第30話
「……ちゃん! ……きて! 遅刻しちゃう!」
薄らぼんやり目を開けると、ボクのパーカーに身を包んだモモカが
「学校遅刻しちゃうってば~!」
「……やばっ!?」
学校というワードで意識と体が一気に飛び起きる。今日まだ火曜日じゃんか。寝ぼけてる場合じゃない。
2人で
「モモカもう出れる!?」
「髪とか整えてない~!」
「どうせ
洗面所でセットを試みるモモカを止め、学校へ向かう支度を終わらせる。
鍵を閉め、急ごうとするモモカの手を取り、引き寄せる。
「ボクから手放すなよ」
「え、それって……わっ!?」
モモカの膝裏に手を回し、崩れた姿勢を肩から抱き上げ受け止める。
人通りがないことを軽く確認すると、廊下から外へと跳びだす。昨日も同じことしたけど朝と夜じゃ視界が違い、速度を出せない。かと言って、速度を出さないと間に合わない。故にちょうどいい塩梅で跳んでいく。
が、速度が載ると服を強く
「寒いし怖い!」
やっべ。人間ってそこまで寒さに強くないんだった。吸血鬼の感覚で移動するもんじゃない。
ある程度跳んだ所で目立たない様、路地へと着地する。これ以上はモモカが体調を崩す。
「ごめんモモカ。ボクの感覚で移動するもんじゃなかった」
「ホントだよ~。もう遅刻でもいいから歩こう」
「いいの? ペース落としても、このままなら間に合うと思うけど」
「これ以上寒いのは嫌。朝ごはんもまだだし」
それ言われると同意するしかない。幸いコンビニも近場にあるし、昼食と合わせて何か買ってしまおう。遅刻してしまうのは申し訳なくなるのだけど。
「あ、そうだハクちゃん。忘れない内に1個だけ」
「ん? どうかした?」
学校へ遅刻のメールを送ろうとした手を止め顔を向ける。
「今度から飛行は無しね。というか季節を考えて」
「……はい」
何も言い返せない。冷静に考えれば、冬場の風は苦痛だし、誰かに見られるリスクもある。吸血鬼としての力にテンションが上がり過ぎていたのかもしれない。なるべく自重しよう。
「はい、この話はこれでおしまい。ほら、何買うか考えよ?」
モモカは自然と手を取り
「ボクはパンとかでいいかなぁ……後はエナドリ?」
「えー、まだ飲むの? もう摂らなくても寝れるんじゃない?」
「いやいや、エナドリはボクの体調を整えるたm「遅刻すんよーバカップル」」
路地から抜け大通りに入ってすぐ、後ろから声を掛けられる。
「誰がだ!?」
驚きと茶化された恥ずかしさで、ついツッコミをしながら振り向いてしまう。
「よっすー。もしかして、あたしと同じ遅刻組?」
「
溜息をつき、髪を薄紫に染めたクラスメイトを見ると、どこか疲れ切った顔をしている様に思える。
「おはよう、えっと……信楽さん?」
「
「さ、流石に昨日の今日だから……」
「にしても、信楽が遅刻って珍しいな。遅刻なんてしな……あ」
見た目こそアレだが、根は真面目な彼女を見てふと思いだす。
「もしかして弟達?」
「ぴんぽーん。覚えてたんだね
いい子いい子と、ぐりぐりと頭を
「それで? 2人はなんで遅刻してんの?」
「寝坊したんだよ。夜遅くなっちゃったからな」
それを聞くと、信楽の目つきがニヤニヤとしたものに変わる。
「へぇー、2人で夜遅くまでかぁ……2人から同じ匂いするもんねー」
信楽はスンスンと鼻を動かすような動きをにやけた顔でしてくる。
「んばっ!? ボクん家泊まっただけだ!」
「あー、おっかしー。やっぱ荊はからかいがいがあるねー」
「コイツ……」
ニシシと信楽は笑うと、傍のコンビニを指さす。
「朝とお昼買うんでしょ? あたし待ってるから行ってきなよ」
「それなら信楽さんも来ればいいのに~」
モモカの提案は、手をヒラヒラと振って断られる。
「あたし無駄遣いしちゃうからパス。新作スイーツとか絶対買っちゃうし」
確かに気持ちはわかる。美味しいもんなコンビニスイーツ。
「じゃあボク達買って来るわ」
「いってら~」
運良く店内の客はそこまでおらず、買い物にかける時間は短くて済んだ。これなら1限目の最初には間に合いそうだ。
「「遅刻しましたー」」
1限目中の教室へ入ると共に3人で声を
「おはようございます信楽さん、津名さん、荊さん。授業の支度を済ませてくださいね」
「「はーい」」
「あ、荊さん。ちょっといいですか?」
自分の席へ向かおうとした時、先生に呼び止められる。
「どうかしましたか?」
「荊さんだけ遅刻のメールが届いてませんよ」
「え、ボクも送りましたよ!?」
慌てて送信ボックスを確認すると下書き状態の未送信メールが1件。送信ボタン押してなかった……。
「後で用紙に理由を書いて、担任の先生へ提出してくださいね」
「うへぇ……」
そういって遅刻理由を記載する用紙を渡される。プチ反省文みたいなの書かされるから嫌いなんだよなこれ……。
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