拙者、到達侍!
「
「いざ! いざいざいざッ! 推して参るでござるぞ――ッ!」
どこまでも続く白と黒の回廊。
アルシオンの足止めをティアレインに任せ、先に進んだカギリとユーニは、その果てなき回廊を埋め尽くす天使の軍勢とたった二人で対峙していた。
「いやはや! なんともとんでもない数でござるな! もはやどちらが前で、どちらが後ろかもよく分からぬでござる!」
「大丈夫ですかカギリさんっ? 疲れてませんか!?」
「心配無用! 拙者、これほどまでに揺らぎに満ちた場所で戦うのは初めてのこと! 逆に力が溢れすぎ、以前のように暴走せぬよう抑えているほどでござる!」
「ふふ、そうですかっ! なら――!」
「応――ッ!」
雲霞のごとく立ち塞がる天使の群れ。
翡翠の閃光と化したユーニが鋭角な軌道と共に軍勢を切り裂き、紅蓮の雷光と化したカギリがその道を一瞬にして押し広げる。
『馬鹿共が……自分たちが何をしようとしているのか、分かってるのか? 誰のお陰で千年もの間この星と命が生き延びたと思っている? 全てはオームの力……オームがお前たちを生かしたんだ』
『それを忘れ、一時の喪失を拒み、暴をもって神に牙を剥く。それがどれだけ愚かなことか。貴様らは何も分かっていない――』
「分かってます! 神様のお陰で僕たちが生きてこられたことも、この星の命がようやく元通りになってきたことも……僕たちはもう知ってます――っ!」
「だがそうだとしても! 真実を知った以上、もはやこれ以上の命が失われるのを座して見ているわけにはいかぬ! 多少荒療治でも、そのオームとやらには拙者たちの話を聞いて貰うでござるぞ――ッ!」
ついに到達した回廊の終端。
そびえ立つ巨大な門を二人の視界が捉える。
そしてその門の前。待ち構えていた〝二体の天使長〟が、カギリとユーニの前でその神々しい翼を広げた。
それは、星冠の魔物であるリーフィアやサナリードを上回る力を持つ四新星最後の二体。
二体の天使長は互いに赤と青の光を纏うと、カギリとユーニに群がる天使もろとも消し飛ばす破滅の光を撃ち放った。しかし――!
「頼む、ユーニ殿!」
「はい、カギリさんっ!
瞬間。ユーニの纏う装甲が重装鎧へと変化。
聖剣が一瞬で巨大な盾となり、さらにはユーニの眼前に無限螺旋を描く何千にも及ぶ翡翠の光壁を構築。
二体の新星が放つ膨大な破壊エネルギーを一身に受け止める。
「く、ぐ――っ!」
『無駄だ。たとえお前が最強の勇者でも――!』
『我ら新星の力の前に人は無力――!』
強烈な閃光が炸裂し、ユーニが展開する守護の緑光がまるで水に溶けた水彩絵の具のように空間へと溢れ、砕けながら遙か後方目がけて一気に流れていく。
その光景を見た二体の天使長は、勝利を確信して笑みを浮かべた。だが――
「否――ッ! 〝拙者とユーニ殿の真髄〟――今この時にありッ!」
『なんだと……!?』
だがしかし。あと一歩でユーニをその守護の盾ごと飲み込もうとした新星の力は、突如として弾かれたゴムボールのように180°向きを変え、主である天使長めがけて逆流する。
カギリの呼び掛けに応えた揺らぎ達が神の支配を脱し、二体の天使長に反旗を翻したのだ。
「お主らの力は確かに凄まじい――! だが、ただ破壊するためだけに集められた揺らぎほど、見切るのは容易い!」
『馬鹿な……我らの力を奪っただと……!? こ、これが……貴様がイレギュラーである理由だというのか……!?』
逆流し、迫り来る自らの力。
二体の天使長の顔に驚愕が浮かび、それはその力の向こうから更に迫る〝二つの人影〟を見て絶望と恐怖に染まった。
「拙者はいれぎゅらーなどという名ではない! 拙者の名はカギリ……またの名をギリギリ侍! 何度言っても分からぬのなら、何度でも名乗らせて貰うまで! いざ――ユーニ殿!」
「合わせます!
『し、信じられん……! この力……この二人の力は……!』
轟く雷光となったカギリと、その身を純白の甲冑に包み、四本の光剣を従えたユーニが加速飛翔。
跳ね返した天使の力すらその身に取り込むと、紅蓮と翡翠の二つの光芒となって突撃する。
「死中――推して参るッ!」
「
『が、あ……ッ!?』
『オームよ……申し訳……――』
閃光。
そして凄まじい衝撃と炸裂。
カギリとユーニ。
共に修めた剣の極致へと到達した〝二人の武神〟は、回廊の終端にそびえ立つ巨大な門ごと、群がる天使の軍勢も、それを率いる二体の天使長すらも何もかもを消し飛ばし、穿ち抜いた。
回廊の終わり。
終端の先。
全ての障害を排除した勢いもそのままに、最後の地へと飛び込んだカギリとユーニを、その空間はただ出迎える。
白が砕ける。
黒が晴れる。
灰色の停滞が終わり、清冽な風が二人の傍を舞った。
そして――
『おやおや……ついにここまで来てしまったんだねぇ……』
「え……っ!?」
「なんと……先客でござるか!?」
そこは、とても小さな部屋だった。
木製の壁に囲まれた室内が、小さなランプの明かりに照らされている。
壁にはちくたくと時を刻む古時計。
同じく木製の机の上に置かれた古めかしいモニターと、さび付いた機械。
そしてその机に向かう椅子に座る、一人の老人。
『どうしたものかねぇ……〝私たち〟は、オームを壊されると困るんだがね……ああ、オームを作ったのは私たちだよ……イレギュラー……』
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