第50話b

「やーごめんごめん。あーし勢いで喋っちゃうからさー」

 さっきも自己紹介忘れて喋ってたんだよねー、と長身女子は謝ってくる。

「あーしは宗像むなかた もみだよ、よろしくね津名ちゃん」

 いぇーい、とピースサインを彼女は向けてくる。宗像ってどこか聞いたことがある様な。

「えっと~よろしくね。自己紹介はー……大丈夫かな?」

「もち!」

「所で、宗像s「樅って呼んで!」えー……むn「樅!!」」

 押しが強い。こういった押しにわたしは弱いのだ。

「わかった。えー樅さんは、どうしてわたしのこと知ってるの?」

 少し不満げな態度を樅さんは取るが、仕方が無いといった様な表情になる。

「津名ちゃんは結構有名だよ? スピード告白拒絶美少女って」

 知らない所でとても不名誉なあだ名がつけられていた。なんだスピード告白拒絶って。文字通りではあるのだろうけど。

「だもんで、どれだけ長く告白が断られないかってゲームが男子の間で流行ってたこともあるよ」

 一日に何度も知らない男子に告白されたのはそれが理由か。余計に男子が嫌いになってくる。

「あーしもあにぃをからかって告白させたんだけd……やっべ」

「モミっちゃん……」

 樅さんにはお兄さんが居たのか、そっか。だから聞き覚えがあったのか。

「あのー津名t「怒って無いよ?」」

 やっていいことと悪いことの分別はつけて欲しい。

「えっと……ごめんなさい」

「いいよ~。でも次はないね」

「はい……」

 樅さんはとてもしょんぼりしている。わたしをからかうとかじゃないから、許すことにしよう。



 少し冷めてしまったとはいえ、たこ焼きを頬張ると十分に熱を保っている。冷凍なのだろうけど、十分に美味しい。

ほーいえあそういえば、んくっ。さっきの自己紹介忘れてたって何?」

 設楽さんが気になっていたであろうことを樅さんに質問する。

「あーそうそう、あーしクラスの出し物から逃げてきたんだけどさー。部室行ったらめっちゃ髪綺麗な子いたんだよねー」

 髪が綺麗か。いったいどんな子なのだろうか。可能なら綺麗に保つ秘訣を教えて貰って、ハクちゃんに試したい。

「へー?」

「めちゃくちゃ気合入ってたよ。ぜ-んぶ銀色でさ、地毛なんだって」

 うん、心当たりがある。

「モミっちゃん……」

「ん? どしたの? シガっちゃん」

「それ多分、あたしらのクラスメイト。荊って言うんだけど」

 わたしも設楽さんと同意見。というか十中八九ハクちゃんだろう。

「マジ!? すごい偶然じゃん! ならあんなに綺麗だとさ、恋人とかいるか知ってる!?」

「んぐっ!? えほっえほっ!?」

 わたしは盛大にむせる。緊張でかわいた喉をうるおそうと、飲み物を口に含んだタイミングが悪かった。

「津名ちゃん大丈夫!?」

「だ、大丈夫。ちょっと咽ただけだから……」

 呼吸を整えながら考える。どう答えたものかと。樅さん的にはハクちゃんの恋人云々を話したいのだろうけれど、当事者のわたしとしては解答に困る。このまま別の話にシフトするのを願うのだけれど。

「それならいっか。なら話し戻すんだけどさー。荊に恋人とかいる感じ?」

 どうやら叶わない願いの様だ。

「荊が付き合ってるのは津名さんだよ」

「え、ちょ、設楽さん!?」

「……マジ?」

 樅さんは驚いた顔でわたしを凝視してくる。その視線から逃れたくてまぶたを閉じるもどうにも効果はない様で、視線が突き刺さるのを感じる。

「……うん、恋人だよ」

 諦めて答えることにした。事実なのだから、隠したって仕方がない。

「へー! いいじゃん! どうやって知り合ったの?」

「えっと、ハクちゃんとは幼馴染で……」

 樅さんと設楽さんは瞳を輝かせて質問をしてくる。

「いつから付き合ったの!?」

「どんなところが好きなん?」

「エッチなこととかした!?」

「キスはもうした?」

「冬休み2人でナニしてたの!?」

 矢継ぎ早に質問をするせいで、答えている暇がない。いくつか変なのがあったが聞かなかったことにしよう。

「も~1個ずつにしてよ~」

 2人はうーんと考え込む。「そうだ!」と設楽さんがてのひらを拳で打ち、笑顔になる。

「そしたらさ、設楽さんと荊が恋人になるまでの話をあたし達に教えてよ」

「え~もうあんまり時間無いよ~?」

 スマホで時刻を確認して若干の牽制けんせいをするも、付き合うまでの惚気のろけ話をしろと言われて、わたしは顔の緩みが抑えられない。

「えっとね~……えーと?」

 何からどう話そうかと、瞬きをした時だった。わたし達の正面に、全身黒い服を着て、黒い帽子を目深に被った男性が立っている。袖先や首元に見える肌がやけに白い。黒との相乗効果なのか、ハクちゃんより白く見える。

「ど、どなたですか?」

「……」

 震える声で尋ねるも、男性は答えない。今日は1月の末にしては暖かい筈なのに、周囲の冷え切った感覚がわたしの背筋をゾワリと撫でる。さっきまで聴こえていた校舎からの喧騒けんそうも聴こえない。

「いいよ、いこう2人とも!」

「……待って」

 樅さんがわたしと設楽さんの手を引き立ち去ろうとするが、男性の呼びかけで動けなくなる。

「……モモカさんは3人の内、誰? 匂いが強くてわからないんだ」

 意味の分からないことを質問してくる。その質問にわたし達は誰1人として答えられない。躰が芯まで冷え切り、歯がカタカタと鳴り始める。立っていることすらキツイ。

「答えてくれないんだね……」

 男性はそう言って帽子を取り、片手で前髪を持ち上げる。すると不思議なことに、男性の額の左右が徐々に盛り上がる。まるで角の様に。

 角には赤黒い血管の様なものが浮き上がり、見て分かる程に脈打っている。

「鬼……」

 誰かが口にしたその単語は、男性を形容するにはピッタリで、わたし達の心を余計にすくませるのだった。






【後書き】

今回は2本同時更新です。aもあります。

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