メイドたちの噂話 その3



 ねえ、聞いた?


 そう、マグダレーナ・マドレーヌさまよぅ。

 最近、とてもご実家からの手紙が多いじゃない?

 それこそ、毎日のように……でも、そのたびに険しい顔になるの。

 別のメイドからのまた聞きだけど、マドレーヌ家から……お父さまとお母さまから、突き上げがあるみたい。

 うん、そうそう、婚約者のルイスさまが、アルティさまにご執心でしょう?

 だけじゃなくて、マグダレーナさまもアルティさまと仲がいいじゃない。

 それがご実家にバレてしまって、気に食わないんだろうって。


 ……もともと、マドレーヌ家は軍閥貴族なのよね。

 大渦国イェケ・シャルク・ウルスとの和平には最後まで反対だった……というか、いまでも反対なのかも。

 平和になれば、軍縮が起こって、マドレーヌ家の衰退を招く……んだっけ?

 表立って『戦争はあったほうがいい』なんて言えないから、裏でいろいろ動いているとかなんとか……噂だけど。

 学園内のこととはいえ、マグダレーナさまが和平の証である留学生、アルティさまと仲良くするのは、いい気はしないわよね。

 実家から突き上げを食らっても、仕方ないってものよ。

 おかわいそうにね。

 ご実家のせいで、おふたりの友情に亀裂が入ることがあったら、私マドレーヌ家を許せないわ!

 私程度がマドレーヌ家を許せなくても、なにも変わらないんだけどね。


 ……いや、友情でしょ。

 恋愛感情じゃないでしょ。

 たしかに、マグダレーナさまは、ときおり妖しい目をされるけれど……もともと、そういう顔立ちなだけよ。悪役顔っていうか。

 ともかく、あんたね。そんな妄想、小説の中だけにしておきなさいよ。

 小説だとしても、聖西教会に見つかったら説法されるわよ。

 ほどほどにしておきなさい。

 厨房でのつまみ食いもね。暴食は罪なんだから。

 気づいてないと思ってた?

 そろそろコックたちに怒られるわよ。


 あ、話は変わるけど、説法といえば、ピーター・オペラ司祭さま。

 あの方、週末は下町の教会に外泊なさるじゃない。

 やっぱり司祭だけあって、日曜日は教会で仕事してるのかな……って思ってたんだけど、聞いた話では……いいひと、いるらしいわよ。

 うん、噂よ、たんなる噂。

 でも、これがほんとうだったら……色欲は罪よねぇ?



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