第5話
ーーーー数時間後。
「ぜぇ……ぜぇ……」
『頑張りますねー津田さん』
戦い漬けでランクを上げ、気が付けば日も落ちかけている。
流石に低ランクだとスタミナの上限値も低いので活動が制限されるが、ランクアップで回復するので周回はこなせている。
こんなクソゲーでも通常のソシャゲのセオリーは通用するらしい。
とりあえず手持ちの装備だけでも鍛えておきたい。強化となれば必要なのは強化素材だが、クエスト周回の副産物で素材はたんまり有った。
「これをこうして……そっからこうしてっと」
素材を消費してドスのレベルMAXまで上げる。そしてレア素材を用いて限界突破し、更に強化を繰り返す。
現状で最大限まで強化出来たが、ここから先は見慣れないアイテムを要求されるようになった。
「なぁ、この『魔獣の牙』ってのはモンスターからのドロップか何かか?」
『そうですね、正確には『降臨クエスト』と呼ばれるもので、クエストとしての位置付けでは高難度に分類されます。その魔獣の牙は、『邪獣ポチ丸降臨』のドロップアイテムになります』
そのクエストを探してみたが、俺のスマホ上にはまだ掲載されていない。
よく有りがちな不定期に訪れる期間限定のものなのだろう。
いや、もしかするとスタミナの総量が足りていないから表示されないのも考えられる。いずれにせよまだ俺には早い話らしい。
とりあえず、目先の装備品の強化は完了した。
アバター用の防具については鎧も捨てがたいのだが、いかんせん動きづらいのもあって普段着のをそのまま着ている。
防御力は普通の装備のが参照される為、見た目はジャージだがかなりの防御力を得ることが出来た。
『では街に行ってみますか? お腹も空いたでしょう?』
「ん? ああ確かに。しかしゲームの世界でも腹は減るのな。あ、因みにこの世界で死んだらどうなるんだ?」
『知りません、死んでみたら分かるんじゃ無いですか?』
「…………」
仮にもプレイヤーのナビ的存在の妖精が、かなり大事な部分を知らないときた。
死ぬと現実世界に帰れるのか、それともデスペナルティ的なものがあるのか。どちらにせよそれが明確にならない内は死ぬ事は避けたい。
最悪ゲーム内の死亡=現実世界でも死亡の線もこのゲームを作った社長とやらのノリなら有り得る。
「……とりあえず、飯屋を探そう」
意識してしまった所為もあり、かなり腹が減ってきた。あいにく手持ちに食料系のアイテムは無く、そもそも食料系のアイテムがドロップしない可能性だってある。
ならば腹を満たすには街に繰り出す他無いだろう。
「ここから近場の街はあるのか?」
『ありますよ。スマホ上で街を選択すれば一緒で移動も出来ますけど?』
「何それめっちゃ楽じゃん」
お言葉に甘えて街までひとっ飛ぶ事に決めた。
◆
転送後。
「おぅえ……うッ、おろ、オロロロロロロロロロロッ」
吐いた、死ぬほど吐いた。
何だあの感覚は。空間転移的なものだろうが、形容し難い感覚が全身を覆い尽くしてきた。
時間にしてみれば一瞬だ。しかしその一瞬でさえ、胃液すら空になる程の気持ち悪さが押し寄せてきやがる。
『津田さん、マーライオンみたいですよ』
「はぁ……はぁ……うるせぇ」
最悪だ、確かに名実共に腹の中は空っぽになりはしたが、今ここに何かを入れる気にはなれない。
独特の嫌な酸味が残りやがる。まずはそれを何とかするべく、飲み物を探すことにした。
街なら露店だって沢山あるだろう。ブルーな顔と気分で街へと足を踏み入れた。
「うわぁ……すげぇ」
この世界がクソゲーなのは変わらないが素直な感想を述べると『素晴らしい』の一言だった。
モンスターがややグラフィックくさい雰囲気だったが、街の外観はリアルと遜色ないレベルである。例えるなら街の外はファミ◯ンで街はプレ◯ステ5と言ったところだろう。
「ここだけ別のゲームみたいに綺麗だな」
『ええ、そりゃ別のゲームですから』
「……は?」
妖精の言葉に耳を疑った。
『あ、正確には「別のゲームのグラフィックをパクっている」が正解ですね。こんなアクティブユーザーが一桁のゲーム、どこぞからパクってたってバレやしませんから』
「……どこまでクソだよ」
『まぁいいではありませんか。ほら、あそこにオープンテラスのカフェが有りますよ?』
「……だな」
まともに取り合っても疲れるだけ。そう理解した俺はサッサと飲み物を得るためにカフェに向かおうとした。
だがしかし、そこに奴は居たのだ。
「すいませーん、マンゴーパフェひとつ」
可愛い注文をする人物に目を奪われた。パンチパーマに真っ黒のスーツ、そして手には見事なドスを持っている。
オープンカフェにドス。
こんな違和感のある取り合わせだが、何故みんなスルーを決め込んでいるのか? いや、問題はそこでは無い。
その風貌は先程みた、現在実装中の『任侠フェス』のコンプ姿だった。
「まさか、廃課金ユーザー……だと?」
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