第9話
「お待ちしておりました、
ホテル内で初老の男性から声をかけられる。吸血鬼では無いが、
「支配人さん、久しぶり。最近はわりかし元気だよ。今回の場所も、いつもと同じ?」
「
ニコリと笑みを浮かべる支配人さん。まだ子供なボクらにも、
「あ、あの、ハクさん。もしかしてなんですけど……」
何故か小声で話しかけてくるアカネ。
「どうかした?」
「お、お
「あー……形式上は?」
「す、凄い……!」
凄いことだろうか。別にボク自身はなんもないぞ。
「ハクちゃんが
「そうなんですよ! まるで
お姫様……ねぇ。思い当たる理由を視界の
廊下の途中で、支配人さんがピタリと立ち止まる。
「会場はこちらの
「あーい、支配人さん、ありがとう」
「いえ、仕事ですから……おっと、
支配人さんは、
「相変わらず、丁寧でいい人だねぇ〜」
「え、え? 途中で戻りましたよ?」
満足気なモモカとは真逆の反応をするアカネ。大丈夫、モモカも最初はそうだったよ。
「ちゃんと理由はあるよ。支配人さんは人間だからね」
「それはどういう……」
「ここから先は吸血鬼の
無言でモモカの手を取り、先へと進み始める。決してイチャつく為ではない。モモカが、他の吸血鬼に狙われない為にはこの方法しかないだけ。
支配人さんが止まった理由も同じ、これ以上進むと命を落とすことになるからだ。
「じ、じゃあ、モモカさんが襲われないのはなんでですか?」
「今はボクが手
紙袋を
「アカネなら大丈夫だけど、怖いなら手繋ごうか?」
「お、お願いします!」
空いている方の手を差し出すと、
かといって、振り解いても困るので、怪我しないことを祈る。今気絶する訳にはいかないから。
着替え終わり、壁の姿見で自分を確認する。黒を基調とした、体のラインが出るパーティードレス。肩から肘にかけてのシースルーと裾のフリルが、シンプルながらも可愛さを引き立てる。
「やっぱ慣れないな……」
集まりの度にドレスを着るが、今日は誰がチョイスしたんだこれ。ボクはこういう服苦手なんだけど。
「珀様、いかがでしょうか?」
着替えを手伝ってくれたスタッフから声がかかる。顔馴染みのスタッフだ。
「あーうん、多分いいと思う」
「お気に
そっかぁ、選んだの君かぁ……。センス悪いとかじゃないから良いんだけどさ。
「ハクちゃん終わった〜?」
「ちょうど終わったよ。そっちは?」
モモカがパーテーションから体を覗かせる。その服装って……。
「えへへ〜、色違いだよ〜」
ボクと同じ格好ではあるが、色合いは白を基調としていた。モモカによく似合う。スタッフの人がサムズアップしている。いい仕事だ……。おっと忘れてた。
「モモカ、首輪忘れてるよ」
「首輪じゃなくて、チョーカーって言ってよ〜。はい、ハクちゃんが付けて」
手渡された首輪……ではなくチョーカーを、背伸びし抱きつくようにして装着する。
「……っ!」
「どうかした?」
「ううん、何でも無いよ〜」
眼前にあるモモカの顔が赤くなっている。……ん”っ! 無意識な自分の行動に気づく。こっちまで恥ずかしくなってきた。
「な、何してるんですか、お2人共!?」
真っ赤な顔で寄ってきたアカネのドレスは、ボクらと違ってふんわりとしたシルエットのワンピース。茜色の髪とブルーグレーのドレスは以外と
「何って言われても〜」
「ひ、必要なものを付けてるだけだよ」
「な、なんの為にですか……?」
「このチョーカー、ボクの髪が使われてるから、付けてるとモモカが襲われなくなるんだ。人間を連れてる吸血鬼は、こういう装飾品で客人を
「な、なるほど……」
常にモモカと手を繋ぐ訳にはいかないし、装飾品で主張をしないと、モモカが他の吸血鬼に襲われる。何にも護られてない人間は、吸血鬼の
「
先程とは別のスタッフが声をかけてくる。いつもなら断るけど……2人がいるし、たまにはいいか。
「「これがプロ……!」」
キラキラとした目線を向けてくるモモカとアカネ。やめろ、恥ずかしいからマジマジみるな。恥ずかしさを
髪型こそ普段と変わらないが、強調されたアイラインに、薄い口紅やアクセサリーがモモカを
アカネはヘアメイクが主体の様だった。モサモサとした髪型は丁寧に
ボクはと言うと……どちらのメイクもされた。顔は目元のくまを消され、口元には薄ピンクのグロスが引かれている。髪の方はハーフアップというのにされた。
お嬢様を全面に押し出したかの様な全体的な
「ハクさん、今まで以上にお姫様みたいです……!」
やめてくれ、ちょっと気にしてるんだから。
「えぇ、珀様は、我々のお姫様ですから」
「へ? ……え?」
「あ! ちょっ!?」
静止しようにも間に合わず、スタッフがドヤ顔を浮かべ続ける。
「吸血鬼を
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