拙者、ぶっちゃける侍!
その勢いを増し、星の空で渦を巻く雪。
交錯する雷光と極光。
ユーニとティアレインの死闘がついに終わりを迎えた頃。
雪の結晶と星の光を背に構える教皇アルシオンへと突撃したカギリは、更に磨きを増したギリギリ侍の剣を振るい、アルシオンの放つ極光に拮抗していた。
「ティアレインちゃんは良く頑張ったね……でも、さっきの激突でユーニちゃんの揺らぎは凄く弱くなってる。心配じゃないん?」
「ハチャメチャに心配だがッッ!? しかし拙者がギリギリ侍ならば、ユーニ殿は〝ギリギリ勇者〟とでも言うべき御仁……! 故に、拙者はユーニ殿の決断を信じるッ!」
「ふーん。いいね、そういうの。想いが通じ合ってるって感じでさ――!」
全ての物理法則を無視したかのような、アルシオンの不規則で予測不能な力。その姿は瞬く光に紛れ、現れては消えるを繰り返す。
対してカギリは自らの速度を限界を超えて引き上げ、移動という行為の過程すら存在しないアルシオンの空間跳躍に無理矢理追随。光そのものが刃と化すアルシオンの攻撃も完全な見切りで捌き、打ち砕いていた。
「ヤバいほど燃えてるように見えて、きっちり自分の揺らぎを抑えてるね……それもオウカちゃんに教えて貰ったのかな?」
「否ッ! 今ここで拙者が教皇殿と戦えるのは、全てユーニ殿のお陰でござるッッ!」
「ユーニちゃんの?」
「そうだ! 拙者はあの時、ユーニ殿を害した教皇殿に激しい怒りを抱いた……! だが、そんな拙者にユーニ殿はそれでは駄目だと……教皇殿にも理由があるのだと訴えたのだぞッ!」
瞬間。カギリの背後に転移し、まるで巨大な滝のような眩い極光を振り下ろすアルシオン。だがしかし、すでにカギリはその動きを読んでいた。
カギリは降り注ぐ破滅の光に自ら飛び込むと、光を切り裂く雷となってついにアルシオンに二刀を叩きつけたのだ。
「――っ!?」
「もしあのまま怒りに呑まれ、教皇殿と刃を交えていれば……拙者はとうに〝死んでいた〟であろう……! ユーニ殿の優しさが、拙者を生かしているのだッ!」
アルシオンの周囲に渦巻く極光と、カギリが放つ雷光が拮抗する。
放射状に砕けた極光が聖域の夜空にオーロラのヴェールを広げ、その光を裂くようにして、カギリの雷が四方へと散る。
「拙者に貴殿らの事情はさっぱり分からぬ! 分かるのはただ、ユーニ殿を傷つけたということのみだッ! しかし、それでもユーニ殿が貴殿らを信じると――まだ分かり合えると言うのならッ! 拙者はその想いに全力で応えるのみッッ!」
「まーじか……っていうかカギリちゃんって、もしかしてユーニちゃんのこと好きだったりする? 好きってのはあれよ、〝愛してる〟って意味でね?」
「そうかもしれぬ――! 拙者……ぶっちゃけユーニ殿が大好き侍ゆえッッ!」
「にゃはーっ! いいねぇ、いいじゃんねぇ!」
何度も何度も。百を超え、千を超えてぶつかり合う二つの光。
その力は完全に互角。
虚ろな星のリーフィアとの交戦を経て、拳王ザジ、季神キキセナとの死闘をも潜り抜けた今のカギリは、ギリギリ侍の真髄をその手に掴みつつあった。
「でもごめんねカギリちゃん。やっぱり、ここまで揺らぎを完璧に操れる君を見逃すわけにはいかないんよ……リーフィアちゃんだけならまだしも、他の魔物までほいほい自由にされたら、俺や神様は困るんだわ」
「魔物を自由に……!? やはり、教皇殿が魔物達を意のままに操っていたというのか!?」
「まあね。けど、俺はその〝権利〟のいくつかを神様から借りてるだけさ――人を減らすっていう神様との約束を、果さないとだからねぇ!」
「ぐぬ――!?」
その両手を優雅に掲げ、カギリ渾身の一撃を極光で受け止めるアルシオン。
アルシオンの七色の瞳が鋭く煌めくのと同時、津波のような光に弾かれたカギリは、為す術も無く吹雪の中を彼方へと吹き飛ばされる。
まだその底を見せていないにも関わらず、アルシオンの力は明らかにリーフィアを上回っていた。
もしアルシオンがその気になれば、この星は愚か、遠く離れた太陽をも含む何もかもを一瞬で消し去ることすら出来ただろう。
「まだだ! ギリギリ侍の真髄――目に物見せるッ!」
「にゃはは、ほんっとーに元気だねぇ」
しかしカギリはユーニへの想いを胸に、一切の迷いも怒りも捨て、この世でただ一人のギリギリ侍としてその力に抗う。
カギリ自身が言うように、今のカギリにはアルシオンの事情も、世界の真実も分からない。
カギリがこの場で戦う理由はただ一つ。
必ずユーニの力になるという誓いと覚悟だけ。
ユーニにとってカギリが闇の中で見た光であったように。
カギリにとってもユーニは光だった。
しかし、カギリのそれは闇の中で見た光ではない。
常に全てが眩しく輝くカギリの心の中にあって、一際美しく輝く光――それこそが、カギリから見たユーニだった。
あの恐るべき破壊神の眼前。
傷つき、立つこともままならなかったユーニは、それでもカギリに逃げろと叫んだ。
仇であるはずのリーフィアの手を迷わず取り、自らを直接害しようとしたアルシオンにすら、ユーニはなんとか力になろうと手を伸ばしている。
ユーニが見せた数多の優しさと他者を思いやる心――彼女のその眩い光にカギリは純粋に惹かれ、必ず支えると決めた。彼女がそう望む限り、共にあろうと決めたのだ。
「ユーニ殿を支える……! 拙者のこの想いは……嘘ではないッ!」
「だろうね……それは、俺にもよく分かるよ」
アルシオンの光を突き抜け、ついにカギリの刃が教皇の領域に届く。
カギリの二刀によって弾かれたアルシオンが吹雪の先に遠ざかり、しかしすぐに再び七色の極光を放って夜空の下に静止する。
「やるね――今の俺と戦おうってなったら、お別れした時のオウカちゃんでも無理だと思うんだけど」
「師匠は言っていた! ギリギリ侍の剣は、絶えた望みを見いだす剣だと! 教皇殿はなにやら〝諦め気分〟のようだが、ユーニ殿も拙者も、まだまだ全然やる気満々でござるッ!」
「それはもう十分に分かったよ。ユーニちゃんのこともそうだし、君のことももうよく分かった。オウカちゃんが君に何を教えて、何を〝教えられなかったのか〟もね――」
「――っ!?」
その時だった。
アルシオンの放つ揺らぎを受け、至高の高みにまで至りつつあったカギリの眼前。
それまで輝いていたアルシオンの極光が、闇の中に消えた。
「これは――!? 教皇殿の揺らぎが、変わった――!?」
『悪いけど、オウカちゃんに揺らぎの概念を教えたのは〝俺〟だ。そして、そのオウカちゃんは結局自分で揺らぎを扱うことは出来なかったんでしょ? なら――君は俺には〝絶対に勝てない〟』
光が絶え、闇に落ちた空。
それまでアルシオンが放っていた力が消え、カギリの周囲全てから教皇の声が響く。
『さあ、ここからは俺が君に教えてあげるよ。オウカちゃんじゃ教えられなかった、揺らぎの本当の意味をね――』
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