第28話

「いただきます」

 ボクはそう言うと、アカネの首筋へと牙を突き立てる。口内がゆっくりとアカネの血で満たされていく。濃厚でドロリとした喉越のどごしが、少し飲み込みにくい。

「!? ハクさん……!」

 アカネは距離を取ろうとしてくるが、ハグする様に押さえつける。モモカのと違って、美味しいとは思え無い。吸血鬼の血だからだろうか。

 飲み過ぎに注意しながら、吸血鬼の力の源を減らしていく。口の端から血のしずくこぼれていく。

「う……ぁ……」

「うっぷ、いい気分じゃないな……」

 若干じゃっかんの吐き気を感じながら、意識を失ったアカネを退けて、立ち上がる。止血は……まぁ大丈夫だろ吸血鬼だし。

「ふむ……君に魅了の瞳は効果が無いのかな?」

「ちょっとはあったよ。つーかなんで吸血止めなかったんだよ。邪魔なんだろボクは」

 クソ親父ドブカスを見上げてにらみみつける。マジでコイツの行動方針がわからん。

「君の血があればリカバリー可能だ。吸血後の力も気になるからね」

「はっ、言ってろ」

 鼻で軽く笑い、鳩尾目掛けて右拳を放つ。その勢いでかがんだあごへ左拳でアッパーカット。殴った反動で体をひねり軸足を入れ替えながら、頭部目掛けてかかとで蹴り抜く。

「ぐぅ……! 吸血鬼後は不利か」

 吹き飛ばされつつも、クソ親父は何処どこからかピルケースを取り出す。目論見通りだ。地を蹴り、ピルケース目掛けて強襲する。

「!?」

 呆気あっけに取られたのを余所よそに手からピルケースをうばい取る。

「返してもらうぞ、ボクの血」

「やめろ!」

 全ての錠剤を口に含んで噛み砕く。味はないのが、少し残念かな。

「っ〜! ……不出来ふできな娘を持つと苦労する。計画の重要性が理解出来ないとはね」

 一瞬怒りをあらわにするも、落ち着かせ苦言をていしてくる。アンガーマネジメントって奴? にしても声震えてんぞ。

「計画とかマジでどうでもいい。ボクらに押し付けんな、高校生だぞ」

 高校生と言えど、ボクはまだ15歳。年齢も精神も、中学生と大して変わらんが。

「何故理解しない! 始祖様がよみがれば我々の時代g「来るわけねぇだろ、馬鹿なんじゃねぇの?」」

 耳障りな発言をさえる。妄言もうげんとか聴きたく無いんだわ。

「そもそも、始祖は討伐されてるんだろ? んじゃ、同じこと起きてまた倒されるだけだって。悪が栄えた試し無しって言うし」

「言わせておけば!」

 いつもの張り付いた笑みは消え、憤怒ふんどの表情でボクを睨みつけてくる。

なんでお母さんはコイツと結婚したんだろうか。あれかな、昔は良い人だった的な……興味湧かないからどうでもいいや。

「んで、どうすんの。お前もう出来ること無いだろ」

「……まだだ、まだ私には素体が残っている!」

「あ"?」

 馬鹿馬鹿しい発言が逆鱗をでる。いい加減にしとけよクソが。

「さぁ来るんだ!椰織やしおり あかね!」

「来るわけねぇだろ」

 カス野郎の顔面に全力で拳を叩き込む。手に抜ける、鼻の骨を砕く感触が気持ち悪い。

「んがぁぐ!?」

「意識無いんだから、無理させようとしてんじゃねぇ!」

 吹き飛ぶカスを跳んで追い越し、切り返して背中に膝蹴りをぶち込んだ。バギッと綺麗な音が鳴る。

「ど、何処からこんな力が」

 地にしながらも、威勢いせいだけは張ってる様子。ありゃ残念、もう顔治ってる。

「なんでボクがエナドリ作ってたと思う? 血の代わりに飲む為だよ」

「なん……だと」

 そう、別に商品を作りたくて研究をしていた訳では無い。血の代替品を研究していたら産まれたものに過ぎない。

 ついでに市販しようとしたら人間に不評だっただけで……。

「んで、ボクの血と融和ゆうわさせたんだっけ? ならわかるよな、自業自得ってこと」

「ぐっ……」

 ボクの血と馴染ませたんなら、ボクが飲んだ時の効力は大きい訳で。普段よりも血の流れが意識しやすい。一呼吸し、全身の血を巡らせる。

 片脚に力を込め、そのままコンクリートの地面を割砕き、土を露出させた。それを幾度か繰り返し、穴を大人1人分程のサイズまで拡張する。

「大丈夫だと思うけど、死ぬなよ?」

「何をするつもりだ! ぬぉ!?」

 わめくカスを宙に放り投げる。ボクもそれ以上に跳び上がり、カスを追い抜く。空中で姿勢を変え、目標に狙い定める。

「んじゃ、ブラジルの人によろしく」

 開いた穴目掛けてサッカーボールの如く全力で蹴り飛ばす。めっちゃ足先の感触が気持ち悪い。さっさと風呂入って洗いたい。

「っしゃあ! ナイスシュート」

 綺麗に穴へとカスかゴールインし、大きな音と共に土がえぐれる。想像していたよりもカスの姿が確認出来ないんだけど、生きてるよな?

「んー……埋めるか」

 先程割砕いたコンクリートや土を使い、誤魔化しにかかる。無いと思うけど、ホントにブラジル行ってたらどうしよう。

「帰るかぁ」

 遠くからパトカーの音が聞こえてきたし、この現場からさっさと居なくならなくては。

 未だ寝ているアカネを背負い、宙へ蹴り出す。視界に映る夜月、半分に欠けたその姿を、なんだかとても綺麗に感じた。

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