拙者、世界の話はよく分からぬ侍!
『どうか考えを改め、我々と共に人類の管理を手伝ってくれないだろうか?』
闇に包まれた上下も分からぬ虚空の先。
カギリとユーニの周囲で流れ続ける、滅びと絶望の光景。
その破滅の中に立つ老人は、その乾いた瞳に明確な恐怖を――人類という存在への恐怖を宿し、懇願した。
「待つでござる! そもそも、拙者たちはそのオームとやらを壊しに来たわけではござらん! 貴殿らが行っている、人減らしを止めて貰いに来たのだ!」
「神様がこの世界や僕たちにとって大切な存在であることは、もう知ってます! だけど、いくらこの星とみんなのために必要だからって、なんの罪もない人たちの命を奪い続けるのはやっぱりおかしいですっ! お願いですから、今地上で起こっている魔物の攻撃を止めて下さいっ!」
『オートマタによる人減らしを止める――それが、君たちの目的というわけか』
「そうです! 僕もカギリさんも、そのためならいくらでも貴方たちに協力しますっ! だから、一緒にもっと良い方法を考えましょう! そうすれば、きっと違う道が――!」
カギリとユーニの訴えに、声は僅かな沈黙を保つ。しかし――
『――それはできない』
「っ……! なぜでござるかッ!?」
「リーフィアさんやサナリードさん……他の大勢の魔物の皆さんとだって、僕たちはきっと上手くやっていけます! 僕たちを管理するにしたって……戦ったり、命を奪ったりする必要なんてないじゃないですかっ!?」
『否――君たちの言葉を〝信じることはできない〟。なぜならば、恐るべき人類は今この時も星の至る所で争いを続け、自らの手で同胞の〝命を奪い続けている〟ではないか――〝人が安全だと判断する理由〟は、一つもない』
「そ、そんな……っ!」
瞬間。二人の周囲に映る光景が変わる。
そこではユーニやカギリもよく知る今この瞬間の世界が次々と映し出され、そこで起きる貧困や犯罪。そして国同士の凄惨な争いがはっきりと浮かび上がっていく。
『自ら思考する事が出来ぬオームに代わり、我々はオームの目となり耳となってこの星を見守り続けた――この千年、人類を見続けた我々が下した結論は変わらぬ。人類は危険――支配と管理、そして罰以外の道はなし』
『やはり、我々が千年前にオームに与えた指示は正しかったと言わざるを得ない』
『人類の総量管理は今後も維持する。現在実行中の削減任務も遂行する――君たちがそれを不服とするのなら、交渉はここまでだ』
その言葉を合図に、突如として映像が途絶える。
闇に墜ちた空間に広大な光の円形プラットフォームが浮かび上がり、その舞台の上に先ほどの老人が一人――ぽつんと佇んでいた。
『残念だよ。新星や天使たちを壊さずにここまで到達した君たちなら、我々の意義を理解してくれるやもと思ったのだが……』
「待たれよご老体! 人は確かに多くの過ちを犯す……だがだからといって、まだ過ちを犯すかも分からぬ者の命まで奪うことは断じて認められぬッ!』
「お願いだから話を聞いて下さい! 僕たちは神様を壊しに来たわけじゃないんです! ただ、魔物を使って人を殺すのを止めて欲しいだけで……っ!」
『過ちならば〝とうに犯している〟。今を生きる全ての人類は、文明崩壊と無数の命を奪い尽くした存在の末裔だ。そして、人を増やさぬことこそオームに与えられた最も重要な使命。君たちがその使命を曲げようとするのであれば――排除する』
「く……っ! どうしてもやるつもりでござるか……!」
しなびた老人の体が、ふわりと光のプラットフォーム上に浮遊する。
そして枯れ枝のような腕を大きく広げた老人の背後に、そびえ立つ機械仕掛けの神――オームが陽炎のように浮かび上がる。
『元より、イレギュラーと手を携えられるとは思っていなかった。君たちにオームは変えさせない。オームはこれからも――永遠にこの星と命を育み、人を縛り続けなければならないのだから』
「カギリさん……!」
「うむ! どうやら、ひとまず刃を交えるしかないようでござるな……!」
闇に浮かぶ光のプラットフォーム。その上で、カギリとユーニはついにその姿を現した神――オームと対峙する。
『我々は決して人を憎んでいるわけではない……誰よりも人を恐れているのだ。恐れているからこそ、我々はあらゆる手段を使って人を管理する――かつてここで我々に屈した〝あの三人〟のように、君たちもオームの力の前に屈せよ――!』
「拙者には世界のことも、難しい話も分からん! 分かることと言えば、拙者も他の皆も――〝命を奪われるほどの罪など犯していない〟ということでござるッ!」
「カギリさんの言うとおりです……! たとえどんな理由でも、貴方が罪もない沢山の人の命を奪うというのなら……神様だって止めて見せる! それが勇者の――僕の生きる意味です!」
『今生の人類は、その全てが〝生まれながらの罪人〟なのだ。我々は、その罪をあがなうために存在する。己だけでは罪を自覚することも出来ず、罪を償うことも、自らを律することも出来ぬ哀れな人類のために生まれた機械の神。それがオームだ――!』
「それが出来るか出来ないかなんて、やってみないと分かりません――!
「拙者にも分かったでござる……やはりその機械は神などではない……! 貴殿らが恐れるという〝人〟そのものだ――!」
漆黒の闇――その先に向けて手を掲げたユーニの頭上に翡翠の光芒が降り注ぎ、その光を切り裂いて彼女の聖剣――ミア・ストラーダが光の大地に突き刺さる。
カギリは深紅の装束を決然と振り払い、抜き放った刃の切っ先を眼前に立つ神に定める。
それと同時。彼を支える膨大な揺らぎが収束して弾け、紅蓮の雷光となってその場に顕現した。
「拙者の名はカギリ……またの名をギリギリ侍!」
「我が名はユーニ・アクアージ!
共に並び立ち、淡く輝く緑光を纏うユーニと、鮮烈に迸る赤雷を纏ったカギリが同時に構える。
「僕たち二人と――みんなの想いにかけてっ!」
「いざ――尋常に勝負ッ!」
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