薄着とパソコン

 先日、俺は天気予報で梅雨入り宣言されたのを見た。そのせいか、天気は崩れやすく、曇りや雨を繰り返す日々が多い。


「う~、蒸し暑いなぁ」

「美尾よ、その着物はもっと薄くできんのか?」

「もう一回変身し直すん? でも、どんな着物にしたらええの?」


 梅雨の季節は雨が降っていなくても湿気が強い。特に京都は盆地なので湿気が溜まりやすいんか、日によっては蒸し焼きになるんかってゆうほど蒸すときがあるから困る。


「浴衣なんてどうや? あれなら今でも夏祭りなんかでよう見かけるし。薄いで?」

「浴衣ってどんなん?」

「着物の薄いやつじゃよ」


 お銀ちゃんが美尾ちゃんに説明してる間に、俺はノートPCを部屋から取ってきてネットで探し出す。そしてその画像を二人に見せてやった。


「へぇ、こんなんあるんや。ほんまに薄くて涼しそうやん」

「そうじゃろう」

「それじゃ、早速着替えてくるな!」


 脱衣所に駆け込む美尾を見送りながら、俺はふと気になったことをつぶやいた。


「あれ? どんなに変身しても元の毛の量はおんなじなんやから、暑苦しさは変わらんのと違うんか?」

「さぁ、どうじゃろうな。美尾の反応を見ておる限り、涼しくなるのかもしれん」


 変化のかけ声と音がして少ししてから、再び美尾ちゃんが姿を現す。

 身につけてる着物は確かに先ほど見せた浴衣と同じものやった。袖の部分をひらひらさせながら嬉しそうにこちらへとやってくる。


「これほんまに涼しいな! 変えて良かったわぁ!」

「どうも涼しいらしいな。薄くなった分の毛はどこにいったんやろう?」

「さぁのう」


 上機嫌な美尾ちゃんを俺はお銀ちゃんと一緒に半ば呆然と眺めてた。




「それにしても、そのパソコンというやつは便利そうじゃのう。今度使い方を教えてくれんか?」


 浴衣を嬉しそうに見せびらかしていた美尾ちゃんが落ち着くと、お銀ちゃんは先ほど俺が持ってきたノートPCに興味を示した。


「あ、うちも! それ使ったらいろんなことがわかるんやろ?」


 おお、まさか二人ともノートPCに食いついてくるとは。こういった機械類は避けると思ってたのにな。


「ええよ。それじゃ、今からやってみよか」


 俺の言葉に元気よく頷いた二人は、目を輝かせながらノートPCに向かい合った。

 まず最初に教えたことはノートPCの使い方や。俺がおらん間にも使えるように、電源コードのつなげ方からノートPCの起動方法と電源の落とし方、そしてブラウザの基本的な使い方などやな。どちらにも実際にやらせて覚えてもらう。


「よし、こんなもんやな。これでどっちも俺がおらんでも使えるわ」

「そうか。そしていよいよ『いんたーねっと』を使うんじゃな」

「うちもわからんことがいっぱいあるから色々調べたい」


 やる気は充分やな。それじゃ早速始めよか。

 ブラウザを起動した直後のページに某有名検索サイトのページを表示するよう設定してあるので、俺はこれの使い方を教えた。とは言っても、フォームに言葉を入力すればええだけなんやけど。


「この細長い棒みたいなところにこれを合わせて、ここを押してやると……」


 やたらと代名詞が多い説明になるんは、実際に画面を操作しながら説明してるからや。けどそれ以外にも、パソコンの用語を知らん人にフォーム、カーソルなんてゆう言葉を使っても通じひんからという理由もある。いろんな人にパソコンの使い方を教えてて出した結論や。

 その甲斐あってか、元々使い方そのものは簡単やから二人はすぐに理解して覚えてくれた。けど、もっと根本的なところで問題が発覚してしまう。


「なぁ義隆、この『きーぼーど』ってゆうたくさんのボタンに書いてある文字が読めへんねんけど」

「わしもひらがなと数字は読めるが、この『あるふぁべっと』というのか? これはわからぬ」


 そう、純和風な人外の二人は学校で英語を勉強したことがなかったもんやから、アルファベットを知らんかった!


「しもたな。そうゆう問題があったか。そうすると、ひらがな入力に切り替えるか」


 アルファベット入力に慣れた俺からすると違和感ありまくりやけど、ここで文字の勉強をさせてやる気をなくさせるのは違うやろう。俺は滅多に使わん操作に苦労しながらも、二人のために入力方法を切り替えた。


「これでどうや?」

「お? おお。これなら何とかなりそうじゃ」

「うちもや。さすがにひらがなはわかるもん」


 キーボードの使い方は思いっきり不慣れやけど、初めて使うんやからしょうがない。ちなみに、キーボードの打ち方は五月雨式とゆうやつや。あの両の手の人差し指だけで打ち込む方法な。小さな女の子が一生懸命五月雨式で入力しているのは実にほほえましい。


「どうや、使えそうか?」

「うん、これやったらうちにもできそう」

「使えば使うほど面白いのう」


 手に入れたばかりのおもちゃを使って遊ぶのは誰かて楽しい。ご多分に漏れずこの二人も検索にはまったようやな。


「それじゃしばらく使っといたらええわ」

「うん、おおきに!」

「ははは、礼を言うぞ、義隆!」


 実に楽しそうにパソコンへと群がる二人を見て、俺も最初はこんなんやったなぁと遙か昔を思い出してた。




 ノートPCの使い方を教えた後、もう大丈夫だろうと思って台所へと向かう。しゃべりすぎたからのどが渇いた。やかんから湯飲みへ番茶を入れて一気に飲む。

 あんまり大量に飲むと汗となって出るだけやからやめとくけど、やっぱりのどが渇いたときに飲むのが一番うまいな。

 と、そんなこと考えながら湯飲みを洗っていると、美尾ちゃんとお銀ちゃんの様子がおかしくなってることに気づいた。


「お、おぉ……」

「うわ、これなんなん?」


 さっきまではやたらと楽しそうにしていたのに、突然息を潜めるような雰囲気に変わってる。一体何を見てるんやろか?


「二人とも何見てるん……や?」


 台所から居間へと戻って二人の後ろからノートPCの画面を見ると、検索結果であろうウェブサイトが表示されていたんやけど……


「おい、お前らなんちゅーもんを見とるんや」

「うわっ、義隆!?」

「なぁなぁ、これなに?」


 こいつら、なんで大人のおもちゃの通販サイトなんて見とるんや!?


「お銀ちゃんやな?」

「何でいきなりわしなんじゃ!? 半分は美尾じゃぞ!」

「とりあえず検索結果のページを見せてみ?」


 そうしゃべりながら俺はノートPCを操作する。すると、検索ワードの欄には『おもちゃ 大人』とあった。お前らな……


「『おもちゃ』を入力したんが美尾ちゃんで、『大人』を入力したんはお銀ちゃんやろ」

「ようわかったな、義隆」

「ちょっ、美尾!?」

「やっぱりお銀ちゃんやないか。わかってて入力したな?」

「待て! それは誤解じゃ! ちょっと期待しただけなんじゃ!」


 早速ぼろが出てきてるやん。

 とりあえず俺は、今まで変態扱いされてた仕返しにお銀ちゃんを弄り倒した。もちろん泣かん程度にな。

 俺はそれをお雪さんが仕事から帰ってくるまで続けた。

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