メイドたちの噂話 その1



 聞いた? ていうか見た?

 そう、あのお姫さま。大渦国イェケ・シャルク・ウルスの。

 わたしさ、びっくりしちゃった。

 お礼を言われたのよ。お礼よ、お礼。

 制服の着付けを手伝ったんだけど、「明日から自分でやるので、細かいところを教えてください」って。

 学園付きのメイドに話しかけるどころか、平然と教えを乞うんだよ?

 しかも、教えたら「ありがとうございます」って、お礼してくださったの。

 そんなの初めてだから、びっくりしすぎて変な顔になっちゃった。

 ことあるごとにお礼を言ってくれるし、ねぎらってくれるから、最近ようやく笑顔で「もったいないお言葉です」って返せるようになったの。

 うん、めちゃくちゃうれしいね、お礼言われるのって。


 しかもね、丁寧で礼儀正しいだけじゃなくて、部屋中が宝の山なの。

 入りきらない宝をしまうために、空き部屋ひとつ倉庫代わりにしているんだよ。

 あの、ただでさえばかみたいに広い、最上級の寮室をさ!

 わたし、十二歳から女子寮庭園でメイドやってるけど、間違いなく歴代一位。

 過去十年いなかった大金持ち。

 あれだよね、大渦国ってめちゃくちゃでっかいんだよね。

 蛮族の姫って聞いてたけど、いまのところ、あんまりそんな印象はないかな。

 ああ、でも、ソーセージを手づかみで食べるのは、ちょっと引いたかな。

 農家の娘ならまだしも、お姫さまが……って。

 なんか、ブンカケン? とかが違うんだってさ。

 でも、それも初日だけ。

 よく月寮パンシオン・リュンヌの食堂でマグダレーナさまにテーブルマナー習っていて、いまはもうとっても上手だよ。

 すごいよね。教えるマグダレーナさまも優秀なんだろうけど、教わるアルティさまもものすごく優秀。

 休みの日も遊び歩かず、お茶会にもいかず、お部屋かお庭でご本を読んで勉強なさっているし。

 ……なんの本か? それはわからないけど……でも、すっごい真面目な顔して読んでいるから、きっと頭のいい本だよ!



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