拙者、再び旅立つ侍!
「――神ってのはつまり、大昔の〝人間が作った機械〟のことだ。ユーニもマザードラゴンのことは知ってるだろ? あのくそったれの神も、動いたり考えたりする仕組みはマザーと変わらない……全部カナンが私に教えてくれたことだ」
「神様もマザー様と同じ、人が作った存在だったなんて……」
「昔の人々は凄すぎでござるな!?」
カギリが揺らぎに語りかけ、それまで全く揺らぎを感じることの出来なかったオウカの元に、揺らぎを呼んで見せた後。
オウカは自らの知る全てをカギリ達に語っていた。
そうしてまず初めに語られたのは、三英雄が到達した神の正体。
それがかつてカギリもユーニと共に会ったマザードラゴンと同様、人の手で作られたものであるという事実に、三人は驚きを露わにする。
「でも不思議」
「どうして私は何も知らないんだろう」
「カナンは知ってたのに」
「忘れちゃったのかな」
「私にはリーフィアのことまでは分からない。けど、星冠の魔物にはそれぞれに与えられた〝役割〟があったってのは聞いてる。カナンが創造を司ってたみたいに、リーフィアにも何か役目があるのかもしれないな」
「役目……」
「あるのかな」
「私も……みんなのために……」
無表情のまま首を傾げるリーフィアの頭をよしよしと撫でると、オウカは再び神妙な面持ちで言葉を続けた。
「だけどおかしいと思わないか? 同じ大昔に作られた機械なのに、マザーは人間を守ってて、神は魔物を操って人を減らしてる。私もマザーにそのことを聞いたことがあるんだが、あいつは神については何も知らなかったんだ」
「確かにマザー殿は、拙者と話した際も心から魔物の脅威に胸を痛めている様子でござった……神の管理を知っていれば、そのように思い悩むこともなかったであろうが……」
「もしかして……! 大昔に神様を作った人達とマザー様を作った人達も、今の僕達と同じで、決して一つに団結してたわけじゃなかったんじゃ……?」
「そういうことだ……カナンの話じゃ、当時の世界は人間に絶望して全てを機械の管理に任せようって奴らと、それに抵抗しようとした奴らがいたらしいんだ――」
そうして語られた旧時代の真実。
人類が揺らぎという究極のエネルギーの制御に成功し、夢のような世界を生み出していたこと。
しかしやがて揺らぎは人間同士の争いの道具となり、多くの命が揺らぎと共に消えたこと。
そして人類に絶望し、高度な機械による管理社会を目指した勢力と、あくまで人類の手で世界の再建を目指す勢力との最終戦争が勃発したこと。
最終的には、当時の人類が様々な労働を担わせるために生み出し、利用していた人工生命体――現在で言う〝魔物〟の制御を掌握した管理社会勢力が勝利したことを――
「ぶっちゃけ、神そのものはただの機械だ。だから神って言っても、結局は人から言われた命令をずっとこなしてるだけ……問題は、この時に勝った側の人間が〝神に何を命令したのか〟ってことなんだ」
「何を命令したか……?」
「ああ……この時勝った側の奴らは、〝人間が大嫌いだった〟。嫌いって言うか……〝絶望〟してたってカナンは言ってたな」
「な、なんと……」
「だっておかしいだろ? 魔物と人が元は仲良く暮らしてたのなら、自分達が戦争で勝った後は、元通り仲良くすればいいじゃないか! 色々あって無理だったとしても、なにも無理矢理魔物に人殺しをさせ続けなくたって良かったはずだ! けど、そいつらはそうは思ってなかったんだ……」
管理社会を目指した一派は、最早〝人を信じていなかった〟。
人は必ず争うと。
人を野放しにすれば、必ずいつか星を滅ぼすと。
彼らは人を信じていないにも関わらず、人の欲深さと恐ろしさは頑なに信じていた。
故に、最終戦争で勝利した彼らは神にこう指示した。
人を増やしてはならない。
人を前に進めてはならない。
二度と人がこの星で勝手な振る舞いをしないよう。
揺らぎを使い、魔物を生んで、人の欲を制御するようにと。
「じゃあ」
「だから」
「みんなは、ずっと……」
「ずっと……命を……」
「カナンから聞いたってだけじゃない……実際に神と会った私にもなんとなく分かるんだ。あの神の向こうには、とんでもなくデカい〝人への憎悪〟が今も生きてる。誰があれを作ったのかは知らないが、感じるんだよ……あいつの口ぶりや物言いから、そういうのをさ……」
「人への、憎悪……」
「そのような恐ろしい意志から神が生まれ……今もこうして、拙者達を管理しているということでござるか……!」
それは、戦慄を覚える事実だった。
与えられた使命を忠実に果たす万能の機械。
その機械は確かに神と呼べる力を持っているにも関わらず、それを生み出した人間が持っていた、同族であるはずの人への憎悪というあまりにも人間的なバイアスを受けたが故に、現在に続く歪な管理を続けているというのだ。
