第2話 聖杖製作の実演
明くる日の朝、朝食を済ませた私は、お父様の要望に応えてエルダートレントの木を材料にして、お父様、お兄様、そしてお姉様の前で聖杖を作っていた。
「神力浸透、魔素排除、神力回路形成、固定化…」
全体を神力で覆ってエルダートレントに含まれる魔素を追い出し神力を十分に馴染ませた後、中心線に沿って神力の通り道を作りこんで
「ふう、出来た。どうせ魔素を追い出すなら、魔素を多く含む魔木を使わない方がいいのかな?」
そんなことを言いつつ、私は仕上げに
「凄いじゃないか! アメリアが法術を使えたなんてお兄ちゃんは鼻が高いよ!」
「ありがとう、ロナウド兄様。でも大したことはできないから周りには黙っていてね」
言いふらされたら教会行きになりかねない。前世と変わらない神力量を持つなら、一定以上の力量を持つ聖職者には誤魔化しきれないだろう。
「そんなことより、その杖はどうなのよ。ちゃんと増幅効果はあるのかしら?」
お兄様とお姉様はそれぞれ二十二歳と二十歳で、既に魔法使いの杖を整備する魔杖職人としてルーデンス伯爵の城や魔族との境界にある辺境の防衛拠点に出向く身だ。今までにない聖杖という代物の性能が気になるのか、詰め寄るように聞いてくる。
「えっと、二倍くらいの効果はあるかと思います」
そう言って、左手に拳骨くらいの大きさのホーリー・ライトを、右手の先の杖の先端に体積が倍、直径にして二十五パーセント増しのそれを同時に浮かべて見せた。
「…アメリア、無詠唱で同時に二つの法術は普通は使えないものよ?」
シェリル姉様は鋭く指摘し、大したことできないなんて嘘でしょうと後ろ髪をかきあげてニヤリと笑った。正直、ホーリー・ライトみたいな初級魔法を詠唱抜きで二つや三つ浮かべたところでどうということもなかったけど、とりあえず力尽きた振りをしておく。
「うぅ…もう神力が限界です! ああ、めまいが!」
そう言ってよろよろと壁にもたれ掛かる私をジト目でシェリル姉様は見ているけど気にしたら負けよ。平穏な生活を送るには爪を隠して生きていかなくては!
「二倍だって? それが本当だとしたらとんでもないことだぞ。回復魔法が一気に二倍使えるということじゃないか!」
シェリルお姉様と違って細かいことは気にしないロナウド兄様は単純に杖の性能に驚いたようで、さっそく辺境の防衛拠点に配備できないかと考えを巡らせている。確かに杖無しで回復させるのは勿体無い気もするけど、魔王も封印したし、そんなに切羽詰まっている訳ではないのでは。
そう思って聞いてみると、最近では妙に魔物が活性化しているようだ。
「わかりました。製作の過程で魔木に含まれる魔素を完全に追い出して神力を馴染ませているので、魔法使いの杖とは違う材料が最適な可能性はありますが、現時点で出来るものを順次作っていきます」
そう言う私の言葉にお兄様は頷き、お父様とシェリル姉様は互いに顔を見合わせた。やがてお父様がこちらに振り向いて答える。
「軍に納入するには出来る限り均一なものが望ましい。心当たりのある木材を取り寄せるからしばらく待つように」
「なるほど、わかりました!」
その後、お父様から指示を受けてしばらくは練習に留めて売らないことになり、今日の聖杖製作の実演会はお開きとなった。
◇
アメリアの聖杖製作の実演が終わった後、ポールとシェリルだけがその場に残った。ロナウドとアメリアが談笑しながら部屋を出ていったのを待ち構えていたかのように、シェリルがポールに鋭い口調で訴える。
「お父様。エルダートレントの木から魔素を完全に排除できる法術使いなど、王都の教会本部にも何人居るかわかりませんよ」
アメリアは何でもないことのように聖杖の製作プロセスを語ったが、内容的にはとんでもないものだった。エルダートレントから魔素を完全に取り除いて神力を馴染ませるなど、言うなれば力技で魔木を神木に塗り替えているのだ。魔木ではない単なる木を使う方がよほど難易度は低い。本来は、東国にある神木やエルフの森の精霊樹や世界樹の枝が聖杖の材料としては適切なのだろう。
「わかっている。しかしアメリアも隠していたいようだし、第一…」
「第一なんですか?」
「十二歳の娘を教会なんぞにくれてやるものか」
それを耳にしたシェリルは溜息をついた。歳の離れた末娘として生まれたアメリアはとにかく可愛がられて育てられてきた。ポールにとっては魔杖職人としての素質の有無など関係なく、可愛い娘というわけだ。
「はあ、わかりました。でも、ロナウド兄様のところでエルダートレント製の聖杖などが出回った日には隠し切れませんよ。せいぜい、精霊樹や神木をお取り寄せになることです」
少なくとも伯爵様やその周囲の人間はロナウド兄様のように抜けていませんよと言い残してシェリルはその場を後にし、ルーデンス伯爵の城に出仕するのだった。
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