拙者、作戦会議侍!


「天秤の儀の予定日は一週間後。俺達は儀式当日より前に攻撃を開始する。作戦の内容は何度も説明したとおりだ。他のみんなにも、もうそれぞれ持ち場について貰ってる」


「うむ! 拙者もばっちり頭に叩き込んだでござる!」


 馴染みとなった流派同盟本部の執務室。

 天秤の儀阻止作戦の最終説明を受けたカギリは、分厚い資料を広げて話すティリオに力強く頷いた。


「聖域上空にある衛星要塞ゲフィオン……今回そこに向かうのは俺とリーフィア、それにカギリとユーニ……退路の確保を任せてあるラティアの〝五人だけ〟だ」


「もし大勢で向かっても、教皇様や神様の揺らぎに対抗できなければまともに戦えないですもんね……」


「しかもサナリードさんの話じゃ、神様は揺らぎを使って魔物や俺のライディオン……それどころか、その気になれば〝生身の人間まで操れる〟らしい。もしそうなったら、作戦どころじゃない」


「むぅ……今の拙者ならば、そのような揺らぎもすぐに断ち切る事ができるであろうが……味方が多勢となれば、さすがに手が回らぬであろうからな」


「作戦決行は〝明日〟。ライディオンで一気にゲフィオンに突撃する。流派同盟のみんなは各地の街で防衛を。サナリードさん達は、俺達がゲフィオンに到達するまでの護衛を引き受けてくれてる」


 普段であれば、必ずと言っていい程弱気な表情を見せるティリオも、ここに至ってはもはやそのような気配は影も形も見せていない。


 そんな彼の作戦を聞くカギリとユーニもまた、とうに覚悟は出来ているという表情でじっと資料を見つめていた。


「さっきも話したけど、今回のこの作戦の鍵はカギリだ。サナリードさんやカギリのお師匠様の話が本当なら、ゲフィオンの中枢システムは揺らぎを使って動いてる。それをカギリが無効化した隙に、俺とリーフィアで神のシステムを書き換えるんだ――大勢の人を殺すのを止めるように」


「承知!」


「僕も、絶対にカギリさんを守り抜いて見せます!」


「おねがいギリギリ侍」

「私もがんばる」

「だから、みんなを守って」


「無論……! 師匠から授けられたギリギリ侍の剣……今こそその本懐を遂げてみせるでござる!」


 神を止め、教皇アルシオンの呪縛を解き放つ。

 その全ては、神の揺らぎを断ち切る事の出来るギリギリ侍にかかっている。


 もしも戦いの最中にカギリが倒れ、神の揺らぎに干渉することが出来なければ、この作戦は成り立たないのだ。


「うまくいくかな……」

「だめだったらどうなるの?」

「みんな死んだりしないよね?」

「大丈夫だよね?」


「分からない……けどやるしかない。ラティアが持ってきた聖教会のデータだと、天秤の儀で殺される人の数は〝三百万人〟……そんなの、絶対に止めないと……」


「きっと、そうなったらまた私たちも元に戻る」

「せっかくみんなと仲良くなったのに」

「ギリギリ侍と」

「ユーニと」

「ティリオと仲良くなれたのに」

「私も、また一人に戻っちゃう」

「いやだな……」


「安心して下さいリーフィアさん……! 僕もカギリさんも、ティリオさんだって……これからもずっと、リーフィアさんと一緒ですから!」


 その無表情に明らかな悲痛の色を浮かべるリーフィア。

 彼女にとって、かつての孤独に戻るということがどれだけ辛いことなのか――この場にいる三人には、よく分かっていた。


「もしカギリが駄目だった場合は、全力でゲフィオンのシステムを破壊することになってる。けどそれは本当に最後の手段だ……神の人減らしは迷惑だけど、教皇様やサナリードさんの話が本当なら、俺達が今こうして生きていられるのは神のシステムのお陰ってことになる……出来れば、壊したりはしたくない」


「うむ……拙者には機械のことは分からぬ。分からぬが……たとえどんな相手であろうとも、戦わずに済むのならそれが一番でござる。なんとか分かって貰いたいものだな」


「絶対に上手くいきますよ! それに、日の本からはオウカさんも助けに来てくれるって仰ってましたし!」


「おお、そういえばそうでござった! 師匠は決して気休めや嘘を言う人柄ではない。師匠が来ると言ったのなら必ず来る! そうなれば万人力でござるな!」


「カギリの師匠って、三英雄の一人だったんだよな? そんな人が来てくれるなら、マジで心強いなんてもんじゃないんだけど……明日に間に合うのかな?」


「はっはっは! 拙者とは違い、師匠はその気になれば〝空も平気で飛び回れる〟でござる! 多少遅れても、必ず颯爽と駆けつけてくれるでござるよ!」


 そうして、カギリ達は幾度となく確認した決戦の準備を整えていく。

 もはや後戻りは出来ない。

 千年もの間、この星を管理してきた神への干渉。

 それがどのような結果をもたらすのかも分からない。


 もしかしなくとも、彼らの行動そのものがこの星の破滅をもたらす行為かもしれないのだ。

 しかしそれでも、黙って見ているわけにはいかない。


 大きく衰退した世界で、彼らは生まれた時から多くの物を失い、これ以上失わないために戦ってきた。


 神への挑戦。


 彼らにとってそれは、永遠に繰り返されてきた喪失に終止符を打つことと同義だったのだ。


「よし、決行は明日の20時。カギリもユーニも、それまでは自由にしててくれ。それと――」


 だがしかし。


 全ての確認が終わり、ティリオが資料を纏めて席を立とうとした。その時だった。


「大変! 大変だよみんな!」


「ラティア!? ど、どうしたんだよいきなり!? お前がそんなに慌てるなんて、何が――」


「いいから早く来て! 〝見たこともない姿の魔物〟の大群が聖域からこっちに向かってる! 聖教騎士団が護衛してる巡礼列車がベリンに逃げてきてるけど、急がないともたないよ!」


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