第8話
いざとなったら仕事を辞められる。こうなると強い。
私は真三の勧めもあって、会社での遠慮を一切かなぐり捨てた。
「無茶な仕様変更は対応できません。クライアントのため? アホですか? 営業のあんたが変更料金取って来てから言ってください」
「残業? 今日は無理です。先月の健康診断の結果見せましたよね。要医療ですよ。医者からは、目の前でしゃべっているのが不思議とまで言われてるんですからね」
「このミーティング意味あります? アジェンダも無しで始めて時間の無駄でしょ。リスケしましょ。リスケ」
「飲み会ですか? 今日は予定があるのでいけません。来週? うーん、ちょっと分からないですねえ」
勝手に酒飲んだら殺されるんで。
好き勝手に言っていたら、首をほのめかされたのでにっこりと笑顔で返す。
「私の後任見つかったんですね。こんな薄給なのに要求水準の高い仕事に来てくれる人いるんだ。今のプロジェクト間にあうといいですね」
まあ、私一人なら無理だったけど、すぐ側に真三がいるのが分かっていたので心強かった。
仕事の後が忙しいのも本当だ。
夕食前に公園でジョギングと運動をさせられている。一人なら絶対にやらない。
でも、横を走るのがイケメンなのだ。
すれ違った女性たちの羨望の目が心地よかった。
背中合わせになって腕を組んで体を伸ばす整理体操はめっちゃ体が密着するし。
公園から帰るときは手を恋人つなぎで歩いている。
なんというか現実感がない。
そんな中、友達のアケミから電話があった。
「ちょっと、今日あんたの会社の近くをたまたま通りかかったら、めっちゃ凄い爽やか年下イケメンとランチしていたじゃん。アレなんなの?」
うーん、説明が難しいんだよねえ。
「ちょっと同棲中みたいな」
「はあ? あんなSSRどこでゲットしたのよ?」
「空から降って来たというか、なんというか」
「そんな劇的な出会いをしたってわけね。正直羨ましい気持ちも強いけど、とりあえずおめでとう」
「ありがとね」
「なんか、早織も一時期に比べると輝いていたように見えたわよ」
「そうかなあ」
えへへ。
「あ、ごめん。夕飯ができたみたい。また今度ね」
「あのイケメンに夕飯作らせてるの? あきれた。まあ、いいわ。今度私にも会わせてね」
「うん、じゃあ、またね」
確かに、ちょっと甘え過ぎな気もするな。いい加減呆れられるかもしれない。
その疑念を口にすると手を振っていなされた。
「そんなことを気遣うよりも健康を回復してくれた方がありがたい」
「だいぶ、良くなってきたと思うんだけど」
肌のハリと艶も戻ったし、動悸息切れもしなければ、背中の痛みも無くなった。
「そうだね。じゃあ、ラング、あいさつを」
真三の後ろからぴょこんとプラチナブロンドの髪の毛がのぞく。
私が視線を向けるとさっと引っ込んだ。
「初めまして」
蚊の鳴くような声がする。か、可愛いっ!
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