Brutal Justice & Stupid Injustice / 第一部:我ら、お間抜け囚人部隊

@HasumiChouji

プロローグ

We Were Soldiers

『もう久米さん1人でいいんじゃないですかね?』

 後方支援要員の「教授」は無線通話でそう言った。

 かつては日本各地に点在する4つの人工島「NEO TOKYO」の中でも最強自警団だった「英霊顕彰会」の残党どもも、おちぶれる所までおちぶれていた。

 たった1人の狼男が、「英霊顕彰会」の兵隊たちを血祭りに上げ、整備不良の遠隔操作型のロボットをスクラップにしていく。

 もっとも「たった1人の狼男」と言っても、韓国の犯罪組織「熊おじさんホールディングス」のボスである通称「コム社長」、台湾を中心に活動する「正義の味方」である通称「白き雪豹スノー・レパード」と並ぶ「獣化能力者の中では東アジア最強候補」の1人だが。

「おい、『教授』、俺は役立たずだって言いてえのかッ⁉」

『すいません。ボク、逮捕された時は准教授で……』

「細かい事はこたあいいだろ?」

『後藤さん、とりあえず、「魔法」で隠れてる敵が居ないか判りませんか?』

 ここは「NEO TOKYO Site01」こと「千代田区」の4つの地区の1つ「九段」地区。

 かつては神道系の「死霊使い」が支配する町だったここも、すっかり綺麗に浄化されちまっている。

 どうやら、「本土」から「死霊を喰らう」ってトンデモない&ロクデモない能力を持つ、この町のかつての自警団にとっては天敵に等しい「正義の味方」がやって来て、大暴れした結果らしい。

「周囲約五〇m圏内に、そこそこ人間が居るが……敵か、避難が遅れた一般人か区別が付かねえ」

『敵の中には「魔法使い」が居る可能性が高いんですよね?「魔法使い」の人達って、他の人達が『魔法使い』かどうか、『気』とやらで判るんじゃなかったですか?』

「うるせえ、俺、苦手なんだよ、その手の術が……」

 クソ……。

 娑婆に居た頃、もう少し真面目に修行しとくんだった。

 俺は、ある条件で、一時的に霊力を普段の数倍に上げられる。

 しかし、そのせいで……今にして思えば、派手な力押しの術ばかりを身に付けて、地味で基本的だが使える局面が多い術の修行をおろそかにしてきた。

『じゃあ、本土の「正義の味方」から提供されたAIで、狙撃手が潜んでそうなポイントを割り出して、ドローンで煙幕を張ります』

「そうしてくれ」


「やっぱり、肉はあんただけか……」

 本日の業務は一段落し……晩飯の時間になった。

「俺が一番働いただろ」

 そう言いながら……人間態に戻った久米は1㎏以上は有りそうな骨付きのステーキを手掴みで骨ごと喰い千切る。

「ところで、教授よお……あんた、刑期終えたら、本当に学者に戻れると思ってんのか?」

「無理でしょうけど……まだ、未練が……」

 「教授」こと有村直樹は英語の雑誌……どうやら学会誌か何か……を読みながら、俺達3人の中で、一番、つつましい食事をとっていた。

「でも……娑婆に居た頃、SNSで読んだ事有るけど……学会追放ってのは都市伝説なんだろ?」

 久米が、肉と骨を噛み砕きながら、そう言った。

「いや……僕は……例外です……。あんな真似したんで……」

 この「教授」は脳科学が専門の生物学者だったが……温厚そうな常識人みてえなツラして勤務先の大学に内緒でテロ組織から「脳改造人間」を購入し人体実験に使っていたのだ。

 まぁ、確かに魔法使い・超能力者・妖怪系・変身能力者、その他、通常の科学では説明出来ない奴が、この世界にはゴロゴロ居る事が明らかになって三〇年近く……霊・魔力・気なんかの「その手の力」を認識出来る人間の脳内で何が起きてるか? ってのを解明出来るかも……となれば、悪魔の誘惑に乗ってしまう科学者も出ようってものだが……この「教授」が契約した「悪魔」は異常にせっかちらしく、契約書にサインしてすぐに取り立てに来やがったようだ。

「で、教授、何か面白い事でも書いてあんのか、その小難しそうな英語の雑誌にさぁ……」

「はぁ……ええっと、高速治癒能力の副作用に対するある仮説が……」

「へっ? 俺にも関係有る?」

 久米の野郎には山程チート能力が有るが……その1つが「高速治癒能力」だ。

 内臓や骨に達していない傷なら瞬時にふさがり、骨が折れても、同程度の傷を負った常人の一〇分の一未満の期間で、何の後遺症もなく治ってしまう。

「ええっと……かなり確度が高い話みたいですが……高速治癒能力者は癌に罹った場合に逆に進行が早まるそうで……」

「何? 俺みたいなのって癌になり易いの? 健康に気をきい付けた方がいいの? 野菜多めの食事にするとか?」

 久米は喰いかけのステーキと「教授」を交互に見ながら、そう言った。

「は……はい……多分」

「えっと……残り、俺が食っていい?」

 俺はステーキを指差す。

「あのな、俺の喰いかけだぞ」

「あのな、こちとら、逮捕されてから、マトモな量の肉食ってねえんだぞ」

「おい、待て……食うな……俺の……」

「……」

「どうした?」

「……」

「おい、特注の肉だぞ。喰ったなら喰ったで、もっと美味そうな顔しやがれ」

「はあ? 何が特注だ? 何だ? このクソ固い肉は? しかもレアじゃなくて、生だろ、これ?」

「柔らかい肉なんて喰った気しねえんだよ、俺は」

「もういい、いらねえ」

「阿呆か、お前が口付けたんだ。残り、全部、お前が食え」

 刑期短縮の為の「社会奉仕」の筈だが……どうやら、俺と久米は……娑婆に居た頃と、大して変らない生活になりそうだった。

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