第51話
「……モモカさんは3人の内、誰?」
「匂いが強くてわからないんだ」
校内は匂いの痕跡が多く、
また、怒りのボルテージに呼応する様に、とうに動かない心臓から冷たさが幽鬼の内を通って外へと洩れていきます。3人の少女は幽鬼の質問へ答えることはありません。唇を真っ青にしながら
「答えてくれないんだね……」
幽鬼はそういって帽子を取ります。鑪場
「なら1人ずツ聴くヨ」
眼下の少女達は顔面蒼白であり、呼吸は途切れ途切れで誰が見ても死にかけているのがわかります。しかし、人で無い幽鬼の視力はそれを理解できません。手近な1人に手を伸ばし、首を掴んで己へ近づけます。
「か……ひゅっ」
幽鬼の固いゴムの様な
「君じゃない」
首の拘束を解かれた樅は地面へ落とされ、力なく仰向けの状態で横たわります。か細い呼吸で辛うじて生きているのが見て取れますが、このままではそう長くはないでしょう。
「ドっち?」
幽鬼は2人に問います。しかし、彼女達に応えられる余裕はありません。0℃を超える冷気が幽鬼から発せられており、間近でそれを浴びることで体温が急激に低下しているのです。意識が
「どうシて……答エてくれなイのかナ」
幽鬼の怒りは一周回って冷静さが増してきました。同時に溢れる冷気も温度が下がっていきます。
「次はキミd……っ!!」
樅と同じ様に
「なラ……」
怪我のない左手で
「アいたかっタ……アいたかッタ、モモカサン!」
嬉しそうなトーンで幽鬼は萌々果に微笑みかけますが、当の萌々果は力なくグッタリとしています。当然でしょう。寒さで体を動かすことが叶わず、思考はまともに行えず、追い打ちの様に首が圧迫され、命の
幽鬼が愛おしそうにウットリと萌々果を見つめ始めると、幽鬼から萌々果の体へ冷気が伝っていきます。そんな時でした。
「ジャマ……スルナッ!」
怒りを
「邪魔するよ、残念だけど」
そう言って
「ところで……愛莉に何かした?」
「ナニモ」
「そう……そしたら津名さんには?」
幽鬼は首を
「アゲナイ」
「津名さんは物じゃない……よっ!」
秋葉は地面を蹴り幽鬼へ向かって走りだします。肉薄する寸前に両手を
「ァ”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!」
悶え苦しむ幽鬼には先程の様な稲妻状の白い傷跡が見え、腐った肉の焼ける匂いが広がり始めました。秋葉はいつの間にか萌々果と愛莉、樅の3人を片腕で
「あぁ、こんなに傷ついて……」
まるで我が子を慈しむかの様に愛莉の頭を抱きかかえ、涙を流します。
「カ”ェ”セ”ッ! カエセ!!」
化物の言葉が頭にきたのか、秋葉は優しく愛莉を寝かせ、静かに立ち上がりました。
「……さん。許さん許さん許さんっ!」
秋葉が瞳孔を開いてギロリと幽鬼を睨みつけると、ゴロゴロと遥か上空で雷鳴が
「わぬしの様な
秋葉の瞳に、先程よりも激しい怒りの炎が燃え
「わぬしを
天城秋葉は人ではありません。しかし、人と共に平和を生きていたのでした。
【後書き】
餓鬼の解釈は「♀ガキとおじさん」が秀逸で素晴らしいと思います。
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