第18話
院内を早歩きで目的地へ向かう。こんなにも早く意識が目覚めるなんて、どうか起きている時間帯であって欲しい。
「ハクちゃん!」
扉の開け放たれた個室へ飛び込み、
運ばれてきた際は重体であり、2週間という短くない意識不明。そんな状況で目覚めたと聞けば、もっと弱った状態を想像するものなのだが、現実は何故か
「お、やっほーモモカ。久しぶり」
ひらひらと手を振ってくる。起きていてよかった、ではなく。
「久しぶりじゃないよ! どれだけわたしが心配したと思ってるの!?」
「んやー、ごめんごめん。早退もさせちゃったみたいだし、悪かったなー」
「そう思うなら、大人しく寝ててほしいかな~……」
「暇だし寝れなかったんだよ。それに、お母さんがやってたこれ面白そうだったし」
ベッドに腰かけたわたしに、スマホの画面を見せてくるハクちゃん。そっか、おばさんと話したんだね。
「……ごめんね、隠してて」
「大丈夫だよ、お母さんと話せたし。それに、共通の話題もみつけたしねー」
なんとなく再開の場面が想像できてしまった。似た者親子とはこういうことか。
「それにしても、もう歩けるようになったんだね~」
即日歩ける程回復するのは、吸血鬼の力なのだろうか。
「とは言うけど、それ無しじゃ歩けないんだぜボク……」
歩行器を指さす。
「……切られてなかったら、違ったのかもね」
肩辺りで雑に切られた銀髪を見つめる。ハクちゃんからしたら、ヒゲを失った猫と同じ状態なのだろう。未熟な吸血鬼の補助器官となる髪を、急に失ってしまったのだから。
「まーこれを機に、コントロールできればいいんじゃね?」
ヘラヘラと笑い飛ばす態度に、ムカついてしまう。
「そんな嘘……つかないでよ!」
つい声を荒げてしまった。力のコントロールには大量の血を必要とする。それは、今のハクちゃんにとって自殺行為と同じだ。
「……」
「……」
互い
「ごめん、わたし帰r「待ってモモカ」」
「ボクさ……モモカに謝らなきゃいけないことがあるんだ」
真剣な表情で見つめてくる頬には、涙の跡があった。あぁ、ずっとわたしを待ってたんだとわかる。
「……うん、教えて?」
「えー、ボクとモモカが初めてあった頃さ、モモカの両親を探してたの覚えてる?」
「うん、覚えてる」
その話か。それならもう……。
「結局さ、見つからなかったじゃんか。でさ、その……ボクが……」
言葉に詰まりポロポロと涙が
「……知ってるよ、どうなったか。ずっと前におばさんから聞いたの」
「ごめん、ごめんなぁ……うっぁああああ!」
子供の様に泣き始めるハクちゃん。いいんだよ、もうとっくに許してるから。それに、1度はわたしを捨てた人達だ。もう両親とは思っていない。
「もう……嫌だ、吸血鬼なんて。人間になりたい」
恐らくハクちゃんの本心なのだろう。胸の奥がズキリと痛む。
「……そんなこと言わないでよ」
「許されちゃダメなんだよ……あのまま消えるのが正解だった!」
泣き止む様子はなく、貯めていたであろう想いが
「駄目だよハクちゃん、わたしがさせない」
「ボクがっ! モモカの血を飲める訳ないだろう! そんなの……無理だ!」
「嫌なんだよ、あのクソ親父と同じなんて。人間でいたいんだ……」
消えていきそうな声にわたしの気持ちが爆発する。全力でハクちゃんの頬を強く
「ふざけないでよ! そんな自分勝手な考え!」
「モモカ……」
「もうわたしの血は、ハクちゃんの体に流れてるんだよ?」
みるみる顔が青ざめ、絶望の表情に変わっていく。黙っていてごめんね?
「それに……消えたいのはわたしだって同じ」
「な、なんで……」
あぁ、ついに言ってしまった。ずっと隠しておきたかった気持ちを。
「わたしね、本当は吸血鬼が……ハクちゃんも怖いんだよ?」
「え……」
わたしの
「昔から、ずっと吸血鬼が怖いの。自分は
思い出すだけで全身が冷たくなる、選定される恐怖。ハクちゃん達がわたしをそう見てないのは分かっている。それでもこの感情は消えてくれない。
「なら、ボクを
弱々しい力で押し倒される。零れる粒がわたしの服を濡らす。
「無理だよ……だってハクちゃん、優しいから」
涙を
「わたしはね、そんなハクちゃんに
いつからか芽生えていた、ライクではなくラブの感情。それは
「んぇ……へ?」
「好きだから、怖くても一緒に居たんだよ? ふふふ、わからなかった?」
「いや、あの、えっと、ボクは」
驚いた
「わたしはね、ハクちゃんに血を吸われて死にたい。それが叶うだけでいいの」
その覚悟はもうできている。好きな人に恐怖を感じなくなるし、わたしの血はハクちゃんの中で生き続ける。これ以上、互いに傷つかなくて済む。
「だからお願い……」
あの時は恐怖で拒んでしまった吸血行為。抱きしめる様にハクちゃんの顔を首元へと近づける。これで楽になれる。ありがとう、ごめんね。
「モモカ……ごめん」
「!?」
突然キスをされる。ちょっと待って、思考が追い付かない。
「ん”!?」
酸素を取り込もうと
探る様に舌を
「プハッ……」
限界を感じ、ハクちゃんの口が離れた。とてつもなく長い時間、互いを味わっていた様に感じる。
「ハァ……ハァ……」
呼吸が乱れ、思考に
「ボクだって、モモカが好きに決まってんだろ!」
耳まで顔を紅に染め上げたハクちゃんが言い切る。その言葉は、わたしの胸に染み込んでいく。
「好きな人に……居なくなられてたまるもんか」
子供の様に照れて視線を
「でも……いろんな問題とか」
「同性だの、種族なんて知ったことか。文句あるならまたキ……チューするぞ」
「そ、その……舌はどうかと……思います」
「え”っ”!?」
あまりに照れくさくなり、思わず敬語になってしまった。というか、わたしのファーストキスこれでいいのだろうか。
「えっと……ハクちゃん」
「はい……」
「り、両想いということでいいのでしょうか」
「そう……ですね」
そのまましばらく沈黙が流れた。恐怖とは違う感情に、心臓が鳴りやまない。
「もう1回いいかな、モモカ……」
「う、うん……」
バクバクと心臓が
「モモカ、鼻血!」
「へ?」
鼻からドロリと液体が
「えっと……舐めてみる?」
「自分の状況考えような!?」
そういってハクちゃんはナースコールを鳴らす。目まぐるしい状況に感情が追い付いてこない。ただ1つ言えるのは、あれだけ長年
ハクちゃん、好きだよ。
それから2日後、目覚めてから3日という
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