第44話

「初めて見たけど、結構面白いんだね~こういうの」

「どうする? 円盤出るけど買っとく?」

「うーん……ハクちゃんが買いたいんじゃないなら、わたしは別にいいかなぁ~」

 モモカとベッドに座りながら、年明けまでの残り少ない時間を過ごしている。

 PCのディスプレイには、アプリゲームの年末生放送が映し出され、毎年恒例の特別アニメがさっきまで流れていた。今は即売が終わって一区切りついた所。

 視線をディスプレイから外すと、ボクの隣でモモカは満面の笑みを浮かべていた。

「なんだかご機嫌だねモモカ」

「そうかな? うーん、そうかも?」

「なんかいいことであった?」

「今年はハクちゃんと一緒に過ごせることかな~」

 確かにモモカとは、これまで一緒に年末年始を過ごすことはできなかった。理由は単純にクマ姉が許してくれなかったからなんだけど。

 これまの寂しさを埋める様に自然と手を重ね、指を絡めあう。熱っぽい視線で見つめ合うと、キスを交わし押し倒す。まだ恥ずかしさは抜けきれていないが、お互いに興奮を抑えきれない。

「モモカ……」

「ハクちゃん……」

 再びキスをしようと顔を近づけると、外からゴーンと大きな音が鳴る。

「な、なんの音!?」

 驚いて体を起こすと、勢いが付き過ぎたのかバランスを崩してベッドから転げてしまう。

「ぐげっ」

 痛みがあるわけじゃないけど、カエルのような声が漏れ出る。

「ハクちゃん大丈夫!?」

「痛くは無いから平気。にしてもなんだったんだ今の」

 オロオロと心配するモモカへ手を上げて無事を伝える。立ち上がり辺りを見渡しても当然のように何もない。自分の部屋だから当たり前ではある。

「大丈夫なら良かった~。さっきのは多分除夜の鐘じゃないかな? わりと近くにお寺あるし」

「あーね。そういやあったな、そんなイベント」

 あまりにもボクと無縁で存在をすっかり忘れていた。ディスプレイを見ると、コメント欄が新年の挨拶で埋め尽くされている。年明けちゃったな。

「んー、さっきまで聞こえなかった気がするけど、こういうもんだっけ?」

「わたし普通に聞こえてたよ? 生放送に集中してたとか?」

「そういうもんかなぁ……」

 ベッドへ座り治してふと気づく。さっきまでたかぶっていた感情が、嘘の様に消え去っている。これが除夜の鐘の効果か……。

「えっと……どうしよっ……か」

 耳先を赤く染めたモモカが聴いてくる。その瞳には「今日は止めよう」と文字が書かれている。

「そう……だね。うん」

 興が削がれたとでも言うのだろか。冷静になるとわかる恥ずかしさが、まだまだお互いに残っている。まぁほら、冬休みはまだ数日あるし……。

「あ、そうだ。忘れてた」

「ん? あぁそっか」

「うん、おめでとうハクちゃん」

 これまでのメッセージとは違う、対面での言葉に心がおどる。



 年越し生放送も終わり、やることもなくモモカと駄弁だべっている時だった。連絡用のスマホにメッセージが届く。時刻は深夜1時が近い。

「この時間に珍しいね、誰から?」

「えっとお母さんだ。ちょい待ってね」

『おめでとうハク。お母さんがあなたに出来ること、あまり思い浮かばなかったのからこれを送ります』

 そんなメッセージと共に送られてきたのは電子マネーのギフトコード。うわっ、天井1回分ある。

『これで新キャラを引くのよ』

 戸惑っているとそんなメッセージも飛んでくる。そっかぁ……。

「もう引いちゃったんだよな、新キャラ」

「話の流れがわかんないんだけど……」

「あぁ、ごめんごめん」

 モモカにトークアプリの画面を見せる。ギフト金額を見たとたんに顔が引きるのがわかる。

「ハクちゃん、おばさんに加減を教えようよ……」

「多分加減してこれだと思う」

「えぇ……」

 元旦のログボを受け取った時にフレンド覧で見た、完凸状態の正月キャラを考えると、相当加減してる様に思える。あれ、ボクも麻痺してるか……?

「あ、アカネちゃんからメッセージだ」

 ボクのスマホを返そうとしたモモカが気付く。グループメッセージにアカネから動画が送られてきた。

「動画って珍しいな」

 タップして再生すると、誰かに撮ってもらったのか、コートを着たアカネがこちらに手を振っている。

『ハクさん、モモカさん、あけましておめでとうございます! 今うちは、初詣に来てます! ものすごく混んでて大変です』

 カメラが数秒行列へ向き、アカネの方に戻ってくる。

『お二人も一緒にどーですかー! ……こんな感じでいいんですか?』

「ぶっ」

 録画を切り忘れたのか、撮影者に困惑した表情を向けるアカネが映る。それが変に面白くて吹き出してしまう。

『大丈夫、バッチリ決まってた。動画投稿者になれr』

 ここで動画は終わっている。

「これ撮影は小津さんだね。他の2人も居るのかな~?」

「どうだろ? 居そうではあるけど」

 とりあえずアカネに返信をすることにした。ボクは行けないって。

『なんでですか!?』

 爆速で返事がくる。そんなに行きたかったのか初詣。なんだか申し訳ない。

『ボクの場合神社入れないんだよ。入っても体調が悪くなるんだ』

 アカネ以外も見ることを考慮こうりょして言葉をにごす。

『体質的な話ですかね? それなら残念ですけど諦めます……」

 どうやら気づいてくれたようだ。実際の所、境内けいだいに入れない吸血鬼は多い。最悪の場合死に至ることもあるらしいけど、アカネはハーフだから問題ないのだろう。ちょっと羨ましい。

『流石に誕生日くらいは健康でいたいしな。とりま、あけおめ―』

『え』

 動揺なのか、それだけのメッセージの後、ボイスメッセージが送られてくる。

「ハクさんお誕生日おめでとうございます! そういうのは先に教えて下さい!!」

 アカネから驚きと若干の怒りが混ざった祝福をされる。そういや言って無かった。

 元旦こと誕生日を迎え、ボクは16歳になった。これでモモカと年齢が並んだ。

「アカネちゃんに言って無かったんだ……」

「いやぁ……すっかり忘れてたよね」

 とりあえずアカネへ感謝と謝罪を込めて電話でもしよう。そう思って掛けた電話は、アカネ達4人が参拝を終えるまで続いたのだった。

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