第19話
「あっぶね、寝かけてた」
手放しかけた意識をエナドリと共に飲み込んでいく。久々の学校に遅刻してらんない。正直言うと、極限に眠いんだけども。
今ボクは、いつも以上の寝不足に
自分の行動が間違っていたとは思わないけど、
「ひょぉう!」
モモカからのメッセージ音に
『おはようございます。玄関前なので開けてください』
「……いつもは勝手に鍵開けてくるじゃん」
チャイムも鳴らさないモモカの他人行儀さに、ついつい文句が出る。
あの日以降、メッセージ越しで会話はするも、互いに敬語を使ったものになってしまう。いやだって、なんか恥ずかしいじゃんか!
変な距離間に後悔の
「お、おはようございます」
あ、可愛い。いつもと変わらぬ制服姿へ、そんな意識を向けてしまう。なんだか耳が熱い。
「オハヨウ……。ドウゾアガッテ」
照れと緊張で何故かカタコトになる。
「オ、オジャマシマス」
モモカにもカタコトが感染してしまった。
テーブルに着き互いに顔を向かい合わせるも、どう話していいのかが分からない。
「えーとその、ハクちゃんにお話があります」
真剣な表情のモモカに、
「わたし達って……付き合ってるんでしょうか!?」
力んだ腕が、乗せていた太ももから滑り落ちる。え、ボク達付き合ってないの?
「お互いに好きとは言ったけど、付き合うってまだ……言ってないの!」
「へぇっ?」
思わず
えー、互いに気持ちをぶつけ合って、言いたいこと口にしたと。んで、ボクが押し倒してキスした。……うん、確かに言ってない。
「どう……しよっか」
どうと言われても、あの流れで付き合わないとかあるのか? あーダメだ、なんかわかんなくなってきた。
ボクはノロノロとテーブルを離れ、姿見の前に立つ。
「ハクちゃん……?」
不安そうな声を背に、横の小棚からそれを手に取る。ペアのピンキーリング、右手の小指に
「指切りしようモモカ」
「へ? え?」
状況が理解できていないのか、混乱した声が返ってくる。まぁそれもそうだろう。
じれったくなり、無理矢理に指切りをさせる。
「その……こういうことで」
右手にペアリングを付ける時は『変わらぬ想い』の意味合いを持つらしい。てっきりモモカなら知っていると思たのだけど。
「その……今度は約束守るから」
昔の指切りは約束をはたすことが出来なかった。だからこそ、今度は破らない。ボクなりのケジメの付け方。
「うっ……ハクちゃぁああん!!」
「ぐえっ!」
勢い良く抱き着かれ、床に倒れ込む。力が弱ってるせいで受け身を取れなかった……。
「よかった……よかったよぉ!」
ボクの小さな体を抱きしめながら、モモカは号泣していた。
「モモカ……」
「ありがとうハクちゃん……」
違うよ、ありがとうって言いたいのはボクの方だ。吸血鬼であることを受け入れてくれてありがとう。愛してくれてありがとう。
「ホントにこの状態で切るの~?」
「うん、よろしくー」
「結構難しいんだけどな……」
姿見に映る黒い長髪をしたボク。現在、モモカにカットをお願いしている所だ。
「ウィッグ切るの難しいよ~」
そう、これは吸血鬼の力ではない。というか、そんな余裕はない。だからコスプレ用のウィッグで登校することにしたのだ。
「なんか固定したら切りやすくなるとかない? どっかで読んだけど」
「わたしはそれ知らないよ~」
「両面テープ家にあったかなぁ」
ふと、鏡に映るモモカの右手に気づく。あれ、さっきは付けてなかったような。
「いつの間に付けたのそれ?」
右手のリングは、自己主張するかの様に
「んー? いつも持ってるよ~」
……学校にもってことだろうか。てか
「見つかったら、没収されると思うんだけど」
「え? なんも言われなかったよ?」
おい、それでいいのか教育機関。私立といえど、限度ってもんはあるだろ。ボクもパーカーを着てるから、とやかく言われないのはありがたいんだけどさ。
「ねーハクちゃん、このままだと遅刻するよ~?」
やっべ、さっさと両面テープ探さにゃ。ボクだけならともかく、モモカを遅刻させる訳にはいかない。
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