第32話

 12月頭でありながら、陽気な日差しが差し込む窓際の席。昼食後ともなれば睡魔が襲ってくるのは何もおかしくはない。

 担任の冗長な話で進むLHRロングホームルームが、絶好の睡眠時間に思えてくる。期末テスト後の席替えで、窓際の1番後ろという好立地へ引っ越したボク。ここまで条件が揃ってしまったら、もはや寝ない方が失礼なんじゃなかろうか。

「おやすみなさい……」

 ボソリと小声で呟くと、急激に意識が落ちていく。三大欲求に止む無く連れさられていく。



 体を軽く揺さぶられて意識が覚める。少し前にも同じことがあった記憶。つーか背中が痛い。

「あ、起きた。いばらさん生きてる?」

「んぁ……死んでるかも」

「残念。寝たせいで冥府に引きずり込まれた」

「何それウケるんだけど」

「ハクさん、帰りましょうよー」

 ボクの席が何人かに囲まれている。少しボンヤリする頭で窓の外を眺めると、もう夕闇が見え始める時間帯に切り替わっていた。

「ボクの陽気な日差しが……!?」

「もう何時間も前に校舎に隠れてったよ」

 残念でしたーと。愛嬌のあるウルフカットの少女が嬉しそうに語る。彼女の名は『天城 秋葉あまぎ あきは』クラスメイトの1人。黒い髪をぴょこぴょこさせながらこちらを見つめてくる。正直ちょっと苦手だ。

「秋葉、荊さん困ってるから、見つめるのは程々に」

 小津おづさんが天城さんの服の襟を掴んでたしなめてくれる。ありがたや……。

「アッキーはいい加減辞めてあげなー。てか荊もそろそろ慣れなよ」

 ヤレヤレと信楽しがらきに呆れられる。

「って言われてもなぁ。天城さんにジッと見つめられるの、なんか苦手なんだよ。……アカネはボクの味方だよな」

「うちですか? うーん、うちはハクさんみたいに見つめられたことないので……」

 むぅ、味方がいない。にしても、アカネが元気になってくれてよかった。この3人のおかげというべきか。

「ところでさー、そろそろ帰らん? あたし夕飯の準備あるんだけど」

「そうじゃん! ボクもモモカの看病しなきゃだわ」

 信楽の一言で重要なことを思い出す。今日モモカは体調不良で学校を休んでいる。だもんで、いろいろ買って帰らないといけない。帰る支度をせねば。

「荊さんそれはダメ。急がないと」

「そうだそうだー。伏せってる恋人を忘れてしまうなんて……2人の愛はそんなものなの!?」

「うぐっ」

 小津さんと天城さんの言葉が深々突き刺さる。最近は恋人いじりも徐々に慣れ来たけど、それを武器にされると弱い。

「しょうがないじゃんか、さっきまで寝てたんだから」

「ハクさん、授業中に寝るのはダメですよ」

「いやぁ、わかっちゃいるんだけどね。最近やけに眠くてさ……」

 思わずふわぁと欠伸が零れる。モモカから吸血して以降、十年間薄れていた睡眠欲が以上に顔を出してくる。おかげで授業中が大変でならない。

「まぁ目元のくまが薄くなったのは目に見えてわかるじゃん? 前は死体みたいだったのが、ちゃんと女の子の顔になってるし」

「前は死体だったのボク!?」

 今明かされる衝撃の真実。いやまぁ、自分でも見て呉れが酷かったのは自覚してるが、死体呼ばわりは予想外。

「知らないかもだけど、最初はみんな怖がってた。秋葉は別ベクトルだったけど」

「あたしも会話するキッカケ無かったら、荊のこと誤解したまんまだと思う」

 そっかぁ……ボク怖がられてたのか。確かによく考えたら、いつも顔色悪くてパーカーで顔隠してる同級生って異端じゃん。

「うちはそんなことなかったですよ? 顔色とか気にしてませんでしたし」

 アカネ……! いや待て。よく考えたら髪色に注視してたし、最初喋った時は気まずい感じだったろ。騙されんぞ。

「でも、顔色良くなったおかげで、今回荊さんが選ばれたのはあると思うなー」

「「確かに」」

 ボク以外の全員がうなずいている。だからボクが選ばれたのね。……何に?

「待て、何の話だ」

「えっと、ハクさんいつから寝てました?」

「んーと、担任の話てる途中からかな」 

「「あー……」」

 待ってくれマジで話が見えない。最近の睡魔が影響で、LHRに何するか知らないんだ。

「とりあえずさ、帰りながら話さない? このままだと、あたし達無限に話し続けるから」

 信楽の提案で下校を始めるのは良しとしても、LHRで何の話したんだマジで。



「おっじゃまー」

「おじゃまします」

 ボクの部屋ではなく、モモカの部屋に買い物袋を持って訪れる。学生用のワンルームではあるが、それなりに贅沢な作りをしている。玄関を入った廊下には、備え付きキッチンに風呂場とトイレ。寝室兼自室もワンルームではあるが十分な広さが確保されている。

「待ってたよ2人共~」

 ベッドに腰かけてボクらを迎え入れてくれるモモカ。無理に起き上がらなくていいのに。

「今日なんか食べたりした? あ、これ水分な」

 買ってきたものを片付けながら、スポーツドリンクを手渡す。

「ありがと~。朝のお粥をお昼に別けて食べたよ」

「おっけー、んじゃ食欲は?」

「うーん……朝よりはマシかな? 重くなければ食べたいかも」

 それを聞き、アカネと一緒にニンマリ笑う。看病計画実行の時。

「ど、どうしたの2人共」

「任せろモモカ。ボクとアカネで」

「モモカさんのご飯を作ります!」

 2人してその場のノリで謎のポーズを決める。

「わたし急に食欲無くなった来たかも……」

 モモカの顔が徐々に青くなる。失礼な。料理が得意な信楽にアドバイス貰ったし、2人で作ればクオリティは上がるぞ……多分。






【後書き】

なんかこう2部的な奴スタート

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