「けどな、だからこそお前が希望なんだ。カギリ」
「拙者が……?」
「昔の人間が作った物は、魔物も機械も大なり小なり揺らぎの力を使って動いたり、命令を出し合ったりしてるらしい。そしてあのふざけた神も、結局は揺らぎに依存して動いてることに変わりはない……そして今の世界がまだ神の管理がなきゃ人も魔物も生きていけないっていうのなら、力づくで神を壊したって何の解決にもならないんだ」
「それって……! じゃあ、カギリさんのギリギリ侍なら……!」
「そうだ! 私が編み出し、お前が極めたギリギリ侍なら! 神を壊さないまま、あの神が今も必死に続けてる狂った命令を止めたり、神の力を押さえてる間に、他の詳しい奴にもう少しマシな命令に書き換えて貰ったりできるかもしれない! 私とカナンは、そのために二人でギリギリ侍を考えたんだよ……!」
オウカの語る希望。
ギリギリ侍がその切っ先に見いだすとされる絶えた望み。
それこそが、ギリギリ侍のカギリだった。
この星は未だ危ういバランスの途上にあり、神や人、魔物すらも失えば全てが崩れるという。
しかし、ギリギリ侍ならば。
ただ世界の根源である揺らぎにのみ働きかけ、究極的には〝全てを壊さぬ剣〟であるギリギリ侍ならば、この星を縛る鎖を断ち切ることが出来るかもしれない。
天地無双――この世で最も強い力を持って生まれたオウカには、ギリギリ侍の剣は扱えなかった。
しかしギリギリ侍の剣はオウカの弟子に――あまねく命の揺らぎから生まれ、この世で最もギリギリ侍としての素養を持つカギリに受け継がれていたのだ――
――
――――
――――――
「――気をつけてな。そして、アルのことを頼む」
「承知! 師匠の分まで、拙者達で教皇殿のことも、この世界のことも……必ずやなんとかしてみせるでござる!」
「はい! たとえそれがどんなに険しい道でも、僕達は絶対に諦めません!」
「ありがとうオウカ」
「カナンのことも聞かせてくれて」
「また来る」
「絶対に、また来るね」
「ああ! ユーニもリーフィアも、必ずまた来てくれよ! 私もこっちに残ってるあれこれを片付けたら、すぐに駆けつけるからさ!」
そしてその話から更に数日後。
オウカの課したいくつかの修行をこなし、カナンやアルシオンについての話を聞き終えたカギリ達は、ナイア聖教会が目論む天秤の儀阻止のため、再び旅立とうとしていた。
「あーそうだ。カギリ、最後にちょっといいか?」
「むむ? なんでござるか?」
「お前、三年前に私が出したギリギリ侍としての最後の試練……忘れてないよな?」
別れ際。突然オウカにそう念押しされたカギリは、自信満々といった様子で力強く頷く。
「もちろんでござる! 〝この世で最も強い悪党を倒せ〟……ぶっちゃけ、まだその悪党の影も形も見えておらぬでござるが、師匠と交わした約束……このカギリ、必ずや果たして見せるでござる!」
「うん……覚えてるのならいいんだ。頼んだぞ、カギリ……」
「心得た! 拙者に任せるでござるよ!」
どこか寂しげに微笑むオウカに、カギリは普段の数倍増しの笑顔で応えた。
たとえどんな願いであっても、師であり母であるオウカの願いは、必ず自分が叶えてみせると。たとえ口には出さずとも、心からそう伝えるような笑みだった。
「じゃあなみんな! ユーニも、カギリのことよろしくな!」
「本当に、ありがとうございました! またカギリさんと一緒に会いに来ます!」
「オウカが一人だと可哀想」
「次来るときは、私をもっと連れてくる」
「そしてここに置いていく」
「そうすれば賑やか」
「寂しくない」
「またすぐに会えるでござる! 師匠から授けられたこの剣で……ギリギリ侍のカギリとして、拙者達の道を見いだすでござる!」
「ああ……! 行ってこい、カギリ! 頼んだぞ、ユーニ! リーフィア!」
名残を惜しむ眼差しはいつまでも交わり。
互いの姿がその場から見えなくなるまで、離れることはなかった。
カギリにとっては二度目となる旅立ち。
しかしそれは一度目よりも遙かに暖かく、賑やかな門出だった。
カギリとユーニ。そしてリーフィア。
三人にとって恐らく最後の戦いになるであろう運命の日が、目前に迫っていた―――。
☆☆☆☆☆
ここまでご覧頂きありがとうございます!
本作はこれにて第三部完!
次回からはついに最終章になります!
最終章も引き続き頑張りますので、楽しんで頂けた際にはぜひ☆やフォロー、コメントや応援などなんでも気軽に押して下さると嬉しいです!
本作をこのような終盤まで読んで下さり本当にありがとうございます!!
最後まで全力で書き切ります!
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