第10話

「名前は仁、仁徳天皇のニンの字だ」

 えーと、どんな字でしたっけ?

 宇宙人に漢字を習う日本人。それでいいのか?

 真三が空中に指で字を書く。

 ああ、その字な。画数少ないから分かった。

 そんなことよりも。

 仁さん。めっちゃ距離近い。

「どーもー。初めてお目にかかりまーす。お姉さん可愛いーねー」

「よせよ。お前初対面なのに距離がおかしいんだよ」

 お酒ではなくソーダ水を飲んでいたマッチョが仁さんの襟をつかんで引き戻す。

「俺はカンゾー。親しみをこめてカンと呼んでくれ」

 白い歯をキラリとさせて笑みを見せた。腎臓と肝臓ね。ふむふむ。

 最後の一人がフッと笑う。

「賑やかな男達で申し訳ない。ハンスです。お見知りおきを」

「えーと、私のどこの器官を使ってます?」

「膵臓。早織の体液のバランスを調整する器官だと認識している。重要な部分をランゲルハンス島と呼ぶようだね。それにあやかった」

 はあ。随分昔に生物かなにかで習ったような気もしなくもない。絶海の孤島でイケメンと二人きりとかそんな妄想をした記憶がある。

「えーと、これで皆さんお揃いということでいいでしょうか?」

「まあ、そう言うことになるかな」

「それで、これからどうするのでしょうか?」

 そりゃまあね。私もイケメンが欲しいと星に願いましたけれども。こんなイケメンストレートフラッシュは想定してないわけでして……。

 真三がにこりと笑う。

「急いては事を仕損じる。確かあなたがたの諺だったと思う。私たちも完全な行動の自由があるわけではないからね。他の七強国のエージェントが動くのに対してリアクションを取るつもりでいる」

「兄さん。動きがあったようだよ」

 ラング君がでっかいテレビのスイッチを入れる。特撮映画で見るような怪獣と思しき荒い映像が映っていた。海にぷかぷかと浮いている。キャスターが興奮気味に何かをしゃべっていた。

「どうも、どこかの国が生物兵器を放ったみたいだね。我々に遺産を渡せばあの生物を止めるとこの国の政府に要求しているみたい」

「お、攻撃が始まるみたいだぜ」

 自衛隊が出動して攻撃を加えている。残念ながらほとんど効いていなかった。飛翔体は謎の光に当たって途中で爆発している。弾丸は怪獣の体で弾き返されていた。

 真三が立ち上がる。

「では、我々があの生物を仕留めようじゃないか。その実績を持ってこの国の政府と交渉しよう」

 そうか、頑張れ。高級シャンパンのボトルに伸ばそうとする私の手を仁さんが握る。

「お姉さん。祝杯はアレを倒してからね。酔っぱらわれちゃうと面倒だから」

 イケメン五人の視線が私に集まる。いやあ、ちょっと照れるんですが。ん?

「あれ? ひょっとして私も同行するんですか?」

 五人は一斉に頷く。

「俺らは早織から離れられないって言ったでしょ?」

 マジ? あの怪獣の近くに私も行くわけ? 無理無理無理。

 しかし、気が付けば私の体は車のシートに納まっていた。

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