第55話
「やってるー?」
「やってるよォ……」
行きつけの居酒屋へやってきた、常連客の様な
「やっぱハズレー。手掛かりは無し!」
天城さんはニコニコしたまま、顔の前で大きくバッテンを作る。
「あ"ー……次どこだよォ……」
学祭の騒ぎから1ヶ月半が経過し、ボクは
あのカスには直接落とし前を付けたいが、人手不足で居場所探しの担当になった。お母さんは根回しや説明に追われ、立場が上の吸血鬼達以外には秘密裏にする必要があるとかで、ボクがやらざるを得なくなった。探偵じゃないんだぞ……。
「今にも死にそーな顔してるけど大丈夫?」
「ボクもうダメかも」
作業が……作業が終わらん! カスの研究資料を
ボクは今、
「
天城さんが鏡にボクを映すことで、今の自分を知った。
ボサボサの髪は、金属がくすんだ様なまだらのグラデーションを作り、血の気が無い肌の白さと、今まで以上に深く黒い目元のくまが、ボクの
「うっわ……なにこれゾンビかよ」
世がハロウィンなら、このまま街へ繰り出せそうだ。
「んーと、最後に寝たのいつ?」
「ぇ……3日前くらい? なんか寝れなくてさ」
いつもニコニコしてる天城さんが珍しくドン引いた顔を向けてくる。
「そんな顔しなくてもいいじゃんか。なーんか、血の燃費が悪くて調子出ないんだよ」
背もたれに体重を乗せ、天井を
「んー、なら今日は帰るねー。荊さんも寝てねー」
天城さんはそう言うと、そそくさと書斎から居なくなる。天城さんなりの優しさなのか、単純に帰りたかっただけか。なんにせよボクも帰って寝ようかな……いやここ実家か。
進展があったのは、それから1週間近く経ってからだった。
「お母さん大変だったのよ〜。根回しは終わらないし、動き回るのも大変だしで。でも、たまたま見つけちゃった♡」
嬉しそうに語るお母さんの足元に転がるのは、両手足を拘束され、口を塞がれた状態のカスだった。暴れた形跡こそあるけど、眠らされたのか今は大人しい。もうお母さん1人で良いんじゃないかな。
「んで……どうするの? 寝てるけど」
「そうねぇ……なら
「お呼びとあらば、さんじょー致す」
お母さんの後ろから、ひょっこりと天城さんが出てくる。どこに隠れてたんだ。
「じゃあソレ、好きにしていいわよ」
「はーい」
天城さんは勢いよく足を振り、全力でカスの腹に蹴りを入れる。人外かつ運動部の蹴りだ。耐久力のある吸血鬼と言えど、相当答えるだろう。
「がぐふっ!?」
「わぬしのっ! せいでっ!
1度では気が済まないのか、何度も腹部に蹴りを入れている。いつの間にか、天城さんの髪色と同じ耳と尻尾が生えていた。人格ってこう簡単に切り替わるんだ……。
「
「いや……いいよ」
お母さんが満面の笑みでボクに問い掛けてくるが、どうも気が引けてしまう。いやだって、殺人犯にはなりたくは無いし、聞きたいことがある。
「天城さん、ちょっと下がって。聴きたいことがあるから」
天城さんを一旦引かせ、カスを起き上がらせ座らせる。
「は、はk「手短に聴く。どうしてモモカの記憶は消えた?」」
カスと無駄な会話をする気は無い。
「私のはなs「答えろ」」
「……知らない」
そうか。
「天城さん、顔も蹴っt「は、話すから待ってくれ」」
カスはゆっくりと喋り始める。
「アイツは1度死んで
アイツって誰かと思ったが、あのバケモノのことか。確かにあの時の中庭は寒さがおかしかった。バケモノから洩れた冷気が周囲を冷やしていたんだろう。
「それで?」
「……
ボクに関してだけの記憶を凍らせる……。あのバケモノはボクを知っていたのだろうか。
「んで、どうやったら取り戻せる?」
「……我々吸血鬼は、血を
血は記憶であり力……か。
「じゃあ、モモカの血を吸えばいいってこと?」
「いや違う。血を与えるんだ。記憶を流し込み、記憶を刺激して呼び起こす。吸血鬼の血、とりわけ珀の血は特別だ。津名嬢に飲ませれば、記憶の復活など造作もないだろう」
そうか、血を飲ませればモモカの記憶は戻ってくるのか。
「良かった……」
ボクは大きく安堵し、胸を降ろした。
【後書き】
先週はアホみたいに体調崩してました、すみません。
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