2話目

 私はこの世の始まりから終わりまでを見つめる者。

 私の足元には十字路が見下ろせる。

 ほら、今日も誰かがやって来たようだ。


 後ろから十字路に差し掛かったのは一組の男女。

 二人は夫婦、二人の子供が青年期に差し掛かる、それなりの年月を共に歩いてきた夫婦だ。


 男は真っ直ぐ進むつもりなのだろう。

 十字路から前にまっすぐ進もうと迷わず一足踏み出すところだ。


 女は少し迷っている。

 右へ行けば新しいパートナーと歩く道。

 少し前から夫以外に心を寄せる男ができてしまった。

 その男に共に歩こうと言われている。

 そちらへ行けば全てを捨てて新しい道を歩くことになる。

 おそらくは険しい道。

 その先を新しい男とずっと歩けるかどうかも分からない。

 また新しい十字路に差し掛かる道かもしれない。


 左へ行けば全てを捨てて一人で生きる道になる。

 もう夫とは一緒に歩きたくないと思っていた。

 もう何年も何年も前から心が離れているのに気づいていた。

 だが、新しいパートナーと歩く道を選ぶ勇気もない、それほどの信頼もできない男だ。

 一緒に罪を背負って、その挙げ句に新しい十字路で別れてしまうぐらいなら、いっそ一人で生きていこうか。

 そんなことを思い、今、顔は左を向いている。


 立ち止まる女に気がつき、男が近寄り左手でその右手を握る。

 握られた女はそのまま左に行くことはなく、しぶしぶのように真っ直ぐ道を歩き始めた。

 夫と共に。


 人というのは結果として平穏な道を行くことが多いように見受けられる。

 だが、何度も何度も十字路に差し掛かる者もいる。

 この女の前がまた十字路に差し掛かる日が来るのかどうかは分からない。

 それでもとりあえずは真っ直ぐ進むことにしたようだ。

 それが幸か不幸かまでは分からないが。


 


 


 

 

 

 

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