第26話

 11月の冷風がちゅうを跳ぶボクに突き刺さる。今年が暖冬だんとうといっても、夜風は相応のものだ。

「……寒い!」

 そう、あまりにも寒い。今の時刻は不明だが、街頭やビルの明かりが道標となっている時間帯に、Yシャツとスカートだけで上空を跳び回るのは限度がある。

 一旦避難しよう、テンションが維持できない。マジでパーカーとか羽織はおるべきだった。

「うぉ"お"お"お"あ"ああ!?」

 近場のビルへ降り立った瞬間、強めの風がおそってくる。姿勢を崩すことは無いけれど、体が冷える。

「ん"にゃああああ!?」

 更に、下からの風がスカートをまくり上げ、全身を通り抜ける。羞恥と寒さのダブルパンチが、ボクをなぶりに来た。屋上だから良かったけれど、誰か居たらしばらく引きこもり生活をするしかない。

 寒さしのぎに物陰へ身を移すと、変わった匂いが鼻腔びこうを刺激する。

「何だこの匂い……吸血鬼か?」

 確信は無いけれど、何となくのイメージが口に出る。既視感きしかんを覚えるが、イマイチピンとこない。

「よく分かりましたね、はく様……いえいばら はく

 暗闇から1人の女吸血鬼がゆらりと現れる。ただの偶然なんだが。

 その姿に何処どこか見覚えがあり首をかしげていると、舌打ちをされる。

「あなたは、私みたいな存在を覚えては居ないんでしょうね……!」

 キッとにらまれるが、マジで思い出せない。ごめん。

「この前の私と違うことを、思い知らせてあげる……!」

 いやあの、せめて名乗って? 誰かわかんないんだって。

 女吸血鬼は地面を蹴り出すと、溶ける様に闇へ消える。足音は無く、気配を感じ取ることも出来ない。

 ボクは目をつむると、腕を真っ直ぐ左向きに突き出す。

「カハッ!?」

 身長差からか、腹部を撃ち抜いた感触と共に、女吸血鬼が姿を表す。

「何故分かった!? あなたの力じゃ私を視認しにんすることは出来ないはず!」

「いやだって変な匂いするし……動いてたら分かるじゃん」

 女吸血鬼は驚愕きょうがくの表情を浮かべ、口をパクパクとしている。最初に匂いがした時点でそうなるだろ、かなり匂うし。

「お前ごときが……八雲やくも様の障害になることなど、あってはならない!」

 今度は姿を見せずに飛びかかってくる吸血鬼。にしてもこの匂いどっかでいだことあるんだよな。

「あ、思い出した。メイクしてくれた人か」

 突撃をしゃがんで避け、吸血鬼のあごに掌底を叩き込んだ所でようやく思い出す。ちょっとスッキリ。

「えっと……前回はごめんなさい。でも今回は正当防衛で良いよな?」

 気絶したのかメイクスタッフからの返事は無い。まぁそうなるよな。

それにしても、なんでボクを待ち伏せ出来たんだろう。付けられてたとか?

「うーん……あ、そうじゃん。実家近いなここら辺」

 長年帰って無い実家。あんなクソ親父ドブカスが居る場所に帰りたくは無い。

 とりあえず向かって見るか、足取りはつかめるかもしれない。

「うっし、行くかー」

 屋上を蹴って飛び出し、再び宙を舞う。向かうは実家、首洗って待ってろよアカネ。

「なんか違くね?」

 自分の考えに思わず首を傾げてしまった。



 ふわりと地面に足を着ける。小さなはずの着地音は、静まり返った周囲に響く。

「お待ちしてましたハクさん。遅かったですね」

「そりゃ弱ってたからな。つーわけでお待たせアカネ」

 夜闇に光る紅い瞳で睨み合い、殺気をぶつけ合う。まばゆい月明かりがゆっくりと互いの姿を照らしていった。

「んなっ!?」

 昼間とは違った格好のアカネを凝視ぎょうしする。白い小袖こそでに長めの緋袴ひばかま所謂いわゆる巫女服と言われる格好に身を包んでいた。……なんで?

