第2話

「陽射しがあ"っ"つ"い"」

 まるで真夏日のような悲鳴を上げるハクちゃんだが、今日はただの秋晴れ。

「炎症のクリーム塗る?」

「そうだね……」

 吸血鬼であるハクちゃんは、陽射しに滅法弱い。日焼け予防を過剰なまでに行い、長袖を着た上で軽い炎症を起こす。

「わたしやろうか〜?」

「流石に学校だしいいよ。先教室行ってて」

「うん〜……あ」

 朝から不快なものをみた。

「ううん、なんでもないよ〜」

 下駄箱に入った手紙をクシャリと潰し、見なかったことにする。

どうせまた呼び出しなんだろうな、めんどくさい。

「ふぅ……」

 軽く溜め息をつく。やっぱりハクちゃん手伝おうかな、わたしなりのメンタルケアに。

 屋上に向かう階段の踊り場で、ハクちゃんがエナドリを飲んでいた。

「あっやっべ」

「……いつ買ったの?」

「さっきコンビニ寄った時に……」

 しゅんとした顔のハクちゃんも可愛いが、両手でガッチリとエナドリの缶を握っているのをわたしは見逃さない。

「取りあえず、放課後までもう飲まないでね〜?」

「え"っ"」

 当然だと思うんだけど、吸血鬼にその概念はないんだろうか。

「カフェインはね〜致死量があるの。だからダメだよ?」

「はい……」

 やっぱり楽しいな、ハクちゃんと居ると。

「結局手伝って貰ってごめんモモカ」

「別にいいよ〜」

 わたしは落ち着けたし、ハクちゃんも肌ケアが出来た。一石二鳥である。



 体育明けの昼休み、教室へ戻る時に声をかけられる。

「津名さん、ちょっと良いかな」

「うん、いいよ〜」

 誰だっけこの男子。

「えっと、下駄箱の手紙読んでくれた……?」

 あー手紙の差出人。

「ごめんね〜? 気づかなかったよ。なにか用事?」

「えっと、その、俺と付き合っt「ごめん無理〜」」

 答えを聞くまでもなく断る。これで何回目なのだろうか。

「ど、どうしてか聞いていい?」

「あんまり恋愛に興味無いんだよね〜、君のこともあんまり知らないし〜」

 もはや定型文と化した返しを吐き出す。

「な、なら友達k「ごめんね〜」」

 わたしとハクちゃんの世界に入ってこないで欲しい。

「そっか……その、それて、いつも一緒の女の子が関係してるの?」

「ハクちゃんのこと〜? うーん、それもあるかも」

 正確に言うならそれが全てなんだけれど。

「あー、あの小さい病弱な子だっけ大変だね。よかったら俺もなんか手伝おうか?」

 愛想笑いで取り入ろうとしてくる男子。あーダメだ、きっしょいなコイツ。生理的に無理。

「ごめん〜ハクちゃん待たせてるからもう行くね〜」

「あっちょっと……」

 毎度こうだ。ハクちゃんを引き合いに出してくるのが本当にムカつく。

「クソッ、なんだあの女……」

 ……きかなかったことにしておこう。ハクちゃんがお腹を空かせているだろうし。なによりコイツに時間使うのが勿体ない。


「お待たせ〜」

 朝と同じく、階段の踊り場でハクちゃんは待っていた。

「お腹すいたー」

「朝食べないからだよ〜」

 むぅ、とふくれれる頬が可愛らしくも、年不相応に見え、少し辛くなった。

「モモカ、食べようよ」

「そうだね~」

 弁当袋を開け、片方をハクちゃんに手渡す。

「んん、えっとなんだこれ」

「えーと、貝のごはんにコンビーフとジャガイモの炒めたやつ、たまご焼き、小松菜の煮びたし、最後にこれ豆乳~」

 自販機で買ってきたパック豆乳を渡して、今日のお弁当が完成する。今日の中身は自信作だ。

「……全部鉄分?」

「キノセイダヨ」

 流石にバレバレだった。

「まぁ大丈夫、血を感じるわけじゃないし、モモカの作った料理なら美味しいし。いつもありがとう」

「えへへ、どういたしまして~」

 それに、と続けようとしたわたしを、ハクちゃんが遮る。

「ん、たまご焼き美味しい! これ明太子入ってる?」

「うん、本来はチーズとか入れるらしいけどね~」

「なるほどなぁ……1切れ貰っていい?」

 ハクちゃんはよく、わたしのお弁当も求めてくる。毎度それを見越して多めに作るから困ることはない。

「いいよ~……ん”っ”」

 ハクちゃんがあーんと、たまご焼きを求めてくる。それはちょっとずるいんじゃなかろうか。

軽く震える手で、小さくしたたまご焼きをハクちゃんの口へ運ぶ。

「あむ……うん美味しい。ごめんね貰っちゃって」

 モグモグと租借しながら幸せそうなハクちゃんを見て、私の心は癒される。

幸せな昼休みの時間が過ぎていく。やっぱりわたしにはハクちゃんがいればそれでいい。

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