第24話
「わたしの血、吸ってよ」
そんなモモカの提案に、戸惑いと恐怖が
モモカからの吸血、それはとても
「それは……」
血は苦手だ。見るのも味わうのも嫌だ。最近は毎日服用しているとはいえ、血液カプセルだって可能なら飲みたくない。
でも、吸血衝動は定期的に
「……ハクちゃんはどうしたい?」
「ボクは……」
理性と本能を載せた天秤は、とても不安定だ。普段なら理性へ
言葉に詰まるボクを見かねたのか、モモカは
「ちょっ!? 何してんだよ!?」
動転するボクを無視して、モモカはYシャツのボタンを外す。
左肩を露出すると、指を震わせながら首と肩の間を円状になぞる。
「……ここだよ」
理性を押し退け、
「ヒッ……」
牙が
「……やっぱり無理だよ」
病室でしたキスとは違う、種としての行動へボクは踏み切れない。
「ハクちゃんの
「ごめん……」
ただ謝ることしかできず、
「誰だよこんな時に……って
「もしもし? 葉瀬、急にどうしたんだよ」
『あー、お久しぶりです
会話が気になるのか、視界の端でモモカがこちらをうかがってくる。しゃーないな。スピーカホンに変更してベッドの上へスマホを移す。
「話したいことってなんだよ。
『いやー申し訳ありません。ちょっと死にかけてしまいまして』
「「は!?」」
モモカと二人して
『もう
「……何があった?」
『そのぉ……』
急に歯切れが悪くなる。
『珀様が逃げるの手伝ったじゃないですか……それが理由で捕まりまして』
「ハクちゃん?」
やっべぇ何もいえねぇ。ボクのせいじゃんか。どう責任取ろう……。
『気に病まないでください珀様。私は覚悟してましたし、
「葉瀬……」
『あ、でも、助かった命は大切にしたいと思います。まだまだ珀様と研究したいこと沢山ありますし』
そんな葉瀬の言葉に目頭が熱くなってくる。
『珀様、申し訳ございませんでした。大人という、あなたを守る立場なのに……ごめんなさい、ここで失礼します』
「あ、ちょっと葉瀬!」
最後は涙声になりながら通話が切られる。勝手に対等とか思ってたけど、ボクのことそんな風に考えてくれてたんだな。ならボクのやることは一つ。
「……覚悟決まった?」
「あぁ……ごめんな、自分で進めなくて」
「いいよ~。最後はハクちゃんの為になるし」
先程とは違い、ベッドに優しくモモカを押し倒すと、モモカの首筋へ牙を突き立てる。皮を破り、肉を裂く感触が犬歯から伝わる。ジワリと染み出した液体が、舌先を
「あっ……んっ!」
理性の
「ハクちゃ……もう……んっ!」
満たされた口内を空にすると、ごくりと喉が鳴った。
「もう限か……あっ! ダメ……っ!」
何度か背中を叩かれ我に返る。ヤバイ吸血し過ぎた。
「ご、ごめん! 大丈夫!?」
「はぁ……はぁ……止まって、良かった……」
モモカの顔は真っ赤に
「ハクちゃんのえっち」
「んなっ!? しょうがないだろ! 吸血鬼ってそういうもんなんだから!」
吸血時、対象の死を防ぐ為に唾液から痛覚を和らげる成分が出てるんだとか。効能としてはその……媚薬の様な感じらしい。こうなるとは思ってなったけど。
「それでどう? 調子の方は」
深呼吸し、血の流れを意識する。頭のてっぺんから指の先まで。心臓の鼓動に力強さを感じる。
「うん……今まで以上だ」
「それは良かった。……いってらっしゃい」
優しく
「いってきます」
「おう、おめっとさん」
家から出ると、クマ姉から祝福される。もしかしてだけど……。
「あー……外まで聞こえてた?」
「バッチリな。一回で吸い過ぎなんだよ馬鹿が」
「仕方ないだろ!? 加減とか覚えてないんだから!」
人生で2回目の吸血だし、10年のブランクがある吸血鬼に無茶をいうな。
「次は気を付けるこったな。んじゃ、行ってこい。守っててやっから」
「うん、ありがとうクマ姉」
夜が
頭に血の流れを集中させ、成長するイメージを脳内で組み上げる。ふむ、こんなもんか。頭の重さで髪の長さを測る。
「待ってろよアカネ、助けてやるから」
廊下の塀に右足を掛け、力を込める。壊れない程度に跳び上がり、ボクは宙を舞った。
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