「どうかしました? 今ならなんでも1つ答えますよ」

 袖で口元を隠し、蠱惑的こわくてきに笑うその姿はどこか妖艶ようえんな雰囲気をかもし出すが、身長ボクと変わんねーんだよな。にしても、なんでもかぁ……。

 いろいろな疑問が脳裏のうりに浮かぶ。昼間の行動とか、クソ親父ドブカスについてる理由、洗脳の有無、小津さん達を吸血してたのかとか、それ以外にも聴きたいことは沢山ある。その中でボクは1つの疑問をぶつけることにした。

「なんで巫女さんのコスプレしてんの?」

「……え?」

 絶対他にも聴くべきことはあったと思う。でもさ、めっちゃ気になるじゃん! モヤモヤしたままだと集中力削がれるんだよ。

「いや、その……えっと、雰囲気でるかなと」

 嘘でしょ!? さっきまで相対あいたいして殺気とか飛ばしてたのに、そんな理由でコスプレしてたの!?

「案外雰囲気重視するんだなアカネって」

「う、うちの恰好のことはいいじゃないですか!? それを言うならハクさんだってなんですかその服装! もう冬ですよ!?」

「しかたないだろ!? 起き上がるまで気絶してたんだから! 今だって絶賛ぜっさん寒いに決まってるわ!」

 なんか謎の言い合いが始まってしまった。もしかしてこれボクが悪いヤツか?

「せめていつものパーカーとか着ましょうよ! 見てるこっちが寒いです!」

「いやアカネのコスプレだって寒そうじゃんか」

「しっかり防寒してますし、厚手のタイツだって履いてます! これである程度は寒くありません!」

「防寒できてないじゃん! 寒いんだろその恰好!?」

「はい!」

 はい! じゃねぇんだわ。そんな元気よく返事されても困るんだわ。

「なんなんだこの謎の脱力感は……」

「うちも同じこと思ってますよ今」

 互いに変なテンションから立ち直る為、深呼吸を1回。

「なぁ、このままお互いに帰ろうぜ。友達と喧嘩とかボク嫌なんだ」

「うちも喧嘩は嫌ですけど……帰れません。八雲様が望んでるんです」

 こりゃ正気に戻さないとダメっぽいか。やだなぁ。

「ならアカネを止めた後、ぶん殴ってやるよソイツ」

「っ! やらせません、ハクさんを阻止そしします」

 見つめ合い、ゆっくり間合いを測る。一呼吸し、地面を蹴ってアカネとの間合いを詰めると、首へラリアットを放つが、綺麗に空振りしてしまう。

 そのまま空振りの勢いで裏拳を放ち、ボクの首を目標にした蹴りを受け止める。

「昼間とは違いますね。何かしたんですか?」

「まぁな、次学校来たら教えてやるよ」

 ニヤリと笑い、アカネの顎目がけてひざで飛び掛かる。だが、予測していたのかかわされてしまう。

「結構意地悪いじわるなんですね、今教えてくれてもいいじゃないですか」

「企業秘密ってヤツだよ。それに学校来るなら簡単だろ?」

 かんになるが、アカネが次学校に来ることは無いだろう。正気じゃないのもあるだろうが、吸血した負い目を感じてるに違いない。

「うちは……もう人間と暮らせませんよ」

「それじゃあ尚更なおさら学校に来るべきだな。謝んなきゃ友人は居なくなるぞ」

 吸血して友人じゃなくなるなら、ボクとモモカはどうなるんだか。つーか前から吸ってたろアカネ。

「とりえずだ、次は顔に当てるぞ」

「また避けますから、どうぞ来てください」

 軽くけ合い、再び力をぶつけ合う。






【後書き】

あけましておめでとうございます。また3日目安で更新していきます。

スマホが故障したので、文章にキレが無いかもしれません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る