姫と令嬢



「マグダレーナさん。もしかして、あなたが悩んでおられるのは――『性的指向』について、ですか?」


 マグダレーナさんが婚約破棄された日の夜、わたしは月寮パンシオン・リュンヌ露台バルコニーでそう質問した。


「……だとしたら、どうしますの?」

「力になります」

「なぜです? それが、大渦国の、あるいは東端京の利益になると? あるいは……ルイスさまの件で、責任でも感じていらっしゃるのかしら。だとすれば、そんな思いやりは不要――いえ、侮辱ですわよ?」


 マグダレーナさんらしからぬ物言いである。

 いろいろと、大変なのだろう。

 知っている。


「いいえ、違います。わたしがマグダレーナさんの力になりたいと思うのは……その、ですね」


 少し照れ臭い。


「友達だからです」


 自分でも珍しいと思うが、わたしは微笑んでいた。

 ごく自然に、頬を緩めて。


「……友達だから、助けたいと思うのです。悩んでいるなら、一緒に解決したいと思う。……いけませんか?」


 マグダレーナさんはあっけにとられた顔でわたしを見て、ややあってから小さく溜息を吐いた。

 苦笑とともに、マグダレーナさんが言う。


「わたくしの本性を見抜いて、その上でまだわたくしとお友達でいてくださるの?」

「友達でいたいと思うのです。……もちろん、マグダレーナさんがお嫌でなければ、ですけれど」


 マグダレーナさんはやさしく微笑んで、首を横に振った。


「ええ。わたくし、生まれついてのレズビアンでございます。けれど、いまの悩みはそれについてではないのです」

「そうでしたか。失礼しました。……悩み自体は、あるのですね?」

「はい。端的に言いますと『アルティさまを毒殺せよ』と父母に迫られているのです。はたはた困った悩みなのですけれど……一緒に悩んでいただけますか?」

「……は、はい?」


 そのあと、マグダレーナさんから諸々の事情を聴いたわたしは、レベッカさんも呼びつけて会話に交え、なんとかかんとか頭を捻って考えたのだ。


 貴族学園最大派閥の、いかにも物語に出てくる令嬢が考えるような、ひどい悪だくみというやつを。


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