第3話
「己の強化……そう、ガチャの時間だ」
『おお、やる気になりましたね津田さん!』
やる気? 馬鹿を言え。これは半ば諦めからくる空元気だ。
こんなふざけた世界に飛ばされて、しかも訳の分からないアホ妖精に煽られる始末。まともな神経をしていたら麻痺を通り越して爆発してしまいそうだ。
なにより今頃リアルの僕はアヘ顔ダブルピース状態。
これ以上の地獄があるだろうか? いやないね、有り得ない。だとすれば望まぬゲームの世界だとしても楽しまなければ損だ。
「えーと、とりあえず手持ちの『奇石』はっと……」
奇跡の石と書いて『奇石』。
大層な名前が付いているが、ガチャを引ける石ならば納得がいく。虹色に輝く有りがちな見た目をしており人側の射幸性を煽りまくる悪魔だ。
とりあえず、スマホ上のプレゼントボックスから『全てを受け取る』を選択。そこに表示される奇石の個数はーーーーなんと『3450個』!
(なんとも言えないな……ゲームによっては基準がマチマチだし)
ガチャを引くのに5個で1回のゲームもあれば300個で1回のゲームだってある。
このヘコヘコクエストでは一体どれだけ要求されるのだろうか。
『ヘコヘコクエストは1回につき100個です。1000個で11連引けるお得セットもありますよ? こちらはSR以上が必ず1個以上出ます』
「ふむ、まぁ始めたてだし11連が妥当かな」
『し・か・も! 今なら『フェス』と被ってまして限定の武器や防具が当たるんですよ。私的には通常のよりコッチをおススメします!』
「フェスか……」
『フェス』とは。
大体のゲームなら普段よりレアなモノが当たりやすく、さらに特定のアイテムがピックアップされるガチャイベントである。大凡の人は貯めた石を放出するのはこのタイミングだろう。
インフレの激しいソシャゲ業界。だとすれば今のフェスで手に入るアイテムが既存のモノを超えてくるのは目に見えている。
なら結論は出ている。お得を狙うのであればフェスを回すのがセオリーじゃないか。
「えっと……なになに?」
ガチャページをゆっくりと下の方にスクロールしてみる。すると通常ガチャとは打って変わり、異彩を放つ画面に辿り着いた。
そこに刻まれた文字はーーーー『任侠フェス』!
「……にんきょう、フェス?」
任侠ってあの任侠か?
いや間違いない。ガチャのページは黒一色に染まり、なにやら物騒な武器が掲載されていた。
「……おいおいマジかよ」
『タイムリーですね。ウチの社長が極道ドラマにハマってまして今回はそれに因んでおります。筆頭すべき武器の《ドス/UR》や限定防具の《極ロードシリーズ》がおススメです』
「極……なんて?」
「極ロードです。なんと通常防具以外にもアバター用も実装されていますので、津田さんみたいな無個性でもコワモテになれますよ?」
「だれが無個性だコラ」
いや待て仮にもファンタジー路線のゲームだろコレ? なんでいきなり極道とコラボかましてんだよ。社長の趣味? そんなもの押し付け以外の何者でもないじゃないか。
「……普通の11連回すわ」
『えッ!? そんな勿体ない!!』
「この世界でドス振り回して冒険する奴なんていねぇだろうが! しかも黒スーツとか浮くし、超浮くし!?」
『津田さんは体裁を気にする人なんですね。ファンタジーの世界では生き辛いですよ?』
「ならファンタジーの世界観を守れよ。それに俺にだってポリシーはあるんだ。剣と魔法の世界なら、せめて聖剣や鎧で戦いたい」
『でもーーーー』
妖精の言葉を断ち切り、僕は通常の11連ガチャをタップした。
すると、突然僕の目の前に大きなガチャポンの機械が現れる。
「ほうほう、これは素直にすごいな」
ガチャ演出は実体化して行われるらしい。クソゲーのくせに無駄に凝ってやがるぜ。
『引いちゃいましたか……では津田さん、そこのレバーを引いてみて下さい』
「これか? ……よいしょっと!」
ガシャコン!
重たいレバーを下げるとガチャに光が集り、白から赤、赤から金、金から虹へと変化していく。
あぁ、これから出てくるレア度に対して演出が絡むのか。この辺りは普通のソシャゲを踏襲しているっぽいぞ。
そして、バラバラと色付きのボールが俺の元に転がって来た。振り分け的には白が6個、赤が2個、金が2個、虹が1個だ。
「お! 虹って事は最高レアリティだよな?」
『はい、津田さんは運が良いですね! では好きな色のボールから触っていって下さい。そうすれば中からアイテムが飛び出します』
「……楽しみは最後にってなるよな。じゃあ白は一気に開けるぞ!」
ポポポポーン!
《軍手/N》
《ヨレヨレのシャツ/N》
《メガネ/N》
《ジャージ(上)/N》
《便所サンダル/N》
《デッキブラシ/N》
「……マジもんのゴミしかねぇな」
通常ガチャだから? いやいや、そもそもファンタジー感すら無いラインナップだぞ。ホームセンターで売ってるもんしか無いじゃないか。
「せめて赤なら……」
ポポン。
《鉄パイプ/R》
《ヴィンテージパンツ/R》
「だからファンタジーはどこ行ったよ!!」
『まぁまぁ津田さん落ち着いて下さいよ。見てくださいよこの深みのある色味を……Rなのが嘘みたいです。古着屋に持っていってもそこそこ値段付きそうじゃないですかね?』
「知らねぇよ! なんだよヴィンテージパンツって!! つか妖精が古着屋とか言うなよ、雰囲気ぶち壊しじゃねぇか!」
『細かいですねぇ、この先大変ですよ?』
「大丈夫だよ既に察してるから!!」
ゴミしか出ないなんてあんまりだ。俺はこれからヨレシャツに鉄パイプでファンタジーしないといけないらしい。
そんな諦めムードの中、残りの金カプセルに手を伸ばした。
デデン!
《アイスレイピア/SR》
《スケイルメイル/SR》
「!? ……け、剣と鎧だ!?」
『あ、それ中々強いやつですね。属性付きの武器は貴重ですからね』
ああ、なんか凄く嬉しいぞ。これだけでもう涙が出そうだ。
「じゃあ、興奮冷めやらぬ間に……虹ぃ!!」
デデデデーン! デッデッデッテレレレーン!!
怪しげなファンファーレと共に視界が光に包まれる。最高レアのアイテムだ、その演出も他とは一線を画して然るべき!
『おめでとうございます津田さん! URの武器ですよ!』
「おお!?」
《ドス/UR》
「強いケド!!強いけどさぁぁぁぁああああ!!」
「あり? これ任侠フェスのが混じってますね。バグっぽいけど強そうなので良かったですね」
フェス限定が通常ガチャに混ざる闇。
この世界は、とことん僕を弄ぶらしい。
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