第15話混乱
「聞いて。言っておかないといけないことがあるの――」
天使が改まった口調で告げた。
皆は天使を取り囲むようにして、言葉を待つ。
「本当に、この場所を知っている人はいないのね?」
一様に頷く。
「ここに来る前、なにをしていたか覚えている?」
「来る前って、夢みる前ってことすか? 俺、元々異世界行くつもりで、撮影してたっすけど……」
「異世界? 何ですかそれは」
「いや、流行ってんすよ、都市伝説的な?」
父川に一神はめんどくさそうに答える。
「私は実は、こんな状態になってから夢をみるのは初めてで……」
「父川さんって、普段その姿で道とか歩いているんですか?」
小冬に父川はかぶりを振って答える。
「いえいえ、普段は普通の顔ですよ。元の顔です。生活空間というか、イメージのデータを脳に送られて、そこでは今まで通りの格好で生活しています」
「へぇ、スゴいっすね」
一神に向かって得意気に腕を組み、胸を張った。
「ええ、進んでいますからね。普通にベッドで休んでました」
「僕も……ベッド、かわかんないけど……」
「詩門君はどこにいたの?」
小冬に困った顔を向け、詩門はうつむいて呟く。
「……どこ。んーー、お家、かな。おじいさんがお家だって言ってたから……」
「お家で、何をしてたの? ご両親は?」
「あんまりあれこれ問い詰めるの、私、嫌い。やな職員みたい」
「でも、仕方ないじゃない。天使さんが聞いてるんだし」
詩門は香菜と小冬を見比べ、さらに俯いて、小さく言った。
「お母さん、いるよ。お父さん、僕に家にいるようにって」
「それで?」
「お昼寝、してた」
詩門はそう言うと、肩で息を吐いた。
「私も、夜でしたけど、寝ようとしてただけで……」
私は眠る前のことを思い出して言った。
「一緒。普段と変わらない」
小冬も同調する。
「私もウブランと横になっただけだよ」
ウブランもうんうんと頷いた。
「そう……。実は、あなた達を呼んだというのは嘘なの。私もあなた達と同じ、突然誰かの夢に囚われた。そして、その夢の主は、この中の誰か――」
そう言うと、私達にすっと目をやった。
「は? てことは、なんすか? こんなかに、幽霊がいるってことっすか?」
一神の体は軽い言葉とは裏腹に、小刻みに震えていた。
「幽霊……そうね。自分が死んだと思っていない人間がいる。混乱を避けるために今まで黙っていたけど、いい加減目覚めないとね――」
天使はそう言って、皆を見渡した。
「さぁ、安心して。私がいれば心配ないわ。あなたが認めてくれれば、直ぐに体に戻って迎えに行ってあげる」
そう言われても、名乗り出る人はいない。
「あんた、完全に見た目終わってるっしょ。あんたっしょ、未来のこととかしんねぇけど、不具合でも起きたとか……」
「なんてこと言うんです! 昔の人にはわからないでしょうが、この格好だって普通のことですよ。そっちこそどうなんです? 異世界なんて、馬鹿馬鹿しい。怪しいことこの上なしですよ」
「うわ、それ言っちゃいます? すっげぇ叩かれますよ。異世界スゲーブームなんすから」
一神と父川はまたもや言い争っている。しかし、今回ばかりは聞き捨てならない。なにせ、私が幽霊かもしれないのだ。
「二人はどうして同じ顔で名前なの?」
香菜がウブランに抱えられながら、冷めた目で言った。
「そうすよ。おかしいでしょ。同じ時代の同じ人間二人って。どっちか死んでんじゃないっすか?」
「そんなこと、言わないでください……」
小冬は首を傾げながら俯いた。声が涙を含んでいる。
「しかし、あのペンダントのこともありますし……いたっ! なんかしました?」
「は? なんもしてないすよ。やっぱイカれてんじゃないっすか?」
父川と一神がつつきあっている。
「香菜さんって、その、ロボットとチューブで繋がってますけど……」
「なに?」
私はウブランという人型ロボットを見上げる。髪を引っ張る。
「故障とか……しないんですか?」
香菜は、素早く言いかけた口を開いたまま、息をのんだ。
思いきって言いすぎただろうか……。
「もういい。私達勝手にやるから」
香菜はウブランにヒソヒソと何か言い、プイと背中を向けてしまった。
「私も、皆さんが信用ならないので!」
父川もどこかへ行ってしまった。
「ハア? んなの俺もっす」
小冬と目があった……。小冬は何か言いたげだったが、一つ溜め息をつくと、一神と同じように出ていってしまった。
詩門が、私と天使の間で束の間もじもじしてから、部屋から走り去った。
「はぁ。結局こうなるのね」
天使は翼をバサリと広げた。
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