第27話
蒐の
腹部を抑えながら
「ハクさんって、血を見るのも苦手じゃありませんでしたっけ……」
「ちゃんと苦手だよ。でも、今みたいな状況でそんな余裕は無いかな」
「気絶したら元に戻るとかない? ボクとしてはその方が楽なんだけど」
「ハ、ハクさん……」
「うん、おやすみ」
拳が放たれようとしたその時、何かに気付いた珀が後退しました。
先程まで珀の居た場所に穴が開き、大きく乾いた音が遅れてやってきました。
「……無粋って知ってる?」
「それはこちらのセリフだとも。計画の邪魔をしないでもらえるかな?」
嘘くさい笑みを浮かべながら、拳銃を
「これをお食べ蒐ちゃん。血が活発になる」
「あ、ありがとうございます……」
蒐にカプセル錠を渡すと、八雲は珀の方へ体を向き直します。
「君なら蒐ちゃんが居ても、飛びかかって来ると思ったんだがな」
「アカネに汚い血を見せる訳にはいかないからな。つーかボクの友人をちゃん付けすんな、キショイ」
「別に? 娘の友人には付けてもおかしくないだろう」
「お前に娘扱いされても嬉しく無いんだ……よ!」
言い終わると同時に、珀は八雲の顔面目掛けて飛び出します。
「んなっ!?」
瞬間の肉迫は、八雲を
「お前……昔はボクより弱かったろ」
「今もまだ弱いさ。しかし、瞬間的ならば話は別だ。コイツのお
先程、蒐に渡したカプセル錠を見せびらかすと、珀は何かに気が付きました。
「だから
「あぁ、研究は有効利用させて貰ったよ」
そう言って八雲は見せびらかしていたカプセル錠を飲み込みます。
「テメェ!!」
全力で八雲へ飛び掛かるも、珀の攻撃は片腕で
「っ!?」
「吸血による身体能力の向上を、カフェインで再現した技術とアイデアは素晴らしい。だが、まだ足りないんじゃないかな」
蚊を払うような腕の動きでは吹き飛ばされ、今度は珀が地面を転がります。
「ぐっ……人のもんパクっといて高説垂れてんじゃねーよ、クズ」
「クズか……くっくっく」
八雲は嬉しそうに笑いだし、ゆっくりと珀との距離を詰めます。
「……何がおかしい」
「私とて、その理論へ
珀の首を
「がっ、くっ……」
「君という、より効率的な存在が現れたからね」
笑顔は絶やさぬまま、珀の腹部へ拳銃を押し当てると、引き金を引きます。
「う”っ”……ぐぅっ」
「あぁ、心配しないでくれ。貫通性が高いだけで、吸血鬼なら死ぬことは無い」
撃たれた箇所からYシャツを真っ赤に染まっていきます。そのまま珀を地面へ落とすと、両脚に狙いを定めて弾倉が空になるまで撃ち尽くします。
「がぁあああああっ!?」
「どうも私には効きが悪くてね、効果のある内に君を動けなくする必要があるんだ」
用済みになった拳銃を投げ捨てると、流れ出る珀の血液を指で
「ふむ、精製せずとも効力はありそうかな」
「き、きっも……」
痛みに
「貴重な血なんだ、傷口を汚されては困る。蒐ちゃん、もうそろそろ動けるかい?」
「はい、八雲様」
すっかり怪我の治った蒐は、珀を地面に押さえつけます。
「ぐっ! なんの……話だ」
「察しが悪いね。君の血だよ。君の血で我々は始祖様へと近づけるんだ」
にこりと笑う八雲と対照的に、珀の表情は蒼白で痛々しい表情です。
「ボクの血を……吸血鬼としての純度があがる?」
「あぁ、そうだ。君の血は濃く始祖様に近い。血とカフェインを融和させれば、一時的とは言え君を上回る程の力を得ることだって可能だ」
「……」
珀は無言ですが、それを
「素体の純度を上げれば上げる程、始祖様へと近づく。そうは思わないかい?」
「どういう意味だ?」
「まだわからないのか。蒐ちゃんのことだよ」
「!? お前っ!」
殺意を八雲へ向けた瞬間、珀を押さえつける蒐の力が強くなります。
「ありがとう蒐ちゃん。それで、何か質問はあるかい?」
「あるに決まってんだろ! アカネが素体とかどういうことだ!」
「蒐ちゃんは素体として産まれたんだ。部下が成した唯一の成功例なんだよ彼女は」
「お前ぇえええええええええ!!!!」
地面を叩き割り、拘束を逃れた珀が殺意を持って八雲に飛び掛かります。
「ぐがっ!?」
しかし、蒐は珀の腕を掴んでを背負い投げた後、胸部を押さえて再び拘束してきました。
「私で見誤った様だね。蒐ちゃんはカプセルの効きが長いんだ」
「あのぅ……八雲様、うちお腹が空きました。いいですか?」
頬を少し染めながら、恥ずかしそうにする蒐ですが、表情は捕食者のそれです。
「あぁ、折角だし体験させてあげてくれ。ただし、痛みは減らす様に」
「はい! 八雲様」
元気よく返事をすると、蒐は瞳の色を紅から宝石様な薄ピンクへ変えていきます。
「止めろアカネ! お前はそn……」
抗議をしますが、珀の血で強化された魅了の瞳に抵抗することは叶いません。
「うちね、お腹空いちゃったんです。だから……ごめんねハクさん」
忘れずに両手を合わせてから、蒐は珀の首元へと顔を近づけ、鋭い犬歯を
「いただきます」
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