王」であり、実は得意な術は、ほぼ同じ「周囲の『邪気』を浄化して自分の力として取り込む」だ。その際には、気・霊力の量は、一時的に普段の数倍に増え、一般人は愚か、並の「魔法使い」なら、触っただけで戦闘不能に出来たり、久米ほどじゃないが、多少の怪我なら瞬時に治癒する事も可能になる。

 もっとも「守護尊」が実在するかは……俺達にとっても不明で、「気・霊力のタイプや得意な術の系統を一言で言い表す為の『記号』」と割り切ってる流派も有るらしい。

 そして、技量はあねさんの方が上……他の奴からすると、どっちも化物チートだが……俺は残念ながらあねさんの……ネットジャーゴンで言う「下位互換」だ。

「何で、単なる犯罪組織に零落おちぶれれたとは言え……元は『NEO TOKYO』最強の『自警団』が、あんな真似やってたんだ?」

 久米が、そう質問をする。

「ここ1年ほどの間に、どんだけ無茶苦茶な事が起きたと思ってるんですか?『英霊顕彰会』も、以前より大幅に弱体化した状況でも可能な『商売』を始めざるを得なくなったんですよ」

 そうだ……あの「千代田区」の4つの自警団と「本土」の「正義の味方」ども……そして対異能力犯罪広域警察機構「レコンキスタ」の最強兵力「白き騎士ホワイト・ナイツ」までも巻き込んだ通称「NEO TOKYOの最も長い夜」事件は、「千代田区」のみならず、他の3つの「紛物の東京」にも大きな影響を与えた。……多分、どこへ向かうかは不明だが、後戻り不可能なのだけは確実な形で……。

 そして、「NEO TOKYOの最も長い夜」事件で一番エラい目に遭った「英霊顕彰会」は組織の維持の為、これまでの「観光業」をメインにした殿様商売からチンピラみたいな商売シノギに手を出し始めた。

 その1つが「フカヒレ目的のサメの密漁」だ。

 もし、北米連邦アメリカのZ級映画みたいに、嵐でサメが降って来る事が有れば、「英霊顕彰会」にとっては恵みの雨ならぬ恵みのサメだろう。

「では、貴方達、チーム『野蛮なるブルータル正義ジャスティス』の次の任務です。『英霊顕彰会』が東北地方から誘拐してきたフカヒレ加工の職人さん達を地元に送還する必要が有るので……地元まで護衛して下さい」

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