第2話
『いやだから、この舞台になってるゲームは「エタニティ・ラスト・テイルズ」では無く「ヘコヘコクエスト」です』
「……は?」
『そうです、ヘコヘコクエストです』
何故かドヤる妖精。
頭の中の整理が追いつかない中、妖精が口にする訳の分からないゲームについて言及した。
「知らない、アタイそんなゲーム知らない」
『またまたぁ。よく言いますよ、毎日プレイしてくれてるクセにぃ』
いやいや、何かの間違いだろう。
だって俺がまともにプレイしているのなんてエタニティ・ラスト・テイルズくらいだぞ? 寧ろそれ以外のゲームに裂く時間など有りはしない。
『じゃあそのスマホ見て下さいよ。そこにちゃんと有りますから』
「……そうだスマホ!」
今はゲームの世界に転移しているけど、なんとも都合よくスマホを持ったままだ。助けて文明の力、Goog◯eなら何とかしてくれないか!?
「……おん?」
おかしいぞ。画面上では普段は有るはずの充電とアンテナのアイコンが消えている。まるでバッテリーや電波の概念が消え失せた様にだ。
なるほど、やはりゲームの世界だからこそ電力や電波を気にするなという訳だ。周りに電柱なんて立っていない。
ふむ、ファンタジーな世界ならリアリティなんて野望ってもんだ。
順応速度としては中々だと自負しつつスマホの画面をスクロールしてみた。一番目の画面にはエタニティ・ラスト・テイルズが存在している。
出来るなら俺はこのゲームの世界に行きたかった。今からでも何とかならないだろうか。
しかし、妖精は希望的観測をブチ壊す様に『人間諦めが肝心ですよ』と2つ隣の画面にスクロールしろと言ってきた。
渋々だが言われた通りにすると、そこに有るのはダウンロードしたけどプレイしていないログボを回収するだけの放置ゲー達が羅列されていた。
「ああ、石だけ回収してるゲームだわコレ」
自分で言うのもアレだが、どうにも律儀な性分らしくダウンロードしたゲームのログインは毎日欠かさない。
いつか手の平返した様に人気が出るかも知れない。だったら石は回収しておいて損はないだろう。一縷の望みが俺にそうさせてきたのだ。
結果的にスマホの容量を圧迫しただけに留まってしまったが、そんな有象無象のゲーム達の中に、このクソゲーは確かに存在した。
「ヘコヘコクエスト……これか!?」
大体のゲームアイコンは可愛い女の子キャラやメインモンスターになっているだろう。しかしこのゲームのアイコンはどう見ても『男性用トイレのマーク』である。
パッと見でゲームなのかも分からないだろう。近場のトイレを探すアプリと言われた方が納得できる。
そそられない、圧倒的にそそられない。
そもそもどんなゲームなのかも思い出せない、何故ダウンロードしたのかも謎だ。
『いやーしかし、ウチの社長も思い切りましたよねぇ。「我が社のゲームを愛して下さる皆様に最高のサプライズをプレゼントしよう」っていきなり言い出したんですよ。それでユーザーの皆さまの、その精神のみを現実世界から抜き取りゲームの世界に転移って凄くないですか? 昨今の科学技術でも不可能なレベルの事を、多額の費用を投じて実現させたのですから』
「……おい待て、じゃあ俺は今、精神だけ引っこ抜かれてゲームの世界に来ているって事でいいのか? なら現実での俺の身体は!? と言うか時間軸とかどうなるんだよ!?」
『はい? まぁリアルでは時間は経過し続けていますね。そんで精神を抜かれた方々は漏れなく「アヘ顔ダブルピース」をしたまま意識不明となるそうです。そのアヘ顔なんちゃらが何の意味かは私には分かり兼ねますが』
「最悪じゃないか!!」
終わった、マジで終わった。
なんだよアヘ顔ダブルピースで意識不明って。それなら寧ろ殺してくれよ。俺の両親はそれを見てどう思う? 部屋を開けたら息子がアヘ顔で倒れてんだぞ?
『切り替えましょ♪』
「切り替えられっかよ、どんなメンタルお化けだよ」
しかしこのゲームを作った社長がとんでもないサイコ野郎だと言うのは確信した。
ともなれば、この先に待つのは不安と恐怖以外の何者でもないだろう。
『まぁこうなった以上、津田さんもこの世界を楽しみましょうよ。ゲーム上のアバターの能力や所持品は、全て津田さんのステータスとして反映されますから』
「……そんな気になれるかよ」
『まま、そう言わずに。ログイン勢だったら貯まってるんじゃないですか?』
「あん?」
『“石”ですよ石! みんな大好きなヤツです』
「石? ……あー、ガチャする為のか」
それを聞いて少しだけ興味が湧いた。ガチャと言う甘美なワードは、どんな絶望的な状況でもユーザーの脳を溶かすらしい。
だがしかし、とりあえずガチャは置いといて俺は俺自身のステータスを確認する事にした。
「おい妖精、俺のステはどこで見れる?」
『ステータスですか? ええとまずはスマホのヘコヘコクエストをタップして下さい。この世界ではスマホのアプリ上で自身の情報を見る事が出来ます。ガチャとか装備も同じですね。因みに、他のアプリは存在こそしますが起動できませんのであしからず』
「ほうほう」
妖精に言われた通りにアプリを起動する。すると、俺のステータスや装備品を弄る画面が出てきた。
▪️名前:あなたさらな
▪️ランク:6
▪️装備
武器:プラチナダガー『S』Level.4
頭:胴の兜『N』
胴:布の服『N』
腕:ただの籠手『N』
腰:ベルト『N』
足:くつした『N』
▪️アバター装備
頭:無し
胴:津田のダサいシャツ
腕:無し
腰:無し
足:津田のダサいパンツ
▪️紹介文
『よろしくお願いします!』
▪️フレンド
『0人』
うん、見事にチュートリアルのみをクリアした状態だ。
ガチャは自分の装備を引く仕様らしく、お情け程度に始めのガチャで少しレアなのが出ている。
通常の装備と異なり見た目用のアバター用の装備もあるのか。意外と細かい所を補完しているなクソゲーのクセに。
それよりなんだよ【津田のダサいシリーズ】って。悪意たっぷりに私服をディスって来やがる。
服の趣味は良くないがダサくはないぞ?
『いえ、客観的に見て津田さんはダサいです。津ダサいさんです』
「羽むしるぞクソ妖精が」
当然、リセマラなどしていないので出たモノをそのまま装備していると言った所だろう。キャラの名前も適当に決めたまま、なんとなく分かってきたぞ。
なら、僕の今すべき事は見えた。
「己の強化……祭りの時間だ!!」
そう、みんな大好きガチャである。
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