第14話
ぱちりと目が覚める。頭は重く、体の
「あ"ー……どこだここ」
見知らぬ天井に、
病院かとも思ったが、病室にしては無機質な白い部屋に寝かされている。
「……逃げるか」
どうせろくでもないトラブルに巻き込まれてるのは確かだ。なら逃げるが勝ちってもんよ。
「よっ! ……ん? ふっ! ……あれ?」
深呼吸をし、酸素と共に血を
「……え?」
上がらない。というか、いつもの力が出せない。
「どうなってんだこれ!?」
血は
「なんだ、もう起きていたのか」
頭の上から
「テメェ! ボクに何をした!」
「父親にそういうことは言うものじゃないよ」
急に父親面してんじゃねぇぞ、気持ち悪い。つーか、視界に入ってこいよ、頭の上から声すんの嫌なんだが。
「とりあえずだが、今の君は一般と同程度の力しか出ないよ」
「……なにが目的? 昨日の話に関係あったりすんのか」
それを聞くと
「それはもう一昨日の話だよ。後2日は眠ってもらうつもりだったんだけどね」
つくづくコイツが嫌になる。人が丸3日寝る量の睡眠薬でも使ったってのか。ドブカス野郎が!
「この人でなし!」
「それはそうだとも。なにせ吸血鬼だからね」
茶化されたことで力が入り、腕の拘束具が軽く持ち上がる。
「おぉ、やはり血は優秀だ。でも、今逃げられると困るんだよね」
そう言って指を鳴らすと、急激に力が抜ける。
「んにゃっ!? なんだこれ……!」
「あぁ、別に変な物じゃない。血流を
「ボクへの当て付けかよ……っ!」
普通の吸血鬼は、血流を抑えても特に効果は無い。しかし吸血をせず、血の力が薄れているボクには、絶大な効果を発揮する。
「薄まっても、君の力は強過ぎるし、私は目的を邪魔されたくない。なら、拘束しておくのは利己的だと思わないかい」
クソ野郎が。つーかなんでボクが拘束されにゃならんのだ。まて、目的ってもしかして。
「お前……アカネに何かするつもりか!」
「いいや? 彼女に対して何かをすることは無いよ」
メリットがないと言い張るが、お前には信頼が無い。どう信じろと。
「始祖様に繋がる一歩だからね、
「その始祖様に繋がるって、どんな意味なんだよ」
何か思ったのか、しばし無言になる。
「うん、君に話せることは無いな。
軽率に話す、程馬鹿じゃ無かったか。これ以上探ろうとしても無駄だろうな。となると……。
「
「ダメだ、ここで拘束されてもらう。君は何をするかわからない」
逃げることも
「……なら、今進めてるプロジェクトあるんだけど、それの相談は?」
「ふむ……グループの利益に
かかった。コイツはボク自身の行動や中身に興味が無い。子供だからって甘く見たな。
「なら、飲料開発部門の責任者を呼んで貰っていい? 試作品についてって言えばわかると思う」
「あぁ、問題無いよ。でも、変なことを考えられたら困る。だから眠っていてくれ」
何か機械を操作する音が聞こえると、
内心で勝ち
「
眼鏡をかけ、ニットを着た女性がボクの視界に現れる。彼女は『
「待ってたよー葉瀬。めっちゃ暇だった」
夜中に目覚めると、周囲に誰もおらず、天井観察という、無為な時間を過ごしていた。せめてスマホかTVはくれよ、配信サービスとか使うから。
「それでその……体調の方は」
ボクの姿に驚かないってことは、ある程度事情は知ってるっぽいな。
「んー、昨日よりも、力入らんかな」
葉瀬は手を握ってくるが、ボクの弱々しい力に悲しそうな顔をする。
「そんな顔すんなって、頭痛に
「それは貧血って言うんですよ珀様……」
あれー、なんか呆れられてしまった。にしても貧血か……血でも抜かれたかな。この状態が続くのはよろしくないな。
「珀様!?」
「んぇ、どうかした?」
「髪どうしちゃったんですか!?」
え、待ってどういうこと。
「綺麗な
なるほどな、なんつー嫌がらせを。腰まで伸びるのに何年かかったと。
「スッキリさせたいとは思ってたから丁度いいよ」
「あんなに綺麗な銀髪、
頭重くなるし、
「髪は置いといてだ。葉瀬、アレ持ってきてくれた?」
「えー……。ちゃんと持ってきましたよ、ハイプリミアエナジー」
葉瀬は、まだパッケージのない飲料缶を取り出す。
「いやー助かる助かる。怪しまれたりしなかった?」
「はい、警備員の方にもおすそ分けしましたが、美味しいと言われました」
となると、警備員は吸血鬼の可能性が高いかな。モモカの感想的に、普通の人間が好む味ではない気がしている。吸血鬼やカフェイン好きの人間じゃないと、美味しいなんて感想は出てこないはずだ。要は売れないってことなんだけど。
「悪いんだけどさ、飲ませて貰っていい?」
「そんなこともあろうかと、ストロー用意してきましたよ」
プシュッと心地よい音を立て、空いた缶から独特な甘さが
強めの炭酸が喉奥を刺激し、独特な味が口内に広がる。後を引く甘さで活力が沸き上がる。無理矢理血流を操作して、カフェインを体中に循環させる。
「さんきゅー。危ないからちょい離れてて」
葉瀬が離れたのを確認し、集中する。全身に力を込め、全力で起き上がる。
「だっ……しゃあ!」
力を出し切ると、ベッドを腰辺りで折り曲げる。よし、起き上がれた。四肢の自由も取り戻すと、先程までベッドだったものが、辺り一面に転がっている。
「んじゃボクは逃げるわ。あ、残りの奴全部ちょうだい」
「まとめて飲むのはやめてくださいね。では、お気を付けて珀様」
「りょーかい」
開封済みも含め3本貰うと、入口とは逆の壁を、蹴り飛ばす。轟音と共に崩れていく壁。なんだ結構
「悪いね、捕まってる暇なんてないんだ」
開封済みを飲み干し、空き缶を縦に潰す。それじゃあ、ちょっと本気出しますか。
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