拙者、友を救いに行く侍!
炎上し、もうもうと黒煙を上げながらも疾走する巡礼列車。
列車の周囲にはその背に〝天使の翼を生やした無数の異形〟が群がり、次々と列車めがけて光り輝く弾丸を一斉に浴びせかける。
列車の窓から覗く車両内部には怯え、泣き叫び、祈りを捧げる信徒達がそれこそ隙間もない程に乗り込んでいるのが見えた。
車両外部に設けられた張り出しや上部甲板には大勢の騎士達が飛び出し、天使の軍勢に対して今も決死の奮戦を続けている。
だがしかし、もはや騎士達は皆傷つき、息も絶え絶えと言う有様。
満身創痍となった彼らに、空を埋め尽くすばかりの無数の天使は容赦ない攻撃を仕掛けた。しかし――!
「
『オオ――……オオ――……』
刹那。列車の上空を
その閃光と同時。列車の周囲に群がる天使の大群が次々と断裂、爆発四散。
そしてその大爆発を背に、炎上する列車甲板上に肩で息をしながら着地したのは、聖教騎士団第一騎士団団長、
「はぁ――っ! はぁ――っ! ま、まだか……っ!? ベリンにはまだ着かないのか!? こ、このままでは……流石の私も腹ぺこで死んでしまうぞッッ!」
「間もなくです団長ッ! ですが後部車両への攻撃が激しく、このままでは保ちませんッ!」
「乗客が余りにも多く、車両間の移動も不可能です! 騎士団、乗客共に負傷者多数ッ!」
「ぐぬぬ……! 了解だ! 騎士団は負傷者の護衛と治療に専念しろ! こうなれば、後はこの私が全部まとめて片付けるッッ!」
「む、無茶ですよ団長ッッ! あ……これ、俺が取っておいたドーナッツです! 団長が食べて下さい!」
「いいのか!? すまない……これであと二時間は戦えるッ! うまうまっ!」
列車を包む黒煙と爆炎。
そして倒しても倒しても無数に現れる天使の群れ。
聖域を出てから現在まで、夜通し戦い続けたティアレインが倒した天使は〝数万〟を数える。
ドーナッツをうまうまと幸せそうに頬張る姿は一見元気そうに見えるが、すでに気力体力共に限界を超えている。
愛用の長剣もあちこち刃こぼれを起こし、とうに彼女の全力に耐えうる状態ではなかった。
「しかしそれでも、私の犯した罪の償いにはこれっぽっちも足りん……ッ! これからも守って守って守りまくって、償いを続けるためにも! 私は頑張る!」
『償い――とても良い心がけですね。ならば、今すぐその命を捧げなさい。貴方がここで命を捧げれば、別の命が消えずに済むでしょう』
「っ!? 誰だ!?」
だがその時。
ティアレインと騎士達の頭上から、どこか機械的な――辺り一帯に響き渡る厳かな声が降り注いだ。
『私は〝天命星カルナ〟。役目を終えた〝四星冠〟に代わり、オームによって無から生み出された〝四新星〟が一つ星』
「天命星だと……!? よく分からないが、見た感じお前がこいつらのボスだなッッ!?」
天命星カルナ。そう名乗った存在は、疾走する巡礼列車を見下ろしながら、穏やかな笑みを浮かべた。
静かになびく銀色の長い髪。
どこか血の色を思わせる赤い瞳。
そしてその背には、六枚の翼がはためきもせずに鎮座する。
傷つき、救いを求めて逃避行に走る騎士と人々の前に現れたその姿は、正しく天使の軍勢を束ねる天使長のそれだった。
「よくも聖域をめちゃくちゃにしてくれたな……! なぜこんな酷いことをする!?」
『オームは〝待つことを止めた〟のです。古きオートマタの指揮系統は、著しい旧式化とアップデートのエラーにより破綻しました。今後は我ら新世代のオートマタが、この星の組成を管理します』
「…………………………???? なるほど……つまりお前を倒せば全てまるっと解決するということだなッッ!? ならば、今すぐ私がお前をバラバラに解体してやるッ!」
『…………貴方の理解力の欠如を責めはしません。我々はオームの命により、ただ貴方達の命を土に還しましょう』
「ふざけるなッ!
瞬間、ティアレインを中心にして閃光が弾ける。
すでに満身創痍の肉体ながら、彼女を依り代として集った祈りの力が膨れあがり、ティアレインの身と剣を一瞬にして亜光速の領域へと加速させる。
「だっはああああああああああああああ――ッッ!」
『貴方の愚かさを責めはしません。あまねく命に優劣はない――皆等しく巡り、正しく管理されてこそ輝くことが出来る』
「何をごちゃごちゃと――! 優劣も正しさも……どちらも今の私には関係ないッ! 私はただこの命を……ユーニ君と聖下に救われたこの命を、みんなのために使うだけだ――!」
『いいでしょう。調和を執行します』
迸る閃光。その光すら置き去りにするティアレインの剣。
しかしカルナはその剣を僅かに手を掲げただけで弾く。
ティアレインの纏う月白の光が歪にひしゃげ、大きくその軌道を乱す。
「く――ッ!?」
『悲しむことも、悔やむこともありません。貴方の死と消滅も、この星を未来へと繋ぐ礎なのですから――』
「まだだ――ッ! 私が教皇聖下から授けられた力は……こんなものではないッッ!」
『それは彼の力でも、貴方の力でもありません。それはオームの力。貴方がそうして力を得たのも、全ては世の調和を保つため』
「黙れッ! 誰がなんと言おうと……私にとってこの力は、あの雪の日に聖下から頂いた救いなのだ――ッッ!
『ならば、せめて信じるままに還りなさい』
無数の天使を屠り去ったティアレインの剣。
その究極である
しかしそれは届かない。
飛翔し、軌道上の天使を跡形もなく消滅させて迫るティアレイン目がけ、カルナは一瞬にして星ごと消し飛ばすほどのエネルギーを収束。
一切の容赦なく、満身創痍のティアレイン目がけて無慈悲に撃ち放った。だが――
「――させぬでござるッ!」
「
『これは……』
だがその時。
黒煙渦巻く列車上空を、紅蓮と翡翠――二つの光が飛翔。
カルナの放った極大の破壊は紅蓮の雷光によって真っ二つに両断され、その先にいたティアレインの姿も、疾駆した翡翠の閃光によって救われた――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます