拙者、確認する侍!
「――天秤の儀の中身はそんな感じ。私以外の六大流派もティリオの指示で先に動いてたけど、他のみんなも大体同じ内容で一致してる」
「ま、マジかよ……っ。じゃあ、教皇様は本気で世界中のみんなを殺すつもりなのかっ!?」
「教皇様……」
「むむぅ……」
流派同盟本部の会議室。
豪華なテーブルを中心に集まった面々――盟主であるティリオに、勇者ユーニ。そしてカギリとリーフィア。
そこに紫の髪を三つ編みにした、快活な雰囲気の女性を加えた計五名は、その場にもたらされた情報に表情を曇らせていた。
「ここまで準備万端で止めるってのは考え辛いと思う。他にも聖教会には魔物の研究ラボとか、そういうのがあるのも確認してる。あの人達、裏でやってることは結構エグいよ」
そう言って、カギリ達の前で資料を片手に話す女性――彼女の名はラティア・ディア・サーカーン。流派同盟の最高意志決定機関である六大流派の一つ、
実はラティアは、事前にティリオの指示を受けてカギリ達とは別ルートですでに聖域に潜入しており、正教会内部の機密情報を手に入れていた。
そして、彼女が手に入れたその機密情報こそが――
「天上神殿っていうの? よく分かんないけど、聖域のずっと上にある場所から、〝世界中に大規模な攻撃をする〟つもりみたい。でもごめんね、それがどういう攻撃なのかまでは分からなくて……」
「そんな、とっても助かりましたよ!」
「そうだと思う」
「分かってれば止められる」
「私の得意分野」
「どんとこい」
「リーフィア殿の言う通りでござる! それに、まだその儀式とやらには一ヶ月の猶予があるのであろう? ならば、対策の立てようもあるというもの!」
「対策かぁ……でも、その対策ってのが一番難しいとこだよね」
――あの夜。
聖域上空での教皇アルシオンと、騎士団長ティアレインとの死闘。
聖教会の最高権威であるアルシオンに刃を向けるという狼藉を働いたにも関わらず、カギリ達は特に追求されることも、咎められることもなかった。
カギリとアルシオン。そしてユーニとティアレインの戦いと同時に発生した、魔物による大規模な聖域襲撃。
聖教会は襲撃による被害の収拾と復興を最優先とし、流派殺しの公開処罰など、予定されていた聖教と流派同盟の関連行事は全て中止。
カギリ達はむしろ聖教会の関係者やティアレインから〝再三に渡る謝罪〟を受けながら、こうして無事にベリンまで戻ることが出来ていた。
「まあ……そうやってなんとか帰ってきたら、いきなり儀式がどうこうって通告が聖教会から届いてたんだけどさ……」
「ティアレインさんも、まだ色々なことで悩んでいるようでした……あまり思い詰めてなければ良いんですけど……」
幸いなことに、あの戦いでのティアレインの傷は浅く、精神的な部分も表面上は安定していた。
別れ際――巡礼列車に乗り込むユーニに、彼女は自分のやってきたことの整理と、大切な騎士団の仲間へのけじめをつけたいと話していた。
その時のティアレインの表情を思い出したユーニは思わず俯き、しかしやがて意を決して前を向く。
「やっぱり……教皇様の計画を他の皆さんにも公開した方がいいんじゃないでしょうか? いくら頑張っても、僕達だけじゃ限界が……」
「もちろん、ユーニの言うとおりに出来ればそれが一番だけどね。さっき〝
「うーむ……拙者達だけでなんとかするしかないということでござるな」
「そういうことだな……ただ、今の俺達にはリーフィアもいるし、他にもやれることはあると思うんだ。俺の方でも、協力できそう所には探りを入れてみる」
「なら、私ももう少し聖域を探ってみるよ。いざ戦いってなったら、私はあんまり役に立てないし」
「ありがとうございます、ラティアさん」
感謝と共に頭を下げられたラティアは照れたように鼻頭をこすると、お返しとばかりに白い歯を見せ、ユーニに満面の笑みを向けた。
「ぜんぜん! ユーニの方こそ、いつも私達の代わりに体を張ってくれてありがとね。でも……本当に無理だけはしちゃ駄目だよ? 君は正真正銘、私達の〝
〝天秤の儀〟
教皇アルシオン率いる聖教会が、一月後に決行すると通告した全世界規模の人減らし。
表向きには〝ただの宗教儀式〟だとされているが、ティリオを初めとした流派同盟上層部には、すでにその実体は共有されている。
あの光信塔の最上層で、アルシオンがユーニに語って聞かせた神による人減らしのタイムリミット。
天秤の儀とは、その刻限までに定められた数まで人間を減らす〝大虐殺〟に他ならない。
一月後に迫ったその大虐殺を防ぐこと。
それこそが、今のユーニを初めとした流派同盟の最重要目標だった。
「みんながんばってる」
「ねえねえ」
「私たちはどうする?」
「なにをがんばる?」
「そうですね……」
迫る期限まであと一月。
僅か一ヶ月では、出来ることはあまりにも限られている。
「――拙者は、一度師匠に会いに日の本に戻ろうと思っている」
「ギリギリ侍のししょー?」
「うむ……此度のアルシオン殿の話も、過去に何があったのかも。そして……なぜ拙者に〝あのような芸当が出来たのか〟も……何もかも、師匠ならば知っているはずだ。そうであろう……ユーニ殿」
「カギリさん……」
カギリはそう言うと、隣に座るユーニを真剣な眼差しで見つめた。
そう――すでにカギリは、あの夜に自身の身に〝何が起きたのか〟を理解していた。
膨大な揺らぎに自我を呑まれ、世界そのものを危機に晒したことも。
そんな危険な状態のカギリに、我が身も省みず飛び込み、救ってくれたのが他ならぬユーニであることも。
カギリは意識を朦朧とさせながらも、はっきりとあの夜の出来事を覚え、理解出来ていたのだ。
「拙者は知りたいのだ……いや、知らなければならぬ! 師匠が何を考えて拙者をギリギリ侍として鍛え、育ててくれたのかを……!」
「――ですねっ! なら、もちろん僕もご一緒しますっ!」
「今度は私も一緒でいい?」
「お留守番終わり?」
「私もギリギリ侍のししょーに会いたい」
「ユーニ殿……リーフィア殿も……っ。かたじけない……!」
二人の言葉に、カギリは深々と頭を下げて感謝した。
もはや、事態は免許皆伝の試練などと言う話ではない。
自身のまつわる因縁を知り、内に秘めた身に余る力を知った以上。
全てを知るオウカには、どうあっても話を聞かねばならなかった。
「それにカギリさんのお師匠様なら、教皇様のお考えについても何かご存知かもしれません!」
「うむ……! 拙者も今一度、ギリギリ侍としての剣を師匠に問わなくては……! ならば善は急げでござる、早速日の本に――!」
『――ちょっと待ってよ。忙しそうなところ悪いんだけど、その前にボクの話を聞いて貰っていい?』
だがその時だった。
完全に密室となっていた会議室に、突然それまでいなかったはずの〝少年の声〟が響いたのだ。
「お主は……?」
「貴方は、あの列車を襲った……!」
「ヒエッ!? な、なんで魔物がここにいるんだよッッ!?」
「あれ?」
「ポラリス?」
「やっほー」
「私よりも引きこもりのあなたが出歩くなんて珍しい」
『ぐ……ひ、引きこもりは余計ですリーフィア様。今日のボクは敵としてではなく、〝使者〟としてここに来ました。 ――そっちで今にも泣きそうになってる〝ぴえん人〟。ボク達のリーダーがお前との〝会談をお望みだ〟。当然、拒否権はないからね――』
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