拙者、再会を喜ぶ侍!


「ほらほら、こっちも見てくれよ! これは悪戯がバレたカギリが、こたつの下に隠れてた時の写真だ!」


「わぁ……カギリさんにもこんな頃があったんですね。す、すごくかわいいです……っ!」


「ぜんぜん隠れてない」

「頭しか隠れてない」

「ひよこさんみたい」


「ぬわああああああああ――ッ!? なぜそのような写真が次々と出てくるでござるかああああああッ!?」


「そんなの、ちっこい頃のお前がむちゃくちゃ可愛かったからに決まってるだろっ! あ、こっちはカギリが夜に一人でトイレに行けなくなって泣いてた時の――」


「ぐわあああああああ――ッ!? だからなぜそんな姿を撮ったでござるかああああああああッ!?」


 ユーニ達がオウカの庭園に到着して数刻の後。

 オウカと共に軽い昼食を済ませた三人は、どういうわけか彼女が撮りためていた〝幼き日のカギリ〟の写真を全員で見ていた。


 日の本には様々な旧時代の技術が現存しているが、その中でも特に活用されているのがこれら映像の撮影、保存、再生に関する技術だ。


 オウカの庵にも、そのための機器は小さいながらも備えられている。

 他国では見られない失われた技術と幼い日のちびっこカギリに、ユーニは思わず感嘆の声を漏らした。


「でもこうして見ると、カギリさんは本当に小さな頃からオウカさんに育てられていたんですね。こっちのとか……これだって、まだ赤ちゃんの頃のカギリさんですよね?」


「まあな。私が拾った時のカギリは、まだ一歳にもなってなかったんじゃないか? 私だって子育てなんてしたことないからさ……本当に苦労したよ」


「そうだったんですね……」


「赤ちゃんカギリ」

「赤ちゃんギリギリ侍」

「かわいい」


 心の底から懐かしそうな笑みを浮かべ、オウカは次々と小さな画面に現れるカギリの幼少期の映像に目を細めた。


「だからさ……私にとってカギリは息子みたいなもんなんだ。侍としての剣を授ける以上、あくまで関係は師弟ってことで通してるけどな」


「……そういうの、僕も分かる気がします」


 オウカのその言葉を聞き、自身もベルガディスという恩師によって育てられた境遇のユーニは感じ入ったように呟いた。


「無論、拙者にとっても師匠は紛う事なき大切な家族でござる……! こ、このような辱めを受けるとは予想外でござったが……っ!」


「あはは、小さいこと言うなって! こういうのは育ての親の特権ってやつだな!」


「私はいいと思う」

「自分の始まりを知ってる誰かがいる」

「始まりを喜んでくれる誰かがいる」

「それは――きっととっても幸せなこと」


「確かに、そうかもしれませんね……」


 無表情のまま、映像の中の小さなカギリをじっと見つめるリーフィア。

 自らの起源と理由を探し求めるリーフィアのその言葉に、カギリとユーニ――そしてオウカもまた、感慨深げに頷く。


「でも、この関係で救われてるのは私もなんだ。もしカギリに会えてなかったら……カギリを育ててなかったら、私も今頃どうなってたか……」


「師匠……」


「――もう大体のことはアルシオンから聞いてるんだろ? あの頃の私は本当に駄目でさ……周りも自分も、何もかも傷つけてばっかりだった。アルシオンのことだって、あの時のあいつの判断は正しかったって分かってたのに、どうしても納得出来なかったんだ……」


「オウカさん……」


〝同じ〟だと――。

 ユーニは思った。

 

 深い後悔を滲ませるオウカに、ユーニはかつて自分の前で過去を語ったアルシオンとオウカが、どちらも〝同じ後悔を抱えている〟ことを直感的に悟る。


「アルシオンと別れた後、私はあの〝くそったれの神〟とは違う方法を必死で探したんだ。私が別の道を見つけられれば、アルシオンを自由にしてやれるかもって……そう思ってさ」


「教皇殿を自由に……?」


「ああそうだ……あの時、あいつは〝神と契約した〟んだ。人を減らすのを待って貰って、神の力を使えるようになる代わりに、絶対に神に逆らえないように縛られてる。本当は、私がそれをなんとかしてやりたかった……でもいくら調べても、私じゃ……〝絶対に駄目〟だったんだよ……」


 そう話すオウカの横顔は、あまりにも弱々しかった。


 自身の無力を思い知り、どうしようもない現実に打ちのめされた。

 アルシオンがユーニの前で一瞬見せた表情と、全く同じ物だった。


「オウカさんじゃ駄目って……どういうことですか? オウカさんは教皇様と同じくらい……カギリさんの話じゃ、それよりももっと強いって……!」


「そうでござる! 今までも師匠は、拙者の前で何度も日の本を襲う魔物を倒し、数えきれぬ程の人々を守ってきたではないか! その師匠に不可能なことなどあるはずがない!」


「確かに私は強い……うぬぼれでもなんでもない、冗談抜きで〝今の私に勝てる奴はこの世に一人もいない〟だろう。けどな……〝だからこそ私じゃ駄目〟なんだよ。大体、私達はその強さで魔物を倒し過ぎたから失敗したんだぞ? ただ強いだけじゃ……守れない物が多すぎるんだ」


 強いだけでは駄目だと。


 オウカの言葉を聞いたユーニは、かつて竜の箱舟でマザードラゴンから伝え聞いた話を思い出す。


 あの時、カギリにオウカの話を語ったマザードラゴンも、オウカが同様の言葉を口にしていたと言っていた。


 強いだけでは、守ることができない。


 今改めてその言葉を聞いたとき、ユーニは自身がかつて味わった挫折と同じ苦しみを、オウカも感じていたのだと知った。そして――


「でもだからさ……カギリは私にとっての希望なんだ。なんでもかんでも傷つけて、別の道を探しても見つからなくて……。しまいには、私じゃどう頑張っても駄目だって事も分かって……どうしたらいいか分からなくて、心が折れそうになってた時……私は、カギリに会えたんだよ……」


「あ……」


 その時。

 オウカのその言葉に誘われるようにして。


 ユーニの心に、燃えさかる炎の中に立つカギリの姿が過ぎった。


 戦っても戦っても。

 いくら魔物を倒しても、どうしようもなかった日々。

 

 自分の無力に打ちのめされ。

 どうしたらいいか分からなくて。

 心が折れそうになっていた時。


 ユーニを救い、手を差し伸べてくれた侍の姿を。


 オウカと同様、ユーニもまた確かに出会っていたのだ。

 カギリという名の、闇の中で輝く光に。

 

「よく聞けカギリ――今のお前は、私の目から見てももう十分に立派なギリギリ侍だ。だからこそ、今まで話せなかった全てをここで伝える。お前と、揺らぎの関係をな――」




 ☆☆☆☆☆


 いつもご覧下さりありがとうございます!

〝お知らせ〟です!


 いままで本作の更新は朝に行っておりましたが、生活環境の変化により、今後は〝夜の18時頃に更新〟します!!


 読んで下さっている皆様には、改めていつも応援して下さり本当に感謝です!!

 

 今後も最後まで頑張ります!!


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