別章 人魔会談

盟主の戦い


「ここに魔物のボスがいるのか……? うぅ……い、いやだぁ……もう帰りたいぃぃぃ! どうして俺ばっかりこんな目に遭うんだぁぁぁぁ……! えぐ……っ! えぐ……っ!」


「泣かないでティリオ」

「大丈夫」

「だって、私も魔物のボス」

「えらい」

「たぶん」

「えっへん」


「そ、それはそうだけどさぁ!?」


「安心して。ティリオのことは何があっても絶対に死なせない。私が背負う流派クラス――生存者サバイバーの名にかけてね」


 周囲を鈍色の金属に囲まれた空間。

 ライディオンを亜空間に格納し、巨大な構造物の内部に降り立った三人――流派同盟の盟主ティリオと、生存者サバイバーのラティア。そして普段通りの様子で目を輝かせるリーフィア。


 カギリとユーニがオウカに会うべく日の本へと向かったのと同日。

 流派同盟本部に現れた多元神ポラリスの招待を受けたティリオは、ラティアとリーフィアを伴って指定された場所にやってきていた。


 そこは極寒の地、南極。


 南極大陸のほぼ極点に位置する場所に建設された、巨大な建造物。魔物の主は、そこでティリオ達を待っているという。


「――どうでもいいけど、ボク達の主は気が短いから、せいぜい殺されないように気をつけることだね。あ、もちろんリーフィア様は別ですよ」


「ひえっ!? いきなり出てくるなよッ!?」


「ねえポラリス」

「主ってだれ?」

「もしかして:カナン」

「もしかして:ディザス」

「だれだろ?」


「……いいえ、そのお二人はいません。カナン様とディザス様が行方知れずになってから、もう二十年近く経ちます。最初はカナン様が、次にディザス様がそれぞれ姿を消しました。ボク達もずっと探してはいるんですけど……」


「いない?」

「二人とも?」

「そう……なんだ……」


 会談の場へと降り立った三人の前に、突如として白髪の少年――ポラリスが現れる。

 主が誰かと尋ねるリーフィアの問いに、ポラリスもまた二人の生存を諦めてはいないという様子で苦々しげに答えた。


「お、おい……大丈夫かリーフィア……?」


「うん……」

「ありがとう、ティリオ」

「とても驚いたの」

「ごめんなさい」


「そんな……謝る事なんて……」


「へー? 落ち込んでる子の気遣いもできるなんて、ティリオも成長してるんだね。さすが、私達の盟主!」


「あ、当たり前だろ!? 俺だって……いきなり仲間がいなくなったとか言われたら、しんどいし……」


 その表情は変わらずとも、明らかに悲しげな様子のリーフィアにティリオはすぐさま声をかける。

 普段であればすぐに普段通りになるリーフィアも、今回ばかりは差し出されたティリオの手を握り返し、視線をじっと地面に向けて目を閉じた。だが――


「ホーホー! なるほどのう……どうやら、ザジの言うとおりリーフィア様に危害を加えるような真似はしておらんようだな、人の子よ」


「ぴえええええっ!? お、お前は……あの時の!?」


「よく来てくれた。そう心配せずとも、お前達の安全は保証する」


「こっちにも魔物!? っていうか……もしかして、これ……もう周り全部!?」


「うわ……私も覚悟はしてたけど、これはちょっと……」


「わぁ」

「みんなここにいるの?」

「大集合」


 続いて現れたのは、樹繁神ラシュケと拳王ザジ。

 しかし現れたのは彼らだけではない。


 三人が降り立ったその場をぐるりと囲み、あらゆる闇の影から彼らを見つめる〝無数の視線〟が、続々と姿を現わしたのだ。


「う、嘘だろ……!? 十や二十なんて数じゃない……! しかもこれ、どいつもこいつも王冠以上の魔物なんじゃ……!?」


「どうもそうっぽいね……もしここで一斉に襲われたら、流石の私も〝もしかしたら〟死ぬかも」


「はわ……! はわわ……っ!」


 その絶望的な光景に、ティリオは今にも尻餅をついて泣き叫びたくなる心を必死で堪えた。そして――


「よう、リーフィア。元気だったか?」


「え……?」

「サナリード?」


「こ、こいつが……魔物のボス!?」


 三人を囲む影の中でも、もっとも深い闇の奥。

 その闇から現れたのは、ザジよりも四回りほど巨大な体躯を持った男だった。


「サナリード様。リーフィア様と人間の盟主を連れてきました」


「ああ、もういいぞポラリス。後は俺がやる」


「はいはい、ボクも使いっ走りはさっさと終わらせたいので。後はお願いしますよ」 


「どうして?」

「本当にあなたが主なの?」

「びっくり」


「まぁな。言っても信じて貰えないかもしれんが、俺も〝気付いたら〟こんなことになっててな。現在進行形で困ってるところだ。面倒極まりない」


「どういうこと? あなたは自分の意志で魔物のトップに立ったわけじゃないの?」


「ほう……? この状況で物怖じせずに喋れるとは、お前も並の人間じゃなさそうだ」


「そりゃそうよ」


「ひえええ……!?」


 現れた巨躯の男――サナリードと名乗った男はまずリーフィアに向けて肩をすくめると、挨拶も抜きに声を上げたラティアに感心の声を漏らす。

 

「まあいい……俺の名はサナリード。〝あまねく星のサナリード〟だ。今回来て貰ったのは他でもない――今すぐ〝降伏〟しろ人間共。お前らが俺達の下につくっていうのなら、俺達がお前らの代わりに神を叩き潰してやる」


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