拙者、星に任せる侍!


 星の海と青く輝く大地の狭間。

 そこに浮かび上がる衛星要塞ゲフィオンの影。


 魔物とドラゴン。

 長きに渡り争っていた二者によって切り開かれた解放への道。


 カギリ達がついにその道の終着点へと到達しようとした時――少女は現れた。


「あなたは誰?」

「私はリーフィア」

「虚ろな星のリーフィア」


『あなたはリーフィア』

『私はフィナーリア』

『虚空星フィナーリア』

『私は、あなたのデータを元に作られた』

『新しいあなた』


「に、似てる……っ! っていうか、まんま白くなったリーフィアだ……!」


「さっきのカルナって奴は、ちらっと見ただけでも〝カナン様にそっくり〟だったわ……! きっとこの子も、姉様と同じ力を持ってるはずよ……!」


「り、リーフィア殿と同じ力でござるか!? それはぶっちゃけ、ハチャメチャにヤバイでござるぞッ!?」


 現れた光、それは一つ。

 目の前に浮遊する少女には、先ほどの天使の軍勢のような数も、地上で相対したカルナのような神々しい威圧感もない。


 しかし違う。

 

 この少女は――〝虚空星フィナーリア〟と名乗ったこの少女の力は、完全に異次元の領域だった。

 初めて向けられる〝虚空の殺意〟に、ティリオもラティアも、カギリとユーニ、ティアレインですらその身が竦み、強烈な息苦しさにうめく。


 実のところ、かつて戦ったカギリですら、リーフィアから殺意や敵意を向けられたことは一度たりともない。


 この世でセロリ以外の全てを愛するリーフィアは、たとえ敵に対してもそのような破壊衝動を露わにすることはなかったのだ。だが――!


『私はあなたたちを消す』

『殺す』

『それが、わたしの意味』


「来る――!」


「っ!? ティリオ殿ッ!」


「なんだと!?」


「マジかよッ!?」


 瞬間。世界の時が止まった。

 それはかつてリーフィアが行使した、全宇宙規模の時間停止。


 しかし今度のそれに加減はない。

 世の命を守るための力ではない。


 ユーニやカギリ、ティアレインといった実力者は辛うじて時の止まった世界の景色を認識することが出来た。


 しかし、動くことができない。


 揺らぎと思いを通わせたカギリですら、先んじて時空を止められてしまえば、揺らぎに呼び掛けることすら出来なかったのだ。


『さようなら』

『さようなら』

『さようなら』


 全てが停止した世界。

 その世界の中でただ一人、光り続ける虚空星が動く。

 小さな手を掲げ、赤く輝く瞳をカギリ達に容赦なく向ける。


「だめ」

「させない」

「みんな、私の大切な命」


 だがしかし。

 圧倒的なフィナーリアの力に万策尽きたかに見えた世界に、もう一つの声が響いた。


 それはリーフィア。


 虚ろに瞬く星空の輝きをその瞳に宿し、漆黒のドレスと白銀の輝きを纏う魔物の女王。


 停止した世界においても難なくフィナーリアの力に抗したリーフィアは、自らの光で止まった時を破壊する。


 そしてそれと同時、一度は完全に停止した世界が砕け散り、何事もなかったように時を刻み始めたのだ。


「消しちゃだめ」

「みんなも」

「他の命も」

「ぜんぶ、私の大切」


「ぐっ――! き、危機一髪でござった!」


「ありがとうございます、リーフィアさん!」


『壊れた』

『私の世界が』

『あなたの方が弱いのに』

『どうして?』


 自らの力を破壊され、無表情のまま首を傾げるフィナーリア。

 その視線を受けたリーフィアはふよふよとライディオンの頭部から飛び立つと、恐れもせずにフィナーリアのすぐ目の前に近づいた。


「この子と〝お話し〟してみる」

「ティリオ」

「ギリギリ侍」

「ユーニも」

「みんなは先に行ってて」


「な……っ!? な、何言ってんだよっ!? キキセナさんの話じゃ、そいつはリーフィアより強いって……っ!」


「それは関係ない」

「だって、私は戦うわけじゃない」

「強くても」

「弱くても」

「この子だって、一つの命」

「そうでしょ、ギリギリ侍――」


「それ、あの時カギリさんが言ってた……っ」


「リーフィア殿……!」


 白いドレスを纏うフィナーリアと、黒いドレス姿のリーフィア。白と黒の少女は互いの瞳をまっすぐに見つめたまま、何もせずに向き合う。


「でもリーフィアちゃんがいなかったら、ティリオだけで神のコードを書き換えることになっちゃうよ!?」


「心配しないでラティア」

「ティリオなら一人でもやれる」

「それに、私もすぐに追いつく」

「もしかして:フラグクラッシャー」


「そんなっ! お前――!」


「やめて姉様っ! いくら姉様でも、そんなの――っ!」


『行かせない』

『ここであなたたちを消すのが私の意味』

『あなたが前の私でも関係ない』

『消えて、ぜんぶ、さようなら』


 刹那、フィナーリアの背に神々しい光輪が輝く。

 長く美しい金色の髪が無限に広がり、ライディオン目がけて一斉に極大の破壊光線が撃ち放たれる。しかし――


「だいじょぶ」

「ここなら、私の力でみんなを跳ばせる」

「またね」


「リーフィア――っ!」


 しかしその光線がライディオンに到達する直前。

 ライディオンとカギリ達はその場から一瞬にして消え去る。

 リーフィアの発動した時空跳躍により、直接ゲフィオンの内部へと無事に送り届けられたのだ。


 ターゲットを失ったフィナーリアの破壊エネルギーが交錯して大爆発を起こし、その光を背にしたリーフィアが、ゆっくりと小さな両手を漆黒の空に広げる。


『想定外』

『追いかけないと』

『私の意味がなくなる』

『私が無意味になる』


「意味がない?」

「誰がそんなこと言ったの?」

「ギリギリ侍は、どんな命にも意味はあるって言ってた」

「私もそう思う」


 カギリ達を取り逃したフィナーリアの声に、僅かな焦りの色が現れる。完全な無表情だった少女の顔に、自らの使命を邪魔するリーフィアへの明確な怒りが浮かぶ。


『許さない』

『私の意味を奪ったあなたを』

『私を無意味にしたあなたを』

『私は、あなたをバラバラにする』


「いいよ」

「聞かせて、あなたのことを」

「聞かせて、あなたの好きを」

「私は、そのためにここにいる」

「私は、あなたをボコボコにしない」


 フィナーリアの光輪が黄金に輝き、それを受けたリーフィアの背にもまた、眩く輝く白銀の光輪が顕現する。


 白と黒。

 黄金と白銀。

 相似と相克が交錯する星の海。


 共に頂点たれと生み出された二人の女王。

 その光が、青と黒の狭間で激突した――。

 


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