第9話

「人見知りでね」

 真三の後ろからぴょこぴょこ頭が出たり入ったりするラング君は見た目は中校生ぐらいだろうか。

 全体的に色素が薄くて儚げな感じがする。

「早織の肺を介して実体化してしているんだ」

 それで、ラングなのね。スキューバやってアクアラング背負ったことあるから、これぐらいの英語は分かる。

 真三が正当派イケメンだとすると、ラング君は薄幸の美少年という感じ。

 ショタ趣味はないつもりだったけど、これは新しい世界が開けそうだ。

 ねえ、お姉さんとイケないことしちゃう?

 真三の肩の陰から見ていたラング君は私と目が合うと血の気の薄い頬を赤くして引っ込んだ。

「こう見えて、サポート役としては優秀でね」

「そんなことは無いよ兄さん」

 男の子にしてはやや高い声。骨格も細いし、女装もいけそう。

「早織の体がどれくらい回復しているか説明してやってくれ」

 真三の依頼にラング君は大きく息を吸うと話し始めた。

「膵臓はもうほとんど良くなっています。一番酷いのは肝臓ですね。だいぶ腫れはひきましたけど」

 そうかすまぬ。酒を飲み過ぎていたことを今猛烈に反省し始めているよ。

 イケメンと美少年に囲まれて幸せな気分になっていたが、あることに思い至った。

 これから三人で生活なの?

 というか、今後、膵臓と肝臓もやってくるわけ?

 逆ハーレムじゃん。

 でも、このワンルームの部屋に男四人は厳しくない? 今も私のプライバシーはほぼ無いけどさ。

 ちょうど呼び鈴が鳴った。出てみると大家のおばちゃんがむすっとした顔をして立っている。

「あんた、今までは目をつぶって来たけど、二人暮らしは困るんだよね。たまに訪ねてくるぐらいはいいけどさ」

「はあ、すいません」

「ちょっと苦情がきてるんだよ」

 そうは言いながら、首を伸ばして奥の方を見ようとしていた。

「気を付けます」

 殊勝な顔をして引き取ってもらう。

 部屋に戻ると真三とラング君が額を寄せ合って、何かを相談していた。

 いいわあ。目の保養になる。

 顔を上げると真三が言った。

「ちょっと急ぐ必要が出てきたようだ。次々と他の強国も工作員を送り込んできているらしい。悪いが、これからは我々がデバイスを探すのに協力するのに専念して欲しい」

「えーと、それってつまり?」

「仕事を辞めて、他の家に移り住んでもらう。ここでは十分な広さが無いし、早織も落ち着かないだろう」

「仕方ないなあ。まあ、いいよ」


 それから一か月後。

 いくつもの寝室がある平屋建ての豪邸のリビングルームに私は座っていた。

 真三とラングの他に、マッチョイケメンと眉の涼やかな怜悧な顔の男、ちょっとチャラい感じ男の五人が向かいのソファで思い思いの格好で寛いでいる。

「それでは、兄弟が揃ったことを祝して」

 細いフルートグラスが掲げられた。

 シャンパンの繊細な泡と香りが喉を滑り落ちる。

 久々の酒うめえ。でもそれどころじゃない。

 私はイケメンのフラッシュの眩しさに目を細めた。

 ねえ。これからどうなるわけ?